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ECBの2月政策理事会のAccounts-higher and longer

2022/03/04

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はじめに

ECBは前回(2月)の政策理事会で金融政策の現状維持を決定したが、席上ではインフレに対する警戒感が目立ったが、会合後に深刻化したウクライナ情勢が金融経済に与える影響も考慮すると、政策運営を巡る環境は一層複雑化している。

経済情勢の評価

レーン理事は、昨年第4四半期に実質GDPがCovid-19前の水準に回復した点を歓迎しつつ、オミクロン株の感染拡大や(改善の兆しはみられるが)供給制約の継続、エネルギー価格の高騰によって、足許で回復のモメンタムが低下した点を確認した。

雇用については、失業率が既往ボトムに低下した一方、総労働時間はCovid-19前の水準を下回っている点で、域内国での雇用支援策の効果も大きいと評価したほか、未充足求人と失業者の比率で見た雇用のミスマッチも、米国より顕著に低いと指摘した。

その上で、先行きのリスクは上下にバランスしているとの評価を維持した。上方要因として、Covid-19の不確実性が低下した点や家計が貯蓄を早期に取り崩す可能性を挙げた一方、下方要因として、地政学的リスクの高まりやエネルギー価格の上昇による実質購買力の低下、供給制約の継続や(米国の利上げ等による)国際金融環境のタイト化の可能性を挙げた。

理事会メンバーもこうした評価に幅広く(broadly)合意した上。その上で、2022年中には需要の回復や財政・金融政策の効果によって力強い回復に戻るとの見方を示した一方、供給制約の長期化の懸念も示した。雇用もレーン理事と同様な点を指摘した上で、熟練労働力の不足が深刻化しつつ拡大した点も指摘し、移民や転職の回復が十分でないなど固有の課題が示唆された。

先行きのリスクも上下にバランスしているとの評価に合意しつつ、家計の貯蓄がオミクロン株の感染拡大でさらに増加した可能性を指摘し、高水準の企業収益とともにエネルギー価格の高騰に対するバッファーとしての役割に期待を示した。

物価情勢の評価

レーン理事は、インフレ率上昇の約半分がエネルギー価格の寄与によると説明しつつ、食品価格の上昇も輸送費や肥料価格の影響で加速した点を確認した。エネルギー以外の工業製品(NEIG)の価格上昇も供給制約の影響を受ける財以外に拡大しているほか、中間財の輸入価格の高騰が波及する点に懸念を示した。

もっとも、米国に比べて住居費の上昇や総需要の強さ等の面で顕著な違いがあるほか、ユーロ圏では契約賃金の上昇が抑制されるなど二次的効果は生じていないとの理解を示した。さらに、エネルギーの対外依存度の高いユーロ圏では、輸入インフレが交易条件の悪化をもたらす点を確認し、既にGDPの2.5%ppの影響があるとの推計を示した。

また、長期のインフレ期待が上昇した事実も、2%への再定着として歓迎すべき動きと評価し、不安定化の懸念を否定した。その上で、物価の先行きに関するリスクは上方に傾いているとの見方を維持し、地政学的リスクによるエネルギー価格の上昇や供給制約の長期化、長い目で見た賃金上昇への波及を要因として挙げた。

理事会メンバーもこうした評価に概ね(largely)合意し、域内国間でのインフレ率がエネルギー政策の違いによってばらついている点に注意を喚起した。その上で、12月の執行部見通しが大幅な上方修正にも拘らず、結果として過小評価であった点を取り上げ、不確実性の高さを象徴するとの理解を示す一方、2%を超えるインフレが本年中に持続する可能性も指摘した。また、執行部のモデルについて、長期的関係に依拠する合理性、総需要の増加や労働力のslackの解消見通しとの整合性、エネルギー価格を先物価格により仮定することの妥当性で疑問を示した。

さらに、すべて(all)のメンバーがインフレ率の高騰に懸念を示し、要因が一時的かどうかでなく、需給や域内外の観点での識別が重要との理解を示した。その上で、インフレ率の加速の大半がエネルギー価格に起因し、交易条件の悪化を招いた点を確認したほか、内需によるインフレ圧力や二次的効果は生じていないとの考えを示した。

一方で、賃金が遅行指標である点に注意を喚起し、サーベイ調査が顕著な上昇を示唆している点も指摘した。加えて、多く(many)のメンバーがインフレの高騰が長期化するリスクを指摘し、そうなれば要因に拘らず二次的効果を招くとの理解を示した。また、長期のインフレ期待の2%への収斂を歓迎しつつ、賃金上昇への波及や需要回復の加速等によって、先行きのインフレには上方リスクがある点を確認した。

金融政策の運営

レーン理事は金融政策の現状維持を提案しつつ、柔軟性と選択肢の維持が重要である点を確認した。

理事会メンバーは、緩和的な金融環境が維持されている点を確認しつつ、海外要因が市場金利の上昇を招いた点を指摘した。その上で、インフレの環境が12月時点に比べて変化した点や政策手段に関する説明を変更すべき点に幅広く(broadly)合意したほか、利上げに関するフォワードガイダンスがより短期に達成可能との見方を幅広く(widely)共有した。

さらに一部(some)のメンバーは、既にフォワードガイダンスは達成済と評価し、資産買入れの継続は物価情勢と整合的でなく、域内の新規発行国債の相当部分を吸収していると指摘した。さらに、政策判断はあくまで理事会の判断に基づくべき点や正常化のペースに条件を付与すべきでない点などを挙げつつ、最早金融政策の正常化の遅延がリスクであると主張した。

これに対し他(other)のメンバーは、インフレ期待には不安定化の兆しはなく、フォワードガイダンスの達成も次回(3月)の見通しを通じた包括的評価によって判断すべきとの考えを確認した。また、短期的な動きに過剰反応すべきでないほか、今回(2月)時点でのスタンス変更は景気回復を阻害すると指摘した。

その上で、理事会メンバーは金融政策の緩やかな正常化が適切との意見に幅広く(broadly)同意した。また、今後の経済指標や地政学的リスクに即した柔軟な運営の重要性や、金融政策でインフレを抑制するには回復期にある需要への影響を伴う点を確認した。併せて、フォワードガイダンスの維持に合意した一方で、今後の政策運営に関する柔軟性を確保するため、2023年にインフレ率が2%を下回る可能性が顕著に低下したなど、物価動向に関する説明振りを変更する必要性も強調した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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