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IMFのWorld Economic Outlook Update

2022/07/27

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はじめに

IMFは世界経済見通し(WEO)の7月updateで、予て想定されていたリスク要因が顕在化しつつあるとして、世界経済の成長見通しを先進国を中心に再び下方修正したほか、今後についても下方リスクが強まっているとの見方を示した。

メインシナリオ

IMFの公表文は、前回(4月)のWEOが挙げたリスク要因、つまり、米国や欧州主要国を中心とする高インフレ、中国経済の予想以上の減速、コロナ感染の再拡大と経済活動の抑制、ウクライナ戦争の影響が顕在化していると説明した。

このうちインフレは、食品やエネルギーの価格高騰、サプライチェーンの障害、サービス消費の回復などが総合インフレ率を押し上げているだけでなく、先進国を中心に労働市場を経由して基調的インフレ率の上昇も招きつつあるとの見方を示した。

このため、先進国と新興国・途上国の双方の中央銀行が、過去の景気循環では見られなかった迅速なペースで利上げを同時に実施しており、世界的な金融環境のタイト化を招いているとした。

また、中国については、ゼロコロナ政策によるサプライチェーンの支障と消費の減速によって、第2四半期のGDP成長率がマイナスになった点を指摘したほか、不動産危機の悪化が不動産投資に影響を与えているとの理解を示した。

一方、ウクライナ戦争はエネルギー価格に上昇圧力をもたらしているが、他の産油国の対応等で上昇幅は想定をやや下回ったと説明した一方、新興国を中心に食品の価格上昇や供給不足による影響が深刻化しているとした。

これらの情勢判断を踏まえて、今回のupdateは2022~23年の世界のGDP成長率を+3.2%→+2.9%と予想し、前回(4月)に比べて、各々0.4ppおよび0.7pp下方修正した。

特に先進国は+2.5%→+1.4%と各々0.8ppと1.0ppの大きな下方修正となり、米国とユーロ圏の見通しは各々+2.3%→+1.0%、+2.6%→+1.2%と、各々1,4ppと1.3pp、0.2ppと1.1ppの下方修正となった。中国も+3.3%→+4.6%と1.1ppと0.5pp下方修正された。

グランシャ調査局長らによる記者会見では、世界貿易の減速が取り上げられ、景気減速による需要の低迷、サプライチェーンの支障による供給の制約に加えて、ドル高による自国通貨建ての輸入物価の高騰が影響しており、こうした状況が2023年にかけて続くとの懸念が示された。

新興国や途上国の経済状況については、金利上昇による金融環境のタイト化、コロナ禍への対応に伴う財政支出余力の低下、食品やエネルギーの価格高騰による実質購買力の低下と社会不安の増大といった懸念すべき要因があると説明した。

なかでも、ASEANに関する質問に対しては、コロナの抑制や労働市場の回復といった好条件はあるが、外需依存度が高いため中国や米国の景気減速の影響を受けるほか、為替レートの減価によるインフレの加速、中央銀行の利上げによる金融環境のタイト化など下方要因が多いと指摘した。

なお、日本(新たな見通しは+1.7%→+1.7%)が相対的に堅調である点については、2021年の景気回復が弱くcatch upの余地がある中で、金融と財政の双方の政策による下支えが効果を発揮するとの見方を示した。もっとも、中国等からの外需の減速や実質賃金の低下による影響を受けるとした。

リスクシナリオ

IMFの公表文は下方リスクの強まりを確認するとともに、要因として、ウクライナ戦争によるエネルギー価格の一段の上昇、インフレ率の高止まり、インフレ抑制の副作用の増加、金融環境のタイト化による新興国・途上国の債務負担の増加、中国経済の低迷の継続、食品やエネルギーの価格高騰に伴う社会不安(左記に見た点)を挙げた。

このうちエネルギー価格については、ロシアによる対欧州の天然ガス供給の2024年央にかけての削減の可能性は、今回のupdateでも考慮したが、具体的水準には不透明性が高いとし、欧州経済を中心とする影響に懸念を示した。

インフレに関しては、食品やエネルギーの供給制約の長期化とコアインフレへの波及のリスクを示唆し、労働市場のタイトな国々で賃金と物価のスパイラルが生ずるリスクを指摘した。そこで中央銀行の利上げ加速が景気を減速させると、スタグフレーションに陥る可能性も指摘した。

一方、中央銀行の利上げについては、インフレ期待や賃金と物価の硬直性、それらの金融政策への感応度等に不透明性が高く、最適な水準を認識するのは難しいと指摘した。また、1980年代に比べてインフレ環境の初期条件は良好であるとしても、政府と民間の債務水準が高い点が金融政策の運営の障害となりうるとも指摘した。

こうした金融環境のタイト化は新興国・途上国で、自国通貨安を通じて外貨建て債務の実質負担を増加させ、コロナ対策等による財政状況の悪化に拍車をかけるほか、資本流出の増加がこうした問題を一層悪化させる恐れに懸念を示した。

また、中国経済については、財政支出の増加やゼロコロナ政策の見直しの兆しといった好材料を指摘しつつ、より感染力の高い頃なの流行とその抑制策、不動産価格の下落の影響の遅効的な顕在化といった下方要因を挙げた。

記者会見ではリセッションの可能性が取り上げられ、グランシャ調査局長らはメインシナリオとしては想定していない点を確認しつつ、リスクシナリオはtail riskではなく、一定の蓋然性があるとも指摘したほか、特に2023年の先進国の成長率は低位なので、何らかのショックでマイナス成長に陥りうるとの懸念も付言した。

特に米国については、既に消費等に減速の兆しがあり、堅調な労働市場も遅行指標であるとして、メインシナリオでも2023年の成長率は低位であり、ソフトランディングはnarrow pathとの厳しい見方を示した。

また、先進国の中央銀行による迅速な利上げが新興国・途上国に与える影響については、先進国からの外需の減速、自国通貨安による輸入インフレの加速、投資家の「質への逃避」による資本流出といった面から生ずると説明した。その上で、金融政策の枠組みが改善しているほか、マクロプルーデンス政策も整備されているとして、適切な政策対応への期待も示した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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