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ECBのラガルド総裁の記者会見-significant and steady

2022/12/16

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はじめに

ECBは今回(12月)の政策理事会で50bpの利上げを決定し、利上げペースを鈍化させた。もっとも声明文は、今後も顕著で着実な利上げを続けたあと、政策金利を引締め水準に維持する考えも明記した。併せて、資産買入れプログラム(APP)による保有資産を来年3月から削減する方針も決めた。

経済情勢の判断

ラガルド総裁は冒頭説明で、エネルギー危機や先行きの不透明性、海外景気の鈍化や金融環境のタイト化等のため、第4四半期と来年第1四半期にマイナス成長に陥る可能性を認めた。もっとも、景気後退は短期かつ軽微に止まり、雇用の強さや域内国の財政支援によって早期に回復するとの見方を示した。

執行部による実質GDP成長率の2023~25年の新たな見通しは+0.5%→+1.9%→+1.8%と、前回(9月)対比で2023年が0.4ppの下方修正となった。また、ラガルド総裁は、ウクライナ情勢や海外景気の減速、実質購買力の棄損等の点で、先行きのリスクが下方に傾いているとの判断を確認した。

質疑では複数の記者が2023年を通じた景気後退の恐れを指摘したのに対し、ラガルド総裁は、上記のリスク要因以外にも中国経済の回復度合い等の不透明性はあるが、そうした要因が顕現化してもプラス成長を実現しうるとの見方を示した。

物価情勢の判断

ラガルド総裁は同じく冒頭説明で、足元ではエネルギーや食品の価格上昇が減速したが、価格上昇圧力は依然として広範かつ強いと評価した。また、供給制約の緩和によって財価格の上昇は減速するとしても、消費のペントアップ需要がサービス価格を押し上げることに懸念を示した。

執行部によるHICPインフレ率の2023~25年の新たな見通しは+6.3%→+3.4%→+2.3%と、前回(9月)対比で2023~24年が各々0.8ppおよび1.1ppの大幅な上方修正となった。また、2023年のHICPコアインフレ率の見通しも+4.2%と、前回(9月)対比で0.8ppの大幅な引上げとなった。

その上でラガルド総裁は先行きのリスクは引続き上方に傾いていると説明し、理由として、短期的には企業によるコスト転嫁の継続、中期的には賃金やインフレ期待の上昇の可能性を挙げた。

金融環境の判断

ラガルド総裁は、既往の利上げによって企業の資金調達コストが上昇したが、起債から借入れへのシフトのため銀行貸出は堅調に増加していると説明した。一方で、センチメントが悪化している家計は借入れを抑制しているとした。また、直近(11月)のFSRの内容を念頭に、景気減速を映じた企業の信用コストや政府の財政リスクの上昇に注意すべきと付言した。

記者からは、ECBが利上げを継続しても足元で長期金利が軟化するなど金融環境の所期のタイト化が実現していないという、今回(12月)のFOMC後の記者会見と全く同じ指摘もあった。

また、来年3月からのAPPによる保有資産の削減(後述)が金融環境に与える影響についての質問もあったが、ラガルド総裁は、 ECBにとって本格的な「量的引締め(QT)」は初めてであるため、運営には慎重を期すほか、金融環境の反応に即して柔軟に運営する考えを説明した。

政策判断

ラガルド総裁は冒頭説明で、今回(12月)の政策理事会では利上げペースを鈍化させた一方、インフレ見通しの大幅な上方修正を踏まえて、今後も顕著で着実な利上げを続ける方針を強調した。また、総需要とインフレ期待の抑制のため、その後も政策金利を引締め水準に維持する考えも示した。

質疑では、今回の政策理事会で利上げ幅についてどのような議論があったかを質す向きがあった。ラガルド総裁は、経済や物価の見通しと利上げの方針には概ね合意があったと説明し、利上げ幅には相応の意見の相違があった可能性を示唆した。

その上で、複数の記者が利上げ方針に関する「顕著で着実」の意味を取り上げたのに対し、ラガルド総裁は、前者は今回と同様な50bp幅での利上げを指し、後者は一定の期間にわたって継続することを意味すると説明した。

利上げの最高到達点に関してラガルド総裁は、執行部見通しは金融市場の予想(3%程度)を前提にしているが、結果として高インフレが継続するとの推計を得ていることに言及した。その上で、 ECBは、インフレ率の目標に向けた動きが確認できるまで政策金利の引き下げを行わない考えを示し、暗黙の裡に金融市場の予想を上回る最高到達点を意識していることを示唆した。

別の複数の記者は、インフレ率の減速やFRBによる利上げの打ち止めが、ECBによる利上げに与える影響を取り上げた。

ラガルド総裁は前者に関しては、来年初にインフレ率が再び加速すると指摘し、当面は蓋然性が低いとの見方を示した。後者に関しては、総需要とインフレ期待の動向に即して政策金利を引き締め水準に維持する方針を確認した上で、今回(12月)の政策理事会は利上げの一服(pivot)という訳ではないと説明した。

一方、今回(12月)の政策理事会は、資産買入れプログラム(APP)による保有資産の削減を来年3月から開始する方針も決定した。声明文によれば、満期が到来した資産の再投資を調整することで、慎重かつ予見可能なペースで行い、来年第2四半期までは毎月の減少額の上限を150億ユーロに設定する一方、詳細な内容は、次回(2月)の政策理事会で決定し公表するとした。

質疑では、量的引締め(QT)が銀行に与える影響が取り上げられ、ラガルド総裁は、長期金利の上昇によって利ザヤが改善する面がある一方で、金融環境や資産内容の悪化というマイナス要因にも直面しうるとした。

別の複数の記者はQTのペースの見直しの可能性を質した。ラガルド総裁は、金融引締めの主たる政策手段は利上げである一方、QTは補完的な位置づけにあるとの考えを確認した。その上で、慎重かつ予見可能という原則に即して第3四半期以降のペースを調整する考えを示唆した。なお、ラガルド総裁は、当初の毎月150億ユーロというペースは、当該期間のAPPによる保有資産の償還見込み額の概ね半分程度である点も付言した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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