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国内の景気持ち直しは短命に。世界では感染再拡大が物価高を増幅も

2022/01/13

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感染再拡大で年明け後に景気は下振れへ

支店長会議に合わせて12日に日本銀行が公表した2022年1月「地域経済報告(さくらレポート)」では、全9地域で前回(2021年10月)から景気の総括判断が上方修正され、景気は「持ち直し」との表現が用いられた。

しかし、これをもって、国内経済が順調に回復軌道を辿っていると考えるのは正しくないだろう。今回の景気判断は、比較の対象が昨年9月末の緊急事態宣言解除前の景気情勢が最も厳しい時期との比較であるため、ごく足もとの経済状況が十分に反映されていないからだ。

各支店の景気判断は、2021年11月分までの地域の経済指標と、年末までの企業ヒアリングに基づいていると見られる。しかし、オミクロン株の影響で感染が急拡大し経済環境が暗転したのは、概ねそれ以降のことである。それを反映していない同報告は、バックミラーで景気情勢を判断しているようなものだろう。

同日に内閣府が発表した景気ウォッチャー調査(2021年12月)は、景気の変調をより示唆するものとなっている。12月の景気の現状判断DI(季節調整値)は56.4と前月の56.3を上回り、4か月連続の改善であった。しかし、改善幅は僅かであり、頭打ち感が確認されたと言えるだろう。

他方、12月の景気の先行き判断DI(季節調整値)は、49.4と2か月連続で大幅に低下し、昨年8月以来の判断の分かれ目である50を割り込んだ。エネルギー・食料価格の上昇と、オミクロン株の広がりへの不安が、11月以降の先行き判断DIを低下させている。

ただし、この景気ウォッチャー調査(2021年12月)も昨年までの情報に基づいており、足元の景気情勢を判断するには不十分である。年明け後の新規感染の急拡大、3県でのまん延防止等重点措置の発令を受けて、足元の個人消費は急速に縮んでいるだろう。昨年9月以降の景気持ち直し傾向は、年末年始にピークに達し、年明けとともに再び足踏み状態に入ったのではないか。国内の景気持ち直しは、短命に終わったのである。

北京五輪前の感染封じ込めで中国経済に強い逆風

国内経済にとっての逆風は、オミクロン株に強く影響された感染再拡大とエネルギー・食料価格の上昇だけではない。海外経済情勢も、年明けとともに急速に厳しさを増しているとみられる。米国の2021年10-12月期の実質GDP成長率の予測平均値は、年率+6%台と上振れている。しかし、感染急拡大を受けて2022年1-3月期の成長率は一転して大きく下振れる可能性が出ている。

ブルームバーグ・エコノミクスが、各種経済データに基づき日次で公表しているGDPトラッカーによると、1-3月期の実質GDP成長率は現在のところ前期比年率-16%程度で推移しているという。これは、1月第1週のごく限られたデータに基づく計算結果であり、信頼性は高くない。それでも、1-3月期の実質GDP成長率が前期からかなり下振れる可能性を示唆したものとして、注目しておきたい。

また厳しい感染抑制策をとる「ゼロコロナ政策」のもとで、中国経済にもにわかに逆風が強まっている。中国では、年明け後にロックダウン(都市封鎖)の動きが広がってきた。人口100万人の河南省の禹州市、1,300万人の西安市ではロックダウンが続いているが、1月10日には人口550万人の河南省安陽市でもロックダウンが始まった。また、北京に近い人口1,400万人河北省天津市も厳戒態勢となっており、ロックダウンが近いとの見方が広がっている。

中国当局が感染封じ込めにここまで注力するのは、残り3週間に迫った北京オリンピックを強く意識しているためだ。経済活動を犠牲にしてでも、感染リスクを抑え、北京オリンピックを成功させることを優先しているのである。こうした厳しい「ゼロコロナ政策」は、中国経済、そして世界経済にとってのリスクとなっている。

感染急拡大で新たな形で人手不足が強まる

中国と異なり、欧米諸国では、感染再拡大を受けても厳しい規制の導入にはなお慎重である。オミクロン株は重症化リスクが大きくなく、医療ひっ迫のリスクも制御可能、との見方が背景にあるだろう。しかしそうした政策姿勢が、新規感染者数の急速な拡大を許している面がある。

各国が新たに直面し始めている問題は、医療従事者、運転手などエッセンシャルワーカーが感染し業務から離脱することで、各種のサービスが縮小を余儀なくされていることだ。それは経済活動に大きな逆風となる。

日本でも、新規感染者数の急拡大のもとで、そうしたリスクが先行き高まってくる可能性は否定できない。小池東京都知事は、そうした事態に備えて、新規感染の拡大によって一部従業員が業務から離脱しても、会社としての業務が維持できるように、BCP(事業継続計画)の強化を企業に呼び掛けている。

米国を中心に今まで見られてきた深刻な人手不足は、感染リスクを警戒して早期の職場復帰を控える人々や、より良い条件での再就職を狙って様子見姿勢を続ける人々の行動によって主に生じたものだ。しかしこれからは、急速な新規感染による労働者の業務離脱が深刻な人手不足につながる可能性が出てきたのである。その場合、感染リスクが高いサービス業に集中していた従来の人手不足から、それ以外の業種へと広がる人手不足傾向が生じ、需給のひっ迫が生じるのではないか。それは物価の高騰を助長することにもなる。世界経済の2大逆風となってきた感染問題と物価高騰が、当面は同時に一段と強まる事態も考えられるところだ。

感染問題を受けて世界経済が2020年春のような歴史的な落ち込みを示す可能性は低いだろうが、2022年前半は、その時以来の逆風に晒される可能性は考えられるのではないか。当然ながら、日本もその影響を強く受けることになる。

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