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ECBの9月の政策理事会のAccount-Essential complement

2022/10/07

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はじめに

ECBの9月の政策理事会では、景気減速だけではインフレ抑制に不十分として、二次的効果とインフレ期待の上昇を抑制するために大幅利上げが必要との議論がなされた。また、域内国債の利回り上昇が抑制されている点への安堵も示された。

経済情勢の判断

レーン理事は、生産活動に減速の兆しがみられるとして、今後の顕著な景気減速の可能性を示唆した。

この間、消費は第2四半期に回復したが、耐久財需要は弱含み、家計は先行きの不透明性を懸念し貯蓄を維持する指向がみられるとした。設備投資も第2四半期は堅調であったが、今後に減速するとの見方を示した。もっとも、雇用は堅調さを維持し、歴史的に低い失業率と高い未充足求人率が併存している点を確認した。

執行部は2022年の実質GDP成長率見通しをやや上方修正した一方、2023年は大きく下方修正した。レーン理事は、景気の下方リスクの深刻化を指摘し、ウクライナ戦争の長期化によるエネルギー割当、企業と家計のマインドの悪化、供給制約の悪化等を要因として挙げた。

理事会メンバーもこうした評価に幅広く(broadly)合意し、景気減速の背景として、①高インフレと天然ガス供給の支障が支出や生産を阻害、②サービス消費の回復が減速、③海外経済が減速、 ④不透明性の高さによりマインドが悪化の4点を挙げた。また、エネルギー価格の上昇による影響は区々であり、マクロ的に企業や家計が影響を消化するには時間を要するとの指摘もあった。

域内国の財政支出は、焦点を絞り時限的なものとすべきであるが、タイムリーに縮小しえないリスクが指摘された。もっとも、エネルギー危機は、第一義的に政府の対応が必要との指摘もあった。

長期的には、コロナと戦争による生産能力への影響が想定よりも大きく持続的であり、インフレの抑制には総需要の一層の抑制が必要との指摘があった。また、労働市場の状況に照らすとGDPギャップは既に解消したとの見方と、総需要は依然として潜在成長以下の水準にあるとの双方の意見が示された。

物価情勢の判断

レーン理事は、物価上昇に対するエネルギーの寄与は大きいが、上昇圧力が広範化している点を確認した。もっとも、足元では原油価格に対する感応度に応じて、モメンタムに変化の兆しもみられるとした。つまり、財価格は広範に上昇しているが、中間財の輸入価格の上昇率は軟化したと説明した。また、サービス価格の上昇率は緩やかに加速しており、需要の回復が主たる要因であると指摘した。

また、米国ではインフレと賃金上昇の加速が密接に連関しているが、ユーロ圏では、賃金が直接費の太宗を占める品目の価格上昇は抑制され、それ以外の価格上昇が大きいと指摘した。また、契約賃金の上昇率は3%に達し、ECBの調査も緩やかな加速を示唆するが、第3四半期入り後は上昇率が減速しているとした。

インフレ期待は、SMAによれば2023年が4%に上昇したが、ECB執行部の見通しより低いと説明した。また、CESによれば、家計の中期インフレ期待は高止まりしている一方、市場のインフレ期待は足元が顕著に上昇したが、2024年中盤に2%近傍に回帰する姿になっているとした。

執行部はHICPインフレ率の見通しを2023年にかけて大幅に上方修正したが、エネルギーや食品の価格上昇に伴う波及がより迅速化するとの判断に基づくとした。また、リスクは引続き上方に傾き、エネルギー供給の制約、生産能力の低下、インフレ期待の上昇、賃金上昇の加速を要因として挙げた。

理事会メンバーもこうした評価に幅広く(broadly)合意した。また、米国で生じたUV曲線の上方シフトがユーロ圏では抑制され、物価への労働市場の影響は相対的に小さいと指摘した。一方、エネルギー危機の影響や景気局面の違い等を映じたユーロ相場の対ドルでの下落が今後のインフレ圧力となることに懸念を示した。

インフレのモメンタムについては、エネルギー価格は年内はピークアウトせず、消費財の物価上昇率は加速しているとの指摘と、供給制約による影響は緩和しつつあり、景気減速もあって物価上昇圧力は緩和するとの見方に分かれた。賃金上昇については、域内国間での違いが大きい点や契約賃金の交渉は秋に進むとしても、足元では二次的効果の兆候は少ないとの指摘があった。

この間、インフレ期待については、サーベイ結果は総じて安定しているが、CESやSPFの中長期の期待等には不安定化の兆しもあるとの指摘があったほか、計量モデルは今回のインフレ圧力の広範さや持続性を十分把握しえないとの見方も示された。

政策判断

レーン理事は、今回(9月)会合での75bpの利上げとともに、総需要の抑制とインフレ期待の抑制のため、今後数回の会合での利上げの継続を予告することを提案した。その理由として、高インフレの継続が見込まれ、物価の上方リスクが大きい中で、なお緩和的な政策スタンスを迅速に修正する必要がある点を挙げた。

理事会メンバーも金融政策の正常化を進めることに同意した。その上で、ユーロ圏の高インフレが主として供給要因によるとしても、予想される景気後退のみでは物価目標の達成には不十分との指摘や、金融緩和の適切な縮小を怠るとユーロ安によってインフレ圧力が強まるとの意見、さらに供給要因による一次的効果ではなく、二次的効果とインフレ期待の上昇抑制はECBの責務であるといった指摘がなされた。

また、ECBの政策スタンスは、インフレの目標からの乖離の大きさや持続性、インフレ圧力の特徴や源泉を考慮すべきとの原則を確認したほか、政策対応が遅延すると、景気後退時により強い引き締めが必要となるリスクや、高インフレの持続によりインフレ期待の修正が困難となるリスクを示した。

もっとも、具体的な利上げ幅については、7月会合との整合性や景気後退リスク、中長期インフレ期待の安定維持等を背景に、当初は数名(several)のメンバーが50bpを主張した。しかし、最終的には75bpの利上げが全会一致で決定された。

同時に決定されたPEPPによる保有資産の柔軟な再投資の運営について、理事会メンバーは、域内国債市場の正当化されない変動が抑制されている点は、75bpの利上げにとって不可欠な条件であった点を確認した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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