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5月FOMCのMinutes-later this year

2022/05/26

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はじめに

5月のFOMCでは、物価には上方リスク、景気には下方リスクがあるとの見方が共有された。金融政策については、今後2回の会合で50bp利上げを行う考えが幅広く支持されたほか、中立的なスタンスへと迅速に到達した上で、年後半に政策効果を見極める可能性が示唆された。

経済情勢の評価

FOMCメンバーは、純輸出や在庫投資を主因に第1四半期の実質GDP成長率はマイナスに転じたが、景気拡大のモメンタムは維持されており、本四半期はプラス成長に回帰すると評価した。

その後は、金融政策の効果や供給制約の緩和、労働参加率の上昇、財政刺激の減退等によって、需給の不均衡が解消に向かうとともに経済成長率が長期平均付近まで減速するとの見方を示したが、そのタイミングや程度は不確実との見方を維持した。

このうち家計については、資産の健全さや豊富な雇用機会、コロナに対する頑健性等を背景に支出の拡大を予想した。企業についても、消費需要の強さや在庫復元等のプラス要因を指摘した一方、人手不足と供給制約が支障となっており、後者の解消にはなお時間を要するとした。

この間、雇用は多様な指標からみて極めてタイトであり、当面はこうした状況が続くとした。もっとも、数名(a few)のメンバーは、コロナによる就業の抑制がprime-ageを中心に緩和した兆しがある点やインフレによる実質購買力の低下も労働供給の回復に寄与しているとの理解を示した。

これらを踏まえ、先行きの不確実性が引続き高い点を確認したほか、多くの(variety of)メンバーはロシアによるウクライナ侵攻と中国のゼロコロナ政策による下方リスクを指摘した。

物価情勢の評価

FOMCメンバーは、インフレ圧力が広範な財やサービスに生じており、高インフレと先行きの不確実性が家計の実質購買力を毀損し、企業の生産や投資の計画を困難化していると評価した。

この間、ほとんど(most)のメンバーは、企業がコスト上昇を消費者に転嫁していると指摘した一方、数名(a few)のメンバーは一部で高価格が売上げの減少を招いていると指摘した。また、多く(a number of)のメンバーは、足許の物価指標を基にインフレがこれ以上悪化しない可能性を示唆しつつ、インフレ圧力は引続き強く、インフレがピークアウトしたとの判断は尚早と指摘した。

インフレ期待については、数名(several)のメンバーが、家計やエコノミスト、市場の中長期の期待はインフレ目標と概ね整合的であり、金融政策の対応や供給制約の最終的な緩和とともに、インフレ率を目標に収斂させる動きに資するとの考えを示した。

もっとも、インフレのリスクは上方に傾いており、エネルギー価格の上昇や供給制約がロシアのウクライナ侵攻や中国のゼロコロナ政策によって悪化する恐れに懸念を示した。加えて、賃金上昇率が2%を上回っている点や家計の健全な資産が消費支出のモメンタムを予想以上に強める可能性も指摘された。これらを踏まえ、数名(some)のメンバーは中期のインフレ期待が不安定化するリスクを指摘した。

金融安定の評価

5月FOMCは、SEPの公表がない一方、金融安定の定例評価を行う会合に該当する。執行部は、市場金利や株価の面で金融環境が顕著にタイト化したほか、モーゲージ金利が2010年以来の高水準に達したが、企業や家計の資金調達は減退していないと評価した。

その上で、金融システムは全体として頑健性を維持していると評価した。もっとも、国際商品市場が不安定化した場合に実体経済に影響を及ぼす点に注意を示したほか、商業不動産にも過大評価が残存しているとした。一方、住宅価格の既往の上昇に関しては、与信条件の適切さや借り手の良好さ、home equityの健全さなどを挙げ、過去とは状況が異なると評価した。レバレッジについても、一部のノンバンクを除いて抑制されているとの見方を示した。

FOMCメンバーは、金融引き締めが米国債市場の流動性や民間部門の金融仲介に与える影響を注視すべきと指摘した。加えて、(a couple of)のメンバーは、国際商品市況に連動する金融市場のリスクが、価格高騰とボラティリティの上昇によって高まっているとの見方を示し、こうした部門での取引やリスク管理に対する監督当局の監視が完全とは言えない点に留意を示した。

金融政策の運営

FOMCメンバーは全会一致で50bpの利上げに合意した。また、インフレ目標の達成に向けて利上げの継続が必要との方針にも同意し、適切な引き締めが供給制約の最終的な緩和と相まって中長期のインフレ期待の安定に資するとの判断を示した。

また、物価安定の回復に向けて政策手段を行使するとの強いコミットメントと決意にも全メンバーが同意し、政策金利の引上げと保有資産の削減の双方の手段によって、政策スタンスを迅速に中立化すべきとの考えにも全メンバーが同意した。

その上で、ほとんど(most)のメンバーは、今後2回(next couple of)の会合で50bpの利上げを行うことが適当との判断を示したほか、多く(many)のメンバーは、FOMCによるコミュニケーションが市場による政策見通しをFOMCの方針に沿った形でシフトさせ、金融環境をタイト化させる上で有用であったとの評価を示した。

保有資産の削減についても、6月初から開始し、3か月後には巡航速度(米国債が600億ドル/月、MBSが350億ドル/月)とする執行部の案に全メンバーが合意した。また、多く(a number of)のメンバーは、こうした取組みが十分に進捗した後には、保有資産を長期的に米国債に限定することを展望し、MBSの市場売却を検討すべきと指摘した。もっとも、その場合にも十分な予告が必要としたほか、数名(several)のメンバーは、保有資産の削減自体が金融環境に想定外の影響を及ぼす可能性を指摘した。

金融政策の今後のスタンスについては、経済見通しに関する不確実性が高い点を踏まえて、リスクマネジメントの観点での評価が重要との判断を示した。その上で、多く(many)のメンバーは、金融緩和を迅速に解除することは、金融政策の引締め効果と経済情勢に照らしたその後の政策対応の必要性とを、本年後半(later this year)に評価する上で良い状況をもたらすとの考えを示した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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