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FRBのパウエル議長の記者会見-End of normalization

2022/07/28

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はじめに

今回(7月)のFOMCは75bpの利上げを決定した。記者会見では、今後も利上げを継続し、中立を超える水準にすることでインフレの抑制を図る方針を確認した一方、景気の先行きに不透明性が高い中で、実際の政策は経済指標次第との方針も示した。

経済情勢の判断

パウエル議長は、冒頭説明で、実質購買力の低下や金利上昇により消費と投資の双方が減速している点を確認した。一方で、雇用増加は減速しつつも依然として力強く、労働供給には目立った改善がみられないと説明した。

質疑では多くの記者が景気後退のリスクを質した。これに対しパウエル議長は、第2四半期入り後に総需要の減速が目立つ点を確認しつつも、現時点で景気後退に陥ったとの見方を否定した。その主な根拠としては、雇用の大幅な増加や極めて低位な失業率、堅調な賃金上昇等を挙げ、こうした認識は(市場はともかく)国民には共有されていると主張した。

その上で、景気の先行きに関する不透明性は依然として極めて高いとの認識も確認し、第2四半期のGDP成長率の内容をもとに総需要の動向を精査する方針を示唆した。また、景気後退の回避が望ましいことは当然だが、narrow pathであるとの理解も示した。

さらに、労働市場の展望に関する質問に対しては、雇用増加ペースの減速や失業保険申請件数の増加、賃金上昇ペースの減速といった点で変化の兆しはみられるが、コロナ感染の再拡大等もあって労働供給の回復が遅延しており、需給全体の調整は緩やかに止まっているとの認識を確認した。

物価情勢の判断

パウエル議長は、冒頭説明で、国際商品価格の上昇ペースの鈍化に拘らず、食品とエネルギーの価格上昇は顕著であるほか、インフレ圧力は幅広いと指摘した。このため、食品、住居、交通等の高コストを通じ経済的弱者に負担が生じている点に懸念を示した。

質疑では、複数の記者がインフレ指標の間での乖離の意味合いを質した。これに対しパウエル議長は、中長期の物価動向を見通す上でコア指標は引続き重要と説明した一方、今回の高インフレは供給ショックが波及している面もあるため、総合インフレ率の注視も必要と説明した。

また、CPIインフレ率は食品やエネルギー、住居等のウエイトが相対的に高いため、PCEインフレ率に対して上振れしているが、 FRBとして後者を重視する方針に変化はない点を確認するとともに、長い目で見れば両者は収斂するとの見方も示した。

金融環境の判断

質疑では、利上げに伴う金融環境の評価を問う質問が示された。 パウエル議長は、インフレ抑制に必要で適切な反応であるとの見方を示したほか、市場のインフレ期待が低下している点を歓迎した。

また、同様に迅速な利上げを行った1990年代央に比べて、国内外の金融市場はorderlyな反応を示しているとの理解を示すとともに、金融機関や家計のバランスシートは健全であり、資産価格の調整に対応しうるとの見方を示した。

さらに、全般的な金利上昇は、家計にとって負担増を招くものの、高インフレによる生活費の増加の方が深刻であるとして、利上げによるインフレ抑制を優先すべきとの理解を確認した。

政策運営

パウエル議長は、冒頭説明で、今後も利上げと保有資産の削減を続ける方針を確認したほか、次回(9月)も同様な利上げ幅となる可能性を指摘した。また、インフレの抑制にはある程度の景気減速は必要との判断も確認した一方で、今後は利上げの累積的な効果を評価していく考えも示唆した。

質疑では、複数の記者が75bpの利上げを選択した理由を質した。パウエル議長は、前回会合(6月)ではインフレ率が想定以上に上振れたため75bpを選択し、今回(7月)も同様な状況であったと説明した。

一方で、これまでは政策金利を中立水準に迅速に戻すために、利上げを前倒し(front-loading)で進めてきた点を確認するとともに、今回の利上げでそれが達成する中で景気への影響も顕在化しつつあるとした。

また、次回(9月)にも75bpの利上げという説明は決定事項ではなく可能性であって、それまでに公表される物価や雇用を含む多くの経済指標に基づいて判断すると説明した。

加えて、多くの記者が利上げの継続方針の内容を質した。 パウエル議長は、利上げが過小であった場合はインフレ期待の上昇が定着し、その修正にはより強力な金融引締めが必要になるリスクが高いとして、過大な利上げに伴うリスクよりも深刻との理解を示した。

その上で、インフレの抑制には総需要の抑制が不可避との考えを確認したほか、インフレ圧力はまだ顕在化の途上にあるとして、当面は利上げと保有資産の削減を続ける必要性を確認した。

来年に利下げに転ずる可能性に関する質問に対しては、パウエル議長は、前回(6月)のSEPで本年12月末時点の政策金利に関するFOMCメンバーの予想が3~3.5%のレンジであったことや、 2023年も若干の追加利上げを見込んでいた点に言及し、少なくとも現時点ではこのような見通しが有効との理解を示した。

その一方で、景気の先行きに関する不透明性は引続き極めて高く、半年先を見通すことも困難との認識も確認し、政策金利の最高到達点についても不確実性が高い点を強調した。

このほか、保有資産の削減については順調に進捗しているとの理解を示しつつ、保有資産の規模が大きかっただけに、超過準備を均衡水準にまで下げるには時間を要するとの見方を述べるとともに、具体的な均衡水準への言及を避けた。

記者からはコミュニケーションに関する質問も示されたが、現時点では景気や物価の不透明性が高いため、政策運営に関する十分な柔軟性の確保が重要であるとして、フォワードガイダンスの活用に否定的な意見を示した。

また、インフレによって経済的弱者に対する負担が増加しているだけに、FRBは国民に対して物価安定の回復に注力する姿勢を示すことが重要であると指摘した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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