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NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 11月FOMCのMinutes-Mixed message

11月FOMCのMinutes-Mixed message

2022/11/24

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はじめに

11月FOMCは、政策金利を再び75bp引上げるとともに保有資産の縮小(QT)を続けることで、金融引締めを進めることを決定した。一方で、大多数のメンバーは、金融引締めの効果を評価するために、利上げペースをまもなく(soon)減速することが適当との判断も示した。

経済情勢の判断

FOMCメンバーは、経済活動の緩やかな拡大の継続を確認した。このうち家計は、裁量的支出を中心に消費が軟化したが、健全な資産が支出を支えていると指摘した。企業の設備投資も緩やかになっており、数名(several)のメンバーは金融環境のタイト化の影響を指摘した。

また、数名(some)のメンバーは、輸送費や配送時間からみて供給制約の緩和を示唆したが、ミシシッピ川流域の干ばつによって食品の輸送とそのコストに影響が生じているとの指摘もあった。

労働市場については、非常にタイトな状況が続いている点を確認するとともに、数名(some)のメンバーは、ヘルスケア、娯楽、宿泊等の業種での人手不足が賃金の高騰に繋がっていると指摘した。さらに、企業が人手確保に注力している状況も確認されたが、多く(many)のメンバーは、転職率や賃金上昇率の減速を踏まえ、労働需給が改善する兆しも確認した。

これらを踏まえてFOMCメンバーは、米国経済が当面は潜在成長率を下回るペースで推移するとの見方を示した。

また、先行きのリスクは下方に傾いていると評価したが、主たる理由としては、中国の景気減速やロシアによるウクライナ侵攻の影響、さらには世界的な利上げの進行などを背景とする海外経済の逆風を挙げた。

物価情勢の判断

FOMCメンバーは、高いインフレが継続している点を確認した。なかでもサービス価格については、多く(many)のメンバーが価格上昇圧力の高まりと持続可能性を指摘したほか、数名(some)のメンバーは、生産性上昇率の低さを考慮すると、足元の賃金上昇率の高さは2%のインフレ目標と整合的でないと指摘した。

もっとも、数名(some)のメンバーは国際商品価格の下落や供給制約の緩和に伴う財価格の軟化によって、中期的には物価上昇圧力が緩和する可能性を示唆した。

また、地区連銀の総裁は担当地域の企業による価格転嫁の状況を報告し、価格決定力を維持している企業と価格転嫁が困難になっている企業の双方が存在すると説明した。

この間、中長期のインフレ期待は、家計や企業、市場参加者のいずれを対象としたサーベイでも十分に安定していると評価した。もっとも、数名(several)のメンバーは、インフレ率が高水準を続けることで中長期のインフレ期待を不安定化させるリスクを指摘した。また、中長期のインフレ期待のばらつきが拡大している点は、物価見通しの不透明性を示唆しているとの指摘もあった。

これらを踏まえてFOMCメンバーは、経済活動が潜在成長率以下で推移することは、マクロの需給バランスを改善し、インフレ圧力を抑制する上で有効との理解を示した。

また、先行きのリスクは上方に傾いていると評価し、地政学的リスクを背景とするエネルギー価格の再上昇や、タイトな労働市場の下での賃金と物価のスパイラルの発生などを要因として指摘した。

政策判断

11月FOMCは、再度の75bp利上げと保有資産の縮小(QT)の継続を全会一致で決定した。

また、FOMCメンバーは、マクロの需給バランスを改善するには十分に引き締め的な状況が必要として、利上げの継続方針も確認したほか、今後の利上げが従来と同じく長期のインフレ期待の安定に寄与することへの期待を表明した。

一方、FOMCメンバーは既往の金融引締めによる効果の時間的ラグについても議論し、金融環境には迅速な効果を及ぼすが、支出行動や労働市場、さらには物価に対する完全な効果を発揮するには時間を要するとの原則を確認した。

その上で多く(many)のメンバーは、今回は金利感応度の高い分野には影響が生じているが、全般的な影響が生ずる時期は不透明との考えを示した。また、数名(several)のメンバーは、金融政策の効果を分離することは困難であるほか、経済構造の変化や金融政策のコミュニケーションの変化を踏まえると、時間的ラグを予想する上で過去の経験は有用ではないと指摘した。

今後の政策運営

今後の政策運営に関しては、まず、多く(many)のメンバーが、政策目標の達成に必要な最終的な政策金利の水準は極めて不確実であり、今後のデータに依存するとの考えを確認した。

もっとも、多様な(various)のメンバーは、インフレに減速の兆しがみられず、マクロの需給不均衡が継続することを踏まえると、政策金利の最高到達点は予ての想定よりも幾分か高いとの考えを表明した。

一方で、FOMCメンバーは今後の利上げペースに影響を与える要素として、既往の金融引締めの効果や、それらの金融環境と実体経済との時間的ラグを挙げた。

その上で、多く(number of)のメンバーは、金融政策のスタンスが、政策目標の達成のために既に十分に引締め的となっているだけに、利上げのペースを減速させることが適当になったとの考えを示した。加えて、大多数(substantial majority)のメンバーは、利上げをまもなく(soon)減速することが適当との判断も示した。

FOMCメンバーは、利上げの減速が、政策目標の達成に向けた前進を評価する良い機会を提供するとの考えを示すとともに、政策効果の時間的ラグの不透明性や大きさを考えるとそうした評価が重要と指摘した。この点に関しては、金融システムの不安定化のリスクを減らすメリットを指摘する意見もみられた。

ただし、FOMCメンバーは、利上げペースよりも、今や政策金利の最高到達点とその達成後の政策スタンスの方が重要との考えを示し、この点に関する適切なコミュニケーションの重要性を確認した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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