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FRBのパウエル議長の記者会見-policy guidance

2022/06/16

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はじめに

今回(6月)のFOMCは政策金利を0.75%引上げ、1.5~1.75%のレンジとすることを決定した。同時に公表されたFOMCメンバーの見通し(SEP)は、2022年の経済成長率を下方に、インフレ率を上方に各々修正した一方、中立水準を明確に超える政策金利を維持することで、2024年にはインフレ目標と安定成長が可能との見方を示した。

経済情勢の判断

パウエル議長は、冒頭説明で、第1四半期に実質GDP成長率がマイナスとなったが、足許で消費を中心に持ち直しているとの見方を示す一方、設備投資や住宅投資には減速感もみられると説明した。もっとも、労働市場では雇用の拡大が続き、未充足求人が高水準にあるなど、需給がタイトである点も確認した。

一方、今回の新たな実質GDP成長率の見通しは、2022~2024年にかけて+1.7%→+1.7%→+1.9%となり、前回(3月)に比べて、各々1.1pp→0.5pp→0.1ppと前半を中心に下方修正となった。「長期」の実質GDP成長率見通しは+1.8%なので、見通し期間を通じて巡航速度並みの成長が予想されたことになる。この点を踏まえると、新たな見通しは景気減速を生じないようにしつつインフレ目標を達成するには、どこまで利上げできるかというロジックに基づいて「逆算」されたことが推察される。

質疑では一部の記者が消費や住宅投資の減速の兆しを質した。 パウエル議長は、FRBとして消費動向を注視している点を確認した上で、経済活動の回復によって消費パターンが変化している可能性を指摘したほか、ガソリン価格の高騰や株価の下落による影響はあるとしても、家計の購買力は潤沢との評価を確認した。住宅市場についても金利上昇の影響を注視している点を確認しつつも、これまで金利水準は極めて低位であったほか、生活指向の変化による住宅需要は根強いとの評価を示した。

物価情勢の判断

パウエル議長は、冒頭説明で、高インフレが経済的弱者を中心に大きな負担となっている点を確認し、物価安定の早期の回復の重要性を強調した。その上で、ロシアのウクライナ侵攻や中国のゼロコロナ政策によって供給制約が一層悪化するとともに、経済活動の再開による需要の増加が広範な財やサービスの価格上昇を招いているとの見方を確認した。

一方、今回の新たなPCEインフレ率の見通しは、2022~2024年にかけて+5.2%→+2.6%→+2.2%となり、前回(3月)に比べて、 2022年は0.9ppの上方修正となった一方、2023~24年は各々0.1ppながら下方修正されている。2024年にかけてインフレ目標に収斂していくパターンは、上記のように政策金利の予想との関係で「逆算」されたことを示唆している。

質疑では一部の記者が総合とコアのインフレ率の関係を取り上げた。パウエル議長は、政策目標は総合インフレ率であり、インフレ期待に対して相対的に強い影響を与えるとした一方、コアインフレ率は政策運営に対する感応度が相対的に強く、先行きの総合インフレ率に対する先行性も有するとの理解を示した。

その上で、足許ではエネルギーや食品の顕著な価格上昇によって総合インフレ率が高騰している一方、価格上昇の範囲が拡大し、インフレの基調も上昇している点を確認した。実際、今回の新たなPCEコアインフレ率の見通しは、2022~2024年にかけて+4.3%→+2.7%→+2.3%であり、見通し期間の後半では総合インフレ率との乖離が解消することが想定されている。

政策決定と今後の運営

パウエル議長は、冒頭説明で、経済活動が底堅いうちに需要の抑制を通じてインフレを鎮静化させることが重要との判断を示し、機敏(nimble)な政策対応という原則に沿って0.75%の利上げを決定したことを説明した。また、今後も利上げを継続することが必要との方針を確認するとともに、次回(7月)会合でも0.5%ないし0.75%の利上げが適切との考えを示した。

実際、今回の新たなdot chartによれば、2022~24年の各年末の政策金利は3.4%→3.8%→3.4%と、前回(3月)に比べて、各々1,5pp→1.0pp→0.6ppの大幅な上方修正となっただけでなく、全期間を通じてFOMCの推計する中立金利(長期的な政策金利の水準)である2.5%を明確に超えるとの想定を示した。

質疑では、前回(5月)会合で0.5%利上げを予告していたこととの整合性の問題を複数の記者が取り上げた。パウエル議長は、政策決定はdata dependentに行うとの原則を確認したほか、政策決定に関して予告(guidance)を行うことは、政策効果の円滑な波及によって有用と主張し、この間に金融環境のタイト化が生じたことを所期の効果として指摘した。

一方で、足許でCPIインフレ率が想定外に高騰し、ミシガン大消費者信頼感調査でインフレ期待が顕著に上昇した点にも言及し、 0.75%利上げの選択肢が今回(6月)会合に近いタイミングで浮上したことも示唆した。この点は、予て米国市場で指摘されていたように、FOMCのblackoutとの関係でコミュニケーションを難しくした可能性がある。

また、多くの記者が年内の利上げペースを質したのに対し、 パウエル議長は明言を避けたが、次回の0.5%ないし0.75%の利上げを前提とすれば中立水準に近づくことも確認し、front-loadingのスタンスを示唆した。上記のdot chartを前提とすれば、年内にさらに1.75%程度の利上げが必要だが、7月と9月でその大半をこなすことを意味する。

同様に多くの記者が取り上げたのは、利上げの最高到達点と景気への影響である。パウエル議長は、インフレを需要面から抑制するにはイールドカーブの全体に亘って実質金利がプラスである必要があるとの考えを示したほか、労働市場は力強く拡大しているだけに、トレードオフは大きな問題ではないとの理解を示唆した。実際、今回の新たな失業率の見通しは、 2022~2024年にかけて+3.7%→+3.9%→+4.1%となり、前回(3月)に比べて上方修正されたが、水準は依然として極めて低い。

パウエル議長も、ウクライナ侵攻の長期化を含めて、経済と物価の先行きには大きな不透明性が残存することは認めたが、data-dependentな政策運営によって、景気を維持しつつ物価安定を回復することに自信を示した。その上で、長い目で見た場合に、コロナ前のような構造的な低インフレ環境が復活するのか、新たな高インフレ環境に移行したのかは、今後に見極める必要があるとも付言した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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