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FRBのパウエル議長の記者会見- front-loading or even

2022/03/17

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はじめに

今回(3月)のFOMCは政策金利の25bpの引上げを決定した。同時に、来年にかけてのインフレ率見通しを大きく上方修正するとともに、dot chartは来年以降に政策金利が中立水準を上回る可能性を示した。

経済情勢の評価

パウエル議長は、冒頭説明で、米国経済がマクロ政策の下支えと家計のバランスシートの健全さによって力強い拡大を続けており、特に労働市場は、失業率の低下や未充足求人の低下、賃金の上昇等の面で良好なパフォーマンスにある点を強調した。もっとも、ウクライナ情勢による米国経済の影響は極めて不透明であり、短期的には輸出の抑制等を通じて下方リスクになりうる点を認めた。

実際、FOMCメンバーによる新たな実質GDP成長率見通しは、 2022~24年にかけて+2.8%→+2.2%→+2.0%となり、2022年が前回(12月)対比で1.2ppの大幅に下方修正された(2023年以降は不変)。パウエル議長は、供給制約の長期化と商品価格全般の上昇圧力の残存が主因と説明した一方、利上げの影響はラグを伴うとして、関係は希薄であるとの見方を示唆した。

物価情勢の評価

パウエル議長は、同じく冒頭説明で、財の供給制約や労働市場のタイトさに加えて、ウクライナ情勢がインフレ圧力を一層高める可能性を指摘した上で、物価の高騰が食品や住居、交通のコスト上昇を通じて経済的弱者の負担を増加している点を認めた。

FOMCメンバーによる新たなPCEインフレ率見通しは、2022~24年にかけて+4.3%→+2.7%→+2.3%となり、前回(12月)に比べて、各々1.7pp、0.4pp、0.2ppと足元を中心に顕著に上方修正された。つまり、見通し期間を通じて目標を超えるインフレが継続する可能性を示唆した。

記者会見でパウエル議長は、財価格の上昇圧力には緩和の兆しもみられるが、広範なサービス価格に上昇圧力に広がっているとの見方を示した。また、複数の記者がインフレが減速する展望を質したのに対し、インフレ率が本年第1四半期にピークを打つと想定していたが、ウクライナ情勢による商品価格の高騰等によって、ピークは年後半に後ずれしたとの理解を示した。

その上で、パウエル議長は、商品価格の水準効果の剥落、財の供給制約の緩和、労働参加率の改善等がインフレ圧力を徐々に緩和した後、利上げによる需要の抑制も効果を発揮すると説明した。労働市場については、コロナ前には労働参加率の改善傾向がみられた点に言及し、コロナによる影響が緩和していけば、極めて高水準の未充足求人が解消していく形で需給のミスマッチが解消し、賃金の上昇圧力も低下するとの見方を示した。

一方、別の記者が賃金上昇の評価を質したのに対し、パウエル議長は、家計の生活水準の改善を意味し、望ましい現象であるとしつつも、現在の上昇ペースは2%のインフレ目標と整合的でなく、生産性上昇との関係でも持続的でないとの理解を示した。

金融政策の判断

パウエル議長は、今回(3月)のFOMCで25bpの利上げを決定した上で、経済状況は急速に変化しうる点を踏まえて、今後も俊敏(nimble)に金融政策を調整していく考えを示した。FOMCメンバーによる新たなdot chart(メディアン)は2022~24年末の政策金利を1.9%→2.8%→2.8%と予想している。前回(12月)には0.9%→1.6%→2.1%であっただけに全体として大幅に上方修正され、2023~24年には中立金利(2.4%)を上回る水準が維持される可能性が示された。

記者会見では、多くの記者が政策運営がbehind the curveに陥ったとの懸念を示した。パウエル議長も、現在の事態を完全に予見できれば、より早期に利上げに着手した可能性を認めた一方で、FRBはインフレの抑制に向けて、利上げと保有資産の削減という強力な政策手段を有しているとの考えを強調した。

また、利上げが経済活動に影響し始めるのは2023年以降になるとの見方を示しつつ、dot chartはあくまで予想に過ぎないが、これによれば2023~24年には政策金利が中立水準を上回るだけに、金融引き締めの効果を発揮するとの期待を示した。

さらにこの点に関しては、FRBによる「平均インフレ目標」の採用が利上げ開始を遅延させたとの指摘もあったが、パウエル議長は、「平均インフレ目標」もインフレ率が高騰するまで政策金利を低位に維持することを意図した訳ではないと説明し、こうした懸念を否定した。

一方で、別の複数の記者が利上げによる経済活動のover killのリスクを指摘したのに対し、パウエル議長は、インフレが多くの人々の負担になっているとの認識を確認した上で、米国経済の力強い拡大は利上げの影響を十分吸収しうるとの見方を強調した。さらに、雇用が持続的に拡大する上では、物価安定が重要な前提であるとの考えを再三示し、デュアルマンデートの間でのトレードオフの深刻さを否定した。

また、この間の株価の調整や長期金利の上昇等によって、既に金融環境のタイト化が進行しているとの指摘に対しては、パウエル議長もそうした状況を確認した上で、金融政策の「正常化」に即して、金融環境も「正常化」すべきとの考えを示した。加えて、金融環境の変化は、政策効果を経済活動に波及させる重要な経路である点を確認した。

一方、利上げのペースについては、パウエル議長は具体的な言及は避けたものの、FOMCとして、前倒しで進めるか平均的なペースとするかをあらかじめ決めている訳ではなく、今後のインフレ動向に即して変化しうると説明した。

さらに、別の記者が、dot chartに沿った利上げを行っても、相当な期間に亘って実質の政策金利がマイナスのまま推移する恐れを取り上げたのに対し、パウエル議長も、FOMCとしてこの点に注意を向けている点を認め、インフレ圧力を早期に抑制するため、利上げと保有資産の削減の双方を進める考えを確認した。

その保有資産の削減については、今回(3月)のFOMCでは正式な決定や詳細な方針の公表を見送った。パウエル議長は具体的な内容(parameter)について議論が進んだので、次回(5月)会合を機に開始する考えを示した(この点は声明文にも明記されている)。詳細は議事要旨に掲載するとしたが、経済や金融環境を踏まえつつも、前回(2017年から)に比べて相当に早いペースになることも示唆した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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