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FRBのパウエル議長の記者会見-New norm

2022/09/22

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はじめに

FRBは今回(9月)のFOMCで政策金利の75bp引上げを決定した。 パウエル議長は、広範な価格上昇圧力とインフレの上方リスクを指摘した上で、政策金利を十分に引き締め的な水準に引上げるとともに、それを維持することが必要との考えを確認した。

経済情勢の判断と見通し

パウエル議長は、米国経済が足元で緩やかな成長を続けており、住宅市場や設備投資といった金利感応度の高い領域が減速している一方、消費は所得や貯蓄によって下支えされており、雇用の増加も堅調であると説明した。

しかし、今回改訂されたFOMCメンバーの経済見通し(median)は前回(6月)に比べて大きく下方修正された。2022~24年の各第4四半期の実質GDP成長率は+0.2%→+1.2%→+1.7%となり、各々1.5pp、0.5pp、0.2pp低下した。つまり、この間は潜在成長率を下回り続ける見通しが示唆された。

質疑では、FOMCメンバーの2022~24年の各第4四半期の失業率見通しが+3.8%→+4.4%→+4.4%と、来年以降は「長期」水準である4%をやや上回るとされたこともあり、数名の記者が労働市場の展望を取り上げた。

パウエル議長は、FOMCメンバーの見通しが示唆するように、利上げに伴う雇用への影響は、過去の景気後退に比べて小幅かつ短時間に止まるとの見方を示し、その理由として未充足求人が高水準であるなど労働需要が強いことを挙げた。

また、失業率の上昇によって人々に負担が生ずることを認めつつ、高インフレは食品や住居、交通のコスト上昇を通じて特に低所得層に大きな打撃を与えているだけに、物価安定の回復は長期的にメリットが大きいと主張した。

別の複数の記者は住宅市場の減速を取り上げたが、パウエル議長は、住宅市場は過熱状態であっただけに、供給制約の改善も含めて需給バランスの改善が必要との見方を示し、ファンダメンタルズに整合的な住宅価格はaffordabilityの面でもメリットが大きいと指摘した。

物価情勢の判断と見通し

パウエル議長は、ガソリン価格等には軟化の兆しもみられる一方、 PCEとCPIの双方でコアインフレ率が高いなど、幅広く価格上昇圧力が生じていることや、ウクライナ情勢が引続きインフレ圧力を生じていることに懸念を示した。

また、物価のリスクは上方に傾いている一方、中長期のインフレ期待は様々な指標で見て総じて安定しているとの見方を維持した。

今回改訂されたFOMCメンバーの物価見通し(median)は前回(6月)に比べて小幅な上方修正に止まった。2022~24年の各第4四半期のPCEインフレ率は+5.4%→+2.8%→+2.3%と、各々0.2pp、 0.2pp、0.1pp引き上げられた。ちなみに、PCEコアインフレ率の見通しは+4.5%→+3.1%→+2.3%となり、いずれにしても2024年末にもインフレ目標を若干上回るとの見方が示唆された。

質疑では、複数の記者がインフレ目標達成との関係での政策運営を取り上げた。パウエル議長は総需要の抑制を通じたインフレ圧力の引き下げが必要との考えを確認する一方、利上げは金融環境を迅速にタイト化しているが、実体経済に対する効果には不確実な時間的ラグがある点も認識していると説明した。

政策判断

今回(9月)のFOMCは75bpの利上げを全会一致で決定した。 パウエル議長は、今後もインフレが目標に収斂することが確信できるまでは、保有資産の削減を含む金融引締めを継続する方針を確認した。

その上で、インフレ目標の達成には、引き締め的な金融環境をしばらく維持することが必要と指摘する一方、いずれかの時点では累積的な効果を確認し、利上げペースを減速させるとした。

今回改訂されたFOMCメンバーの政策金利見通し(median)は、前回(6月)に比べて全体として大幅に上方修正された。2022~24年の各年末の政策金利は4.4%→4.6%→3.9%となり、各々1.0pp、0.8pp、0.5pp引き上げられた。ちなみに新たに公表された2025年の年末は2.9%とされた一方、「長期」の政策金利は2.5%に維持された。

つまり、FOMCメンバーの平均的な見方によれば、来年末までに4%台中盤まで引き上げたあと、2025年末にかけて中立水準に向けて緩やかに引き下げることになる。この点は、パウエル議長が表明した引き締め的な水準の維持という方針と整合的である。

一方で、今回改訂されたdot chartをみると、本年末は(上下のoutlierを除くと)4.125%と4.375%に二分しており、現時点では、今年の残り2回のFOMCの合計の利上げ幅について、100bpと125bpの見方に分かれている。パウエル議長も、次回のFOMCで75bpの利上げを行うかという記者の質問には、利上げ幅は各会合で判断するとの説明に止めた。

また、来年末については、(下のoutlierを除くと)、4.375%、 4.625%、4.875%の3つに予想が均等に分布するという興味深い内容となっている。本年末と来年末の予想が整合的であるとすれば、来年中の利上げ幅は50bp程度となるほか、インフレ圧力が上下動しないとすれば、利上げは年前半と推測できる。

質疑では、複数の記者が政策金利の最高到達点を取り上げた。 パウエル議長は、インフレ率の目標への収斂には十分な金融引き締めが必要であり、この点についてのスタンスはジャクソンホールの講演で示した通りであると指摘した。また、そのためには、イールドカーブの全体において、例えば1%といったプラスの実質金利が必要とした。

一方で、別の質問に対する回答の中でパウエル議長は、商品価格がピークアウトするなど供給制約には改善の兆しもあるだけに、インフレ期待が安定を維持し、労働供給の改善によって賃金上昇も抑制されれば、金融引締めが経済を過度に減速させるリスクは低下すると指摘した。

このほか質疑では、世界の中央銀行が同時に利上げを行うことによる世界的な景気後退への懸念も示された。パウエル議長は、そうした効果は当然意識し、今回の経済見通しにも織り込んでいると説明した一方、中央銀行は各国の経済状況に即した政策を行うべきとの原則を確認した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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