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FRBのパウエル議長の記者会見-Lag of cumulative tightening

2022/11/03

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はじめに

FRBは今回(11月)のFOMCで、政策金利を再び75bp引上げるとともに保有資産の縮小(QT)を続けることで、金融引締めスタンスを維持することを決定した。もっとも、今回の声明文には、今後の利上げペースを決める上では、金融引締めの累積的な効果や政策効果のラグを考慮するという新たな考え方が示された。

経済情勢の判断

パウエル議長は、冒頭説明で、実質購買力の低下や金融環境のタイト化による経済成長の減速を確認した。もっとも、雇用の増加はやや減速しつつも大きく、労働市場が全体として堅調さを維持している点も確認した。

質疑では、足元での住宅市場の減速に懸念が示されたが、パウエル議長は本年初までは過熱気味であった点を指摘し、必要な調整との見方を示唆したほか、家計のバランスシートの健全さ等を挙げて、金融安定上のリスクは小さいとの考えを示した。

また、労働市場の評価に関する質問に対してパウエル議長は、幅広い指標の中には、雇用者数の増加や平均賃金、労働コスト指数のように変化の兆しもみられるが、未充足求人や失業率などからみて依然として強いとの見方を確認した。

これらも踏まえて、米国経済のソフトランディングの可能性に関する質問も示された。パウエル議長は、インフレ抑制のためになお金融引締めが必要であるだけに余地は減少したが、労働市場の強さを考慮すると可能性が消滅した訳でないと説明するとともに、景気後退が生ずるかどうかは不透明との理解を示した。

このほか、金融引締めが世界経済の減速を招いているとの懸念も示されたが、パウエル議長は、海外経済についてウクライナ情勢や欧州のエネルギー危機、中国のゼロコロナ政策などの影響を注視していると説明した。もっとも、米国経済は堅調であり、米国の物価安定は世界経済の安定に寄与するとの考えを示した。

物価情勢の判断

パウエル議長は、冒頭説明で、PCEインフレ率が高止まり、エネルギーや食品だけでなく広範な財やサービスに価格上昇圧力がみられる点を説明した。また、中長期のインフレ期待は、金融市場の指標や家計、企業のサーベイ調査のいずれも安定しているが、高インフレが継続すれば上方リスクがあるとして警戒感を維持した。

質疑では、物価上昇圧力が広範である中で、FRBが注目するインフレ基調の指標に関する質問が示されたが、パウエル議長は単一の指標で判断することは不適切との考えを示した。

別の記者は、住宅価格の減速が家賃を通じて物価上昇を抑制する可能性を取り上げた。パウエル議長も、家賃の変動が物価指標の動きより大きくなる可能性を認めつつ、家賃は政策目標ではなく、金融引締めの適切さを判断する材料ではない点を確認した。

また、インフレ期待の安定性に関する質問に対しては、パウエル議長は、中長期のインフレ期待は安定しているが、短期のインフレ期待はこれまでに顕著に上昇しており、賃金形成に与える影響を注視していると説明した。

さらに、バイデン政権による財政支出の拡大が物価上昇に寄与しているとの懸念も示された。これに対しパウエル議長は、家計が貯蓄や所得の面で支出を維持する力を持っている点が物価上昇圧力の主因であるとして、財政支出の影響に関する直接的な言及を避けた。

政策判断

今回(11月)のFOMCは、再度の75bp利上げと保有資産の縮小(QT)の継続を全会一致で決定した。

パウエル議長は、物価目標の達成には十分に引き締め的な状況の実現が必要との考えを確認した。また、既往の金融引締めは金融環境や経済活動のうちで金利感応度の高い領域には効果を発揮したが、効果が物価に及ぶには時間的なラグがある点を確認した。

その上でパウエル議長は、声明文に明記したように、今後の利上げペースを決める上では、金融引締めの累積的な効果や政策効果のラグを考慮する考えを示した。同時に、現在の物価上昇圧力を踏まえると、今後も利上げが必要との考えも強調した。

質疑では時間的ラグの評価に関する質問が示された。パウエル議長は、今回は、金融市場が金融引締めを早期に織り込んだ結果、金融環境のタイト化が実際の引締めに先行した点を特徴として挙げた一方、経済や物価に対する波及の時間的ラグには不確実な面が残るとの見方を示した。

また、複数の記者が利上げペースの減速の条件や次回(12月)のFOMCでの減速の可能性を質したのに対し、パウエル議長は、インフレに関する指標が連続的に減速することが必要との考えを確認したほか、次回以降のFOMCで利上げペースの減速の可能性があるが、現時点では決まっていないと説明した。

その上でパウエル議長は、今回の金融引締めの要点を、①利上げペース、②利上げの最高到達点、③高水準の政策金利の維持の3点にあると整理した。

このうち①は、金融緩和を早期に解除するため、迅速にすることが必要と判断し、実践してきたと説明した。一方、②に関しては、利上げは相応に進捗したが、労働市場や物価はなお強く、利上げを継続することが必要との考えを確認した。併せて、利上げが最高到達点に徐々に近づく下では、利上げペース自体よりも最高到達点の水準の方が重要であるはずと指摘した。

さらに、別の複数の記者からは、FRBが過度な金融引締めに陥るリスクが挙げられたが、パウエル議長は、物価上昇圧力がなお強いとして、そうしたリスクを否定した。また、市場が懸念する逆イールドについても、FRBとして注視するが深刻な内容とは見てない点を示唆した。

パウエル議長はこれらの質問に対する回答の中で、金融引締めが不十分であると高インフレが定着し、その対応には長期的に大きな負担を伴う一方、金融引締めを過度に行っても金融政策を調整すれば対処しうるとの考えを再三強調した。

つまり、ジャクソンホールの講演で主張したように、過度な引締めのリスクよりも引締め不足のリスクを重視するスタンスであり、これをパウエル議長はリスクマネジメントの観点での金融引締めと表現し、その重要さを強調した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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