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FRBのパウエル議長の議会証言-需給不均衡の背景

2022/06/23

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はじめに

FRBのパウエル議長は、連邦議会上院(銀行、住宅、都市問題委員会)で金融政策報告(MPR)に関する議会証言を行い、インフレ圧力が当面は継続する下で利上げの継続が必要という先日のFOMCで示唆した考えを確認した。議員による質疑でも、インフレ対応が焦点となったが、財政政策やエネルギー政策を巡る両党のスタンスの違いも主要な論点となった。

インフレの原因

民主党側は、ブラウン委員長やウォーレン議員、ワーナー議員に代表されるように、インフレ率の高騰が主としてコロナ後の供給制約や、ロシアのウクライナ侵攻、中国のゼロコロナ政策といった供給側の要因に起因するとの理解を示し、パウエル議長による冒頭説明で示された理解を共有した。

一方、リード議員やホーレン議員はガソリン価格の高騰が幅広い国民に影響を与えている点に懸念を示した上で、石油業界の寡占的な体質による面が強いとの理解を示すとともに、主要企業は増加した利益を精製能力の増強でなく、自社株買い等に費やしているとの批判を展開した。

さらにリード議員は、食品価格の高騰も肥料代や燃料費、輸送費の高騰といった供給側の要因による面が強い点を確認しつつ、例えばミートパッカーのような業界も寡占構造にあると指摘し、ここでも産業構造が影響しているとの主張を展開した。

パウエル議長は、これら一連の議論に対して、多くの産業で寡占構造が存在する点には理解を示したものの、独占禁止当局が対応すべき問題として、それらの是非に関する評価を避けた。

これに対し、共和党側が取り上げた論点も大きく二つに分かれた。

まず、シェルビー議員やティリス議員はマクロの需給不均衡が主因であるとの理解を示し、同じくパウエル議長による冒頭説明で示された理解を共有した。もっとも、過剰需要の主因については、バイデン政権による度重なる大規模な財政出動にあると断じ、少なくとも昨年中盤には経済が正常化しており、その後の財政出動は不要であったと主張した。

もちろんパウエル議長は、財政政策の適否に関する直接的なコメントを避ける一方、金融政策は財政政策の運営を所与として対応する考えを確認したが、財政出動がなければ物価安定のための金融政策運営はより容易であった可能性も認めた。

一方で、ラウンズ議員やケネディ議員は、供給制約がインフレ高騰の主因であることを確認した上で、バイデン政権の下で環境対策の強化の観点から製油所の能力拡張が抑制されたり、原油のパイプラインプロジェクトが差し止められた点を取り上げたことが国内のエネルギー価格の高騰に繋がったとの批判を展開した。

言うまでもなく、パウエル議長はこうした主張への直接的なコメントは避け、金融政策はあくまでもマクロの需給均衡の是正を目指して運営する考えを確認した。

利上げによる経済への影響

パウエル議長は、冒頭説明の中で、政策金利の引上げは金融環境のタイト化を通じて実体経済の活動を抑制するとの理解を確認した。また、実際に足許で金融環境が明確にタイト化し、米国債のイールドカーブが全体としてスティープした点を、金融市場がFRBの政策反応関数を適切に理解していることの証左として前向きに評価した。

民主党側は、ブラウン委員長やウォーレン議員に代表されるように、利上げの継続が経済的弱者を中心に深刻な影響を及ぼす点に懸念を示し、特に収益性の低下した企業が雇用の拡大に消極化する結果、労働市場に影響を及ぼす恐れを挙げた。

パウエル議長は、雇用への影響だけでなく、耐久消費財の購入やドル高による企業の競争力の低下を含め、利上げが経済活動に広範な影響を与える点を認めた。もっとも、労働市場はむしろ供給不足にあるなど底堅い点を指摘し、そうした状況のうちに利上げを進めることの合理性を示唆した。

同様にテスター議員は、利上げの継続が農業州に相対的に深刻な影響を及ぼすとの懸念を示すととともに、今後の利上げの展望を質した。パウエル議長は先般の記者会見での説明を踏襲し、中立金利に達した時点で金融経済に対する影響を評価する考えを示した。もっとも、最新のdot chartによれば、本年末時点の政策金利は中立水準を明確に超える見通しである点も付言した。

一方で共和党側は、シェルビー議員やラウンズ議員がFRBのインフレ見通しについて、「一時的」な上昇との見方を含めて明確な誤りがあったとの批判を展開するとともに、イエレン財務長官と同様に判断ミスを認めるべきと主張した。

これに対しパウエル議長は、コロナからの経済活動の再開やサプライチェーンの支障など、前例のない事態が生じたことを挙げて弁明した。また、サプライチェーンの構造や特徴に関する調査に注力した結果、現在はより適切な把握が可能になっているとの見方も付言した。

このほか、ラウンズ議員は、人々のインフレ期待に影響を及ぼすのは総合インフレ率(cost of livingに関連)であるとして、FRBがコアインフレ率を注視する姿勢を批判した。パウエル議長は、総合インフレ率の重要性を認めた上で、コアインフレ率は将来のインフレ率に対する先行性が高いとし、双方ともにモニターすることの意義を強調した。

政策運営の評価

共和党のティリス議員は、MPRに今回も掲載されている政策金利の設定ルールに関する分析を引用しつつ、テイラー・ルールを含む多くのルールは現在の最適な政策金利が6%のように高い水準にあると示唆するだけに、FRBの利上げは不十分と主張した。

これに対しパウエル議長は、FRBは政策金利の設定ルールを常時参照しているが、厳密にルールベースの政策運営を行ったことはない点を確認した。その上で、こうした理論的なルールは金融環境のタイト化に伴う政策効果の波及メカニズムなどを考慮していない点で課題が残るとの理解を示した。

また、共和党のハガティ議員は、長期金利の上昇に伴う評価損の発生が量的緩和にとって最大の問題であるとの理解を示した。 パウエル議長は量的緩和の下で多額の収益を国庫に納付した点を説明した一方、損失の発生によって政策運営が制約を受けることはないとの考えを強調した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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