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ECBの10月理事会のAccounts-Shallower recession

2022/11/28

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はじめに

ECBは10月の理事会で政策金利を再び75bp引上げるとともに、 TLTRO IIIの適用金利を引き上げ、銀行に返済を促すことで、金融政策の正常化を進めることを決定した。また、物価上昇圧力のの抑制とインフレ期待の安定維持のため、今後も利上げが必要との見方を共有した。

経済情勢の判断

レーン理事は、第3四半期の経済活動が停滞しており、その後の2四半期はマイナス成長に陥る可能性が高いとの見方を示した。

このうち製造業の生産は、受注残への対応のため堅調であるものの、今後に減速が見込まれるとしたほか、家計によるサービス消費や企業の設備投資もセンチメントの悪化によって減速していると説明した。また、交易条件の悪化や化学製品の生産コストの上昇によって、純輸出も悪化を続けている点を確認した。

この間、労働市場では、失業率は歴史的低水準にあり、労働時間や未充足求人率も堅調であるものの、足元で軟化の兆しがみられるほか、企業の雇用姿勢にも慎重化がみられると指摘した。

その上で、ユーロ圏経済の見通しは、前回(9月)の執行部による悲観シナリオほど悪くないと主張し、理由として、①エネルギー価格が想定ほど上昇していない、②ロシアからのエネルギー供給も維持されているの2点を挙げた。もっとも、先行きのリスクは下方に傾いており、ウクライナ侵攻の長期化、マインドや供給制約の悪化、海外経済の減速等を要因として挙げた。

理事会メンバーも、こうした評価に幅広く(broadly)合意した一方、見通しに関しては悲観シナリオにより近いとの慎重な見方も示した。その上で、景気後退を深刻化させうる要因としては、①一部の国での住宅市場の悪化、②米国ほどタイトでない労働需給、③家計の資産価値の減少(低利回り資産の保有が主因)等を挙げた。

物価情勢の判断

レーン理事は、物価上昇圧力が引続き高い点を確認した。

このうち、食品や工業製品は、川上の原材料価格には軟化の兆しもみられるが、消費者物価には時間的ラグを伴って波及し続けるとの見方を示した。また、コアインフレの上昇要因を分析した結果、供給要因の寄与が大きかったが、足元では需要要因の寄与も拡大していると説明した。

この間、ECBの調査によれば、第3四半期に更改された来年の契約賃金の上昇率は3.7%に達し、緩やかな加速を続けていることを確認した。もっとも、コアインフレ率の加速の主因は、米国のような賃金上昇ではなく、エネルギー消費の大きな部門の価格上昇にあると説明した。

また、長期のインフレ期待については、ECBのSPF(エコノミスト対象)では総じて安定しているものの、上方へのばらつきが拡大した一方、CES(家計が対象)は安定しているとした。

その上で、先行きのリスクは上方に傾いており、要因として、短期的には消費者向けのエネルギー価格の上昇、中期的には食品やエネルギー価格の上昇の波及、マクロ的な総供給の減少、インフレ期待の不安定化、想定以上の賃金上昇等を挙げた。

理事会メンバーも、こうした評価に概ね(generally)合意したが、足元のインフレ率が予想を上回り続けている点に懸念を示した。また、天然ガス価格が下落した点については、持続性に対する疑問と、執行部の悲観シナリオが過大評価した可能性の双方が指摘された。その上で、川上のエネルギー価格の波及に関しては、変動の大きさによって時間的ラグや影響の大きさに非直線性があり、計量モデルは取り込みにくいとの指摘もみられた。

さらに、コアインフレの要因分解に関しても、需要要因の寄与が大きく、その抑制が必要との指摘や、工業製品やサービスの価格上昇はエネルギー消費の低い部門でも生じており、エネルギー価格が軟化しても、ユーロ安のような要因が作用するとの指摘がなされた。

一方、賃金については、労働市場の強さやインフレへのcatch-upの効果によって上昇圧力が残るとの指摘があり、現時点で物価と賃金のスパイラルは生じていないが、時間的なラグや労働者の生活費上昇への懸念等を踏まえ、将来の上昇リスクが過小評価されている可能性を指摘した。

これらを踏まえ、リスクは上方に傾いているとの評価に合意するとともに、景気後退が軽微に止まった場合は総需要の抑制が不十分に止まる可能性や、インフレの加速が景気後退を深刻化させた場合には、二次的効果によってむしろ高インフレが続く可能性に懸念を示した。

政策判断

レーン理事は、75bpの利上げとTLTRO IIIの適用金利の変更を提案するとともに、総需要の抑制とインフレ期待の安定維持のため、今後も利上げを継続する方針を示した。

理事会メンバーも金融政策の正常化を全会一致で支持したほか、大多数(vast majority)は75bpの利上げに賛成し、高インフレの継続リスクや金融政策の迅速な中立化の必要性を理由として挙げた。これに対し数名(a few)は、利上げの継続方針やTLTRO IIIの条件変更等を踏まえると50bpの利上げで十分と主張し、景気や金融安定のリスクに懸念を示した。

その上で、75bpの利上げによって金融政策の正常化は顕著に前進するが、物価目標の達成には更なる利上げが必要と指摘しつつ、具体的な利上げは今後の経済指標に即して毎回の会合で決定する方針を確認した。

なお、中立金利ないし政策金利の最高到達点については、経済や物価の見通しとの関係で異なる意見が示された一方、正確な推計は難しい点は認めた上で、中立的スタンスに達した後も利上げの継続が必要との指摘があった。

加えて、次回(12月)の理事会では景気後退のリスクやこの間の物価や金融環境の動向による影響等をより明確に認識しうる点を確認した。

理事会メンバーは、TLTRO IIIの条件変更は全会一致で支持し、利上げ効果の波及とECBのバランスシート調整への寄与の意義を確認した。また、APPによる保有資産の削減についても、長期金利のリスクプレミアムへの抑制効果の観点から、次回(12月)会合で再投資の運営政略を議論することが必要との見方が示された。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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