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成長戦略のグランドデザインを(岸田首相の施政方針演説)

2022/01/14

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「新しい資本主義」で世界を主導するのは難しい

来週17日に召集される通常国会の冒頭で、岸田首相は施政方針演説に臨む。その原案が各種報道によって明らかになってきた。

経済政策では、「新しい資本主義」の実現に向けた施策や、賃上げの推進、人への投資などを全面に打ち出す。岸田首相は新しい資本主義を「経済再生の要」と位置付け、「今春、グランドデザインと実行計画を取りまとめる」と明言する見通しだ。さらに、「歴史的なスケールでの経済社会変革の動きが始まっている。新しい資本主義によって世界の動きを主導していく」としている。岸田首相は、「新しい資本主義」への日本の取り組みについて、世界経済フォーラム(WEF)が主催するオンライン会議「ダボス・アジェンダ」で18日に演説する予定だ。しかし、「新しい資本主義」の中身がまだほとんど固まっていない段階で、世界を主導するきっかけとなるような注目度が高い演説ができるとは思えない。

施政方針演説には、男女の賃金格差を是正するため「企業の開示ルールを見直す」との表現が盛り込まれる見通しだ。また、企業がより中長期的な視野で経営を進められる環境を整えるため、四半期開示の制度を改める考えも示される方向だ。しかし、これらは「新しい資本主義」の実現、というにはかなり小さい見直しである。また、脱炭素社会への貢献も「新しい資本主義」の中では企業に求められるのだろうが、それは既に世界の常識となっている。そして、企業に賃上げを求めることは、賃金が上昇していない日本特有の問題への対応であり、世界では注目されないだろう。

評価できる「人への投資」推進と脱炭素実現に向けた政策修正の課題

演説では、官民の「人への投資」を「早期に少なくとも倍増し、さらにその上を目指していく」と表明される。また、スキルの向上や再教育など人的投資の充実が「デジタル社会、脱炭素社会への変革を円滑に進めるためのカギだ」と岸田首相は訴える見通しだ。単純に賃上げを求める政策は上手く行かず、また日本経済の中長期の成長に貢献するとは思えない。しかしながら、労働者の技能を高め、前向きの産業構造の転換に資するような、真の「人への投資」は重要であり、今後も推進していって欲しい。

2050年のカーボンニュートラルの目標実現に向けては、エネルギーの供給構造の変革にとどまらず、産業構造・国民の暮らしなど経済社会全体の大変革に取り組むとする。さらに、脱炭素社会を見据えた取り組みとして、原子力の小型炉や核融合発電を挙げ、「多くの論点に方向性を見いだす」との表現が演説には盛り込まれる方向だ。脱炭素に向けては再生可能エネルギーの活用から、原発再稼働、稼働期間延長、さらには原発のリプレースメント、新設などへ、岸田政権の下では軸足がやや移るのではないか。

これは脱炭素実現に向けてより現実路線に軌道修正されるとの評価も可能であるが、他方で、世論の支持を得られるかどうかという点で、難易度が高い政策転換でもある。また、脱炭素に向けては、炭素税の導入などカーボンプライシングの導入は不可欠であるように思われる。企業の間では反対もあるが、岸田政権には早期に実現に向けて取り組んで欲しい。

企業の成長期待を高めることを最優先に

また演説では、2023年度に創設を目指す「こども家庭庁」についても言及される。縦割り行政の打破、という観点から説明されるようだが、「こども家庭庁」に関連して、少子化対策、出生率引き上げ策の具体策をもっと検討して欲しいところだ。それは重要な成長戦略である。

岸田政権は既に多くの成長戦略を打ち出している。しかし、それぞれがバラバラの印象があり、全体としてどのような成長の姿が展望できるのか十分に示されているとは言えないのではないか。地方への5Gの敷設を進める「デジタル田園都市国家構想」、海底ケーブルの拡大、行政のデジタル化、東京一極集中是正、少子化対策、インバウンド戦略の再構築などをすべて結び付け、省庁、企業、住民、海外からの旅行客が都市部から地方に移動していく環境を整え、地方のインフラを有効に活用する中で経済効率を高めていく、また出生率を引き上げる、などの具体的な見通しをロードマップで示せないか。

岸田政権は「新しい資本主義」のグランドデザインと実行計画の取りまとめを優先させる考えだが、それよりも成長戦略のグランドデザインを作り上げることが優先だ。その結果、信頼性の高い政策のパッケージを提示できれば、企業の成長期待は高まり、政府が強く働きかけなくても、企業は自ら設備投資、人的投資、新規雇用、賃上げに前向きになるはずだ。

(参考資料)
「「人への投資」官民で倍増 首相、施政方針演説原案」、2022年1月13日、日本経済新聞電子版
「脱炭素へ経済社会の大変革―首相の施政方針原案判明」、2022年1月13日、共同通信ニュース
「今春闘の賃上げに決意=感染症対策、6月取りまとめ―施政方針原案」、2022年1月13日、時事通信ニュース

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