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7月FOMCのMinutes-at some point

2022/08/18

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はじめに

75bpの利上げを決定した7月のFOMCでは、物価目標の達成には、利上げの継続による需要の抑制が必要との理解が共有された。また、利上げの継続が適切としつつ、いずれかの時点で利上げを減速し、金融引締めの効果を検証する必要性も共有された。

経済情勢の判断

FOMCメンバーは、金利上昇に加え、政府のCovid-19対策の縮小や高インフレによる実質購買力の低下等を主因に、家計消費企業の設備投資が足許で軟化した点を確認し、下半期の成長率も潜在成長率を下回るとの見方を示した。

家計については、健全な資産構成や低位な失業率等の好条件に拘らず、景気の不透明化や実質購買力の低下に伴うマインドの慎重化を指摘し、金利上昇が住宅投資に加えて耐久財消費に影響する可能性に言及した。企業についても、物価高騰への懸念や金融環境のタイト化、消費支出の減速等を背景に、成長期待が減退しているとしたほか、一部(some)のメンバーは設備投資計画に見直しの動きがあると指摘した。

一方で労働市場については、失業率が極めて低位である点や未充足求人が歴史的高水準である点で、引続き強いと評価した。もっとも、多く(many)のメンバーは、失業保険の新規申請の増加や退職率の低下、雇用増加ペースの年初に比べた減速といった点で、見通しが一時的に軟化する兆しも指摘した。

労働供給については、Baby-boom世代の退職期に当たるため改善は困難との見方と、Covid-19の感染懸念の後退等によって改善は可能との見方に分かれた。その上でFOMCメンバーは、金融環境のタイト化と経済活動の減速により、雇用の増加が減速することで、労働需給のバランスが好転するとの見通しを示した一方、数名(several)のメンバーはそうした現象が景気減速に遅行するとの見方を示した。

これらを踏まえてリスクは下方に傾いているとし、金融環境のタイト化による想定以上の影響や地政学ないし海外経済の展開を要因として挙げた。

物価情勢の判断

FOMCメンバーは、物価上昇圧力が拡大している点を確認したほか、足許のエネルギーや国際商品の価格軟化も継続性に疑問があり、持続的なインフレ抑制の要因として信頼しえないとした。また、インフレ圧力が低下した証拠はなく、当面は高インフレが継続するとの見方を確認した。

なお、執行部が7月FOMCに提出したコアPCEインフレ率の見通しは、2023年には2.6%に減速するとし、供給制約の緩和や雇用拡大の減速、輸入物価の低下等を要因として挙げた。

供給制約については、重要物資の入手の改善や投入価格の上昇圧力の低下等の点で改善の兆しも指摘した。もっとも、その解消には時間を要するとの見方で一致し、数名(several)のメンバーは、供給制約の改善はマクロの需給不均衡の解消要因としては信頼しえないと指摘した。

このため、FOMCメンバーは景気減速がインフレ圧力の抑制に重要との理解を強調したほか、長期インフレ期待の安定、企業の競争環境、賃金と物価のスパイラルの不在、ドル高等が物価抑制に有効となりうるとした。なお、長期のインフレ期待は、市場ベースではインフレ目標と整合的であるとした一方、サーベイベースも同様である一方、回答者によるばらつきも大きいとの指摘もあった。

これらを踏まえ、FOMCメンバーは高インフレのリスクに対する注意が必要との理解を強調し、先行きの不透明性は高く、国際商品市場での更なる供給ショックの可能性を含めて、リスクは引続き上方に傾いているとした。

金融安定の評価

7月のFOMCは、四半期ごとの執行部による金融安定の評価と議論の回にあたる。執行部は、資産価格の過大評価の修正等を理由に全体のリスクをnotableからmoderateに引き下げた。

FOMCメンバーも、家計資産の健全さや銀行規制の強化によるモーゲージ貸出の規律ある運営が金融安定に貢献していると評価したほか、金融市場の流動性は一部で低下したが、市場機能は総じて機能しているとの見方を示した 。 もっとも 、数名(several)のメンバーは、金融経済環境が変化し続ける中で、慢心を避けることの重要性を指摘したほか、別の数名(some)のメンバーはデジタル資産による金融安定への影響に言及した。

政策運営

FOMCメンバーは、労働市場は極めてタイトであり、インフレ率が目標を大きく上回っているとして、75bpの利上げと保有資産の削減の継続を全会一致で決定した。

また、政策金利は中立ゾーンに入ったが、数名(some)のメンバーは実質では依然として低い点を強調した。その上で、 FOMCメンバーは、利上げの継続によって政策金利を引き締めゾーンに高めることが政策目標の達成に必要との判断を示した。

実際の利上げペースや金融引締は、今後の経済指標や経済見通しのリスクに依存するとの方針に合意した一方、いずれかの時点(at some point)では、金融政策の累積的な影響を評価しつつ、利上げを減速することが適当となるとの判断も示した。

また、数名(some)のメンバーは、政策金利が十分に引き締め的な水準に達した後も、インフレ率が2%目標に確実に収斂するよう、しばらくの間(for some time)は、政策金利をその水準で維持することが適当との考えを示唆した。

その上でFOMCメンバーは、インフレを2%目標に収斂させることへの信認や強力な政策対応とコミュニケーションが、金融環境のタイト化を実現したと評価し、総需要の抑制を通じてインフレ圧力を緩和するとの期待を示した。また、多く(a number of)のメンバーは、金融環境の顕著なタイト化を根拠に、政策対応やコミュニケーションの効果が過去に比べて迅速に顕在化しているとの見方を示した。

FOMCメンバーは、インフレ率が想定以上に加速するリスクに備える保険的な意味でも、当面は政策金利を引締めゾーンに移行させるのが適当との考えを確認した。同時に、多く(many)のメンバーは、経済環境の継続的な変化や政策効果の長く不確実なラグを考慮すると、物価安定に必要な以上に金融引締めを行うリスクもある点を指摘した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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