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6月FOMCのMinutes-highly attentive

2022/07/07

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はじめに

6月のFOMCでは、既往の利上げによる金融環境のタイト化を中心とする政策効果を確認しつつ、インフレ圧力の継続やインフレ期待の不安定化のリスクを踏まえて、利上げと保有資産の削減を継続する方針を確認した。

経済情勢の判断

FOMCメンバーは、第1四半期のマイナス成長の後、全体としては経済活動が回復していると評価した。

個人消費は、バランスシートや雇用の強さに支えられ、財からサービスへの支出シフトを伴いつつ、引続き頑健との見方を示した。もっとも、数名(several)のメンバーは、実質購買力の低下等により拡大ペースが減速し始めたと指摘した。また、金利上昇が住宅販売に影響するとの見方も共有された。

企業も売上げは引続き堅調ながら、数名(some)のメンバーが先行きの見方の慎重化を示唆した。また、労働力不足や供給制約が需要増への対応を妨げており、エネルギーや農業では売上げ増に拘らず設備投資が制約されているとの説明もあった。

この間、労働市場では、失業率や未充足求人などからみて広範な部門で需給が極めてタイトな状況が続いているとの見方が共有された。また、数名(several)のメンバーは、コロナ期の異例に多数の早期退職のため、当面は労働参加率の顕著な回復は見込めないと指摘した。

一方で、労働需給の不均衡も金融引締めを主因として時間の経過とともに改善するとの見方も共有され、結果として失業率が幾分上昇するとしても、主たる影響は未充足求人の減少に現れるとの見方が示された。

その上で、FOMCメンバーは、供給制約の継続や金融環境のタイト化を主因に2022年の実質GDP成長率見通しを下方修正したほか、ウクライナ侵攻、中国のゼロコロナ政策の影響などによって、先行きの不透明性は極めて高く、かつリスクも下方に傾いている点を確認した。

物価情勢の判断

FOMCメンバーは、足許で高インフレが続いている点を確認しつつ、総需要の強さや供給制約のためにそうした状態が想定以上に長期化するとの見方を共有した。また、高インフレが食品やエネルギー、住居の価格上昇を通じて、経済的弱者に負担を及ぼしている点に懸念を示した。

この間、名目賃金の顕著な上昇も続いているが、数名(some)のメンバーは、既往の賃金上昇によって人員の確保が進んだ結果、賃金上昇には減速の兆しがあるとの見方を示した。

一方、インフレ期待は、執行部の推計による共通指標やミシガン大サーベイの長期期待等が幾分上昇した一方、市場ベースでは中期が低下した。また、家計やエコノミスト、市場のサーベイの多くは長期のインフレ期待がインフレ目標と概ね整合的であるにも拘らず、多く(many)のメンバーは長期のインフレ期待が上方に乖離し始めた可能性に懸念を示した。

その上で、FOMCメンバーは、足許の高インフレと供給制約の長期化を主因に2022年のPCEインフレ率見通しを引き上げたが、労働参加率の改善や財政政策の影響の減衰もあって需給の不均衡は解消していくとしても、その時期は不透明との見方を共有した。また、リスクは引続き上方に傾いている点も確認した。

金融環境の評価

執行部説明では、国内のクレジット市場が総じて緩和的であった一方、金融政策が金融環境をタイト化している点も確認した。

米国債利回りは、金融政策見通しの変化を映じて実質金利を中心に上昇した。株価は、企業収益や経済の見通しの悪化を主因に不安定化し、社債利回りのスプレッドも拡大した。この間、短期市場は安定を維持し、レポ金利は、TB発行の減少やMMFによる短期運用の拡大により、FRBのRRP金利に比べて低下した。

家計や中小企業を含む企業の資金調達は順便さを維持し、低格付のCPやレバレッジローンの発行は減少したが、銀行の商工業ローンや商業不動産ローンは増加した。また、ほとんどの借り手にモーゲージ借入れが確保されたほか、エクイティローンも10年振りに増加した。消費者ローンも堅調であったが5月には減速した。

ただし、社債や銀行貸出を中心に資金調達コストが上昇し、モーゲージ金利は2010年以来の高水準に達した。社債やレバレッジローンのデフォルトは低水準だが、格下げが格上げを件数で上回ったほか、銀行の不良債権比率は引続き低位ながら、第1四半期には貸倒引当金を積み増す動きがみられた。

金融政策の運営

これらの議論を踏まえて、6月FOMCは75bpの利上げと保有資産の圧縮を決定したほか、今後も利上げの継続が適切であるとし、次回(7月)会合では50bpないし75bpの利上げを示唆した。

また、本年後半には政策金利が中立近傍に達することで、その後の利上げペースや経済情勢に照らして必要な政策金利の水準を決めるのに良好な状況が出現するとの見方を共有した。また、そうした判断が今後の経済指標と経済見通しに依存する点を確認するとともに、物価安定へのコミットメントに対する信認が、インフレ率の2%目標への収斂に貢献するとの期待を示した。

もっとも、インフレ率が目標を大きく上回っている現時点では、金融政策を引き締めスタンスにシフトさせる必要があり、インフレが想定以上に高まった際のFRBの政策対応にとってリスクマネジメントの意味で適切との理解が共有された。

また、多く(many)のメンバーは、FRBにとっての最大のリスクが、人々がFRBの政策スタンスに疑念を持った場合にインフレが経済に定着することであり、従って、明確なメッセージとともに金融引締めを行うことが不可欠との見方を示した。

さらに、FOMCメンバーは、ウクライナ侵攻や中国のゼロコロナ政策の影響を含む供給要因によってインフレ率の2%目標への収斂には時間を要する可能性が高い点を指摘した。

その上で、金融引締めは経済成長を幾分減速させるとしても、 2%インフレへの回帰は持続的な最大雇用の実現にとって不可欠であるとの考えを確認し、両者のトレードオフが金融引締めの障害になるとの見方を実質的に否定した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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