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感染急拡大は働き手不足を通じて経済活動を大きく制約

2022/01/21

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重症化リスクは高くなくても新規感染拡大で社会・経済活動には大きな打撃

日本では、過去最大の新規感染者数が連日更新されている状況だ。現在のところ、感染者の重症化リスクが高くないことから、過去にみられたほどの深刻な医療のひっ迫には至っていない。そのため政府の規制も、昨年発せられた「緊急事態宣言」よりも緩い、「まん延防止等重点措置」が一部地域に発令されている状況だ(コラム、「関西3府県にもまん延防止措置適用へ:経済損失は1.4兆円に」、2022年1月20日)。

しかし、個人の立場からすれば、仮に重症化のリスクは高くはないとしても、ひとたび感染すれば、社会生活は大きく制約されてしまう。そして労働者は職場から一時的に離脱せざるを得なくなる。それは、企業にとっては、人手不足による業務の停滞を招くことを意味する。そして日本全体としては、経済活動水準の低下となる。

東京都の新規感染者数は、1月20日に8,638人と過去最高水準にある。日本全体では4万6,199人である。東京都の新型コロナウイルスのモニタリング会議で専門家は、現在の増加ペースが続いた場合、直近7日間平均の新規感染者が1月27日には1日当たり約1万8,000人に上るとの推計を報告した。1日の新規感染者数が、東京都の人口1,396万人(2021年)の0.13%と1,000人に1人を上回ることになる。2年程度で都民全員が感染してしまうペースだ。

日本全体でも仮にこれと同様のペースで新規感染者が拡大する場合には、新規感染者は1月27日には1日9万6,269人となる計算だ。日本の人口は1億2,544万人(2022年1月推計)であるが、この1日当たりの新規感染者数は人口全体の0.08%となる。このうち、働いている人は、10日間など一定期間、業務から離脱することを余儀なくされる。

毎日42億円の経済活動が失われる

さらに、濃厚接触者も一定期間、自宅待機で業務からの離脱を余儀なくされる。濃厚接触者の数は公表されていないため、その予測は難しい。ただし、同居している家族は濃厚接触者を見なすことができるだろう。現在、日本の1世帯当たりの平均構成数は約2.3人である。自分以外に、平均で1.3人の家族と暮らしていることになる。家族以外でも、仮に職場や会食の場などで、新規感染者一人当たりにつき同様に1.3人の濃厚接触者が生じるとすると、新規感染者一人がその2.6倍の濃厚接触者を生むことになる。

その結果、東京都の1日の新規感染者数が1万8,000人、日本全体の新規感染者数が9万6,269人に達する際には、25万299人の濃厚接触者が生じる計算となり、両者の合計は34万6,568人となる。これは、日本の人口の0.28%に相当する。このように感染問題の経済への打撃を供給側から考えてみると、毎日42億円の名目GDPが失われることになる(労働者と非労働者との間で、感染リスクが等しいと仮定)。

仮に、感染者が入れ替わる形で、この水準の経済損失が1か月続く場合には、経済損失は1,300億円となる。もちろん、新規感染者数がもっと上振れた状態が長期化すれば、経済損失はさらに膨らむ。

感染拡大による消費減少による経済損失の規模と比べれば大きくないとはいえ(コラム、「関西3府県にもまん延防止措置適用へ:経済損失は1.4兆円に」、2022年1月20日)、供給側、つまり働き手の職場離脱によって生じる経済活動の低迷も、相当規模に達するのである。

この点を踏まえると、仮に、重症化リスクが大きくなく、深刻な医療ひっ迫が生じないとしても、新規感染者数の拡大を許してしまうことは問題だ。それは、国民の健康と社会生活、そして経済活動に深刻な打撃をもたらすのである。特に職場離脱を強いられる人が、いわゆるエッセンシャルワーカーである場合には、国民生活に与える打撃はより大きくなるだろう。政府には、こうした点も十分に考慮に入れて、感染対策を進めることが望まれる。

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