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中国ゼロコロナ政策が日本・世界経済の下振れリスクに

2022/01/20

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世界で異例な中国のゼロコロナ政策

中国でとられている厳格な感染封じ込め策が、中国の経済活動に悪影響を与えている。さらに、グローバル・サプライチェーンへの悪影響を通じて、世界の経済活動にも大きなリスクとなってきた。

中国の新規感染者数は、他の国と比べればかなり小さい。国家衛生健康委員会によると、1月18日の新規感染者数はわずか87人である。しかし当局は、2020年に武漢で実施したようなロックダウンと大量検査を、同様の厳格さをもって各地で実施している。

他の主要国では、年末から年初にかけて新規感染者が急拡大する中でも、以前ほど厳しい規制措置を適用していない。感染拡大を加速させている新たな変異株であるオミクロン株は、今のところは重症化リスクが低めであるためだ。

中国での感染拡大の主流は、現状ではまだオミクロン株ではなくデルタ株だ。しかし、今後オミクロン株が広がる中で、新規感染者数はかなり増える可能性がある。その際に今までと同様の厳しい感染封じ込め策、いわゆる「ゼロコロナ政策」を続ければ、経済活動及び市民生活にかなりの打撃を与えることになるだろう。

北京冬季五輪の開幕が2月4日と2週間あまりに迫っていることが、当局が感染封じ込めを強化する背景にある。五輪の成功を最優先させているためだ。それにもかかわらず、オミクロン株の影響が強まれば、五輪に向けて新規感染者数はさらに拡大する可能性がある。また北京五輪の開催期間は、全国で数百万人の移動が見込まれる春節(旧正月)の大型連休とも重なることも、当局にとっては大きな懸念である。

広まる工場閉鎖の動き

中国では、ロックダウンや市民に対する大規模検査の実施によって、生産停止に追い込まれる工場が増えている。オミクロン株による感染が2件確認されたことで、天津では約1,400万人の市民が一斉検査を受けた。中国北東部の工業拠点である天津は、中国全体の輸出量の1.7%を占めている。

同市全体でコロナ検査が義務づけられことを受け、トヨタ自動車の天津の合弁工場では、1月10、11の両日に稼働が停止された。独自動車メーカー大手フォルクス・ワーゲン(VW)の天津市内にある同社工場も閉鎖された。VWは寧波の工場も最近、小規模なコロナ感染が発生したことを受けて、閉鎖に追い込まれている。昨年12月23日以降、厳格なロックダウンが敷かれている西安では、世界の半導体メーカー大手2社で生産に支障が生じている。

また、半導体メーカーの韓国 サムスン電子 やVW、スポーツ用品大手の米ナイキや独アディダスなど世界的な大手企業を顧客に抱える中国の繊維企業の生産に支障が生じており、グローバル・サプライチェーンの混乱が始まっている。寧波では、ナイキやアディダス、 ファーストリテイリング 傘下のユニクロなどのサプライヤーである 申洲国際集団が、複数の生産拠点が1月3日からロックダウンに入った。10件の感染が確認されたためだ。

不動産不況と「ゼロコロナ政策」で中国経済は減速を強める

当局による厳しい「ゼロコロナ政策」については、国民の間からも不満が高まっている。しかし、北京五輪が終わるまでは、当局は規制の方針を緩めることはないだろう。その期間中は、オミクロン株の影響で新規感染が急拡大する可能性が考えられ、規制強化が一段と強まることも考えておく必要がある。その場合、中国経済への悪影響はかなり深刻になるのではないか。

中国の2021年10-12月期の実質GDPは前年同期比+4.0%と、潜在成長率の6%程度を大きく下回っており、低迷の度合いを強めている。米ゴールドマン・サックスはこのほど、感染拡大を理由として、中国の2022年のGDP成長見通しを、前年比4.8%から4.3%へと下方修正した。

中国経済は昨年後半から不動産部門の不振を主因に、減速感を強めてきている。それに対して、政府は金融・財政双方から経済を支援する姿勢であるが、十分な効果を上げていないように見える。他国と比べて著しく厳しい感染封じ込め策「ゼロコロナ政策」の影響が、不動産不況の影響に加わることで、中国経済の減速は、今年前半中は続くのではないか。その影響は、グローバル・サプライチェーンの混乱を通じて世界経済にも及び、世界経済の大きな下振れリスクとなってきているのが現状だ。

中国を最大の輸出先とする日本の経済は、特にその影響を受けやすい。日本から中国向け輸出は、昨年後半から減少基調が続いてきているが、今年前半はその傾向が一段と強まる可能性がある。日本経済は、年初の新規感染拡大の影響を受けて、昨年秋以来の消費の持ち直し傾向が一巡していると見られる。感染再拡大、エネルギー価格上昇に中国経済減速の影響を受けて、年前半の日本経済は、踊り場局面を迎えるのではないか。

(参考資料)
"China Covid-19 Lockdowns Hit Factories, Ports in Latest Knock to Supply Chains", Wall Street Journal, January 12, 2022
"Lockdown of Chinese City Leaves 13 Million Stranded", Wall Street Journal, January 5, 2022

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