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まん延防止措置のさらなる拡大で経済損失は合計で1.7兆円規模に

2022/01/24

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経済損失は1兆7,180億円まで拡大へ

政府は1月21日に、「まん延防止等重点措置」を13都県(東京、神奈川、千葉、埼玉、群馬、愛知、岐阜、三重、新潟、熊本、宮崎、長崎、香川)に適用した。期間は1月21日から2月13日までの3週間程度(24日間)である。1月7日には、既に沖縄、広島、岡山の3県に同措置は適用されていた。それから2週間で、対象地域は合計16都県にまで広げられたのである。13都県での経済損失(消費減少)は1兆650億円と試算され、既に同措置が実施されている3県での経済損失と合計すると、1兆1,550億円となる(3県での適用期間が当初予定の1月31日から2月13日まで延長されることを想定)。

しかし、同措置の対象地域はさらに拡大していくことがほぼ確実だ。既に、関西3府県(大阪、京都、兵庫)は政府に「まん延防止等重点措置」の適用を21日に申請している。他にも申請をした、あるいは申請を検討中の地域が、現状確認されているところだけで13道県(北海道、福島、茨城、栃木、静岡、長野、石川、島根、岡山、鹿児島、福岡、大分、佐賀)にも及んでいる。政府はこれら計16地域について1月25日にも同措置の適用を決定、26日にも開始する可能性が見込まれる。

この16道府県が新たに対象地域となれば、同措置が適用される都道府県は32にまで増えることになる。47都道府県のうち過半数が一気に適用地域となる。さらに新たに適用されると見込まれる15道府県の経済規模(県民所得)は、日本全体の33.8%程度であり、既に適用されている地域と合計すると、経済規模で88.5%とほぼ9割の地域に適用されることになる。そうなれば、「まん延防止等重点措置」による経済活動への打撃は急速に拡大するだろう。

新たに16道府県で2月13日までの19日間、同措置が適用される場合には、追加で5,630億円の経済損失が生じる計算となる。その結果、失業者数は2.2万人増加する。既に適用されている16都県と合計すると、経済損失は1兆7,180億円となる。これは、1年間の名目GDPの0.31%に相当する。また、失業者は6.8万人増加する計算だ(図表)。

(図表)まん延防止等重点措置による経済損失試算

過去最大の新規感染者数が個人消費を抑制する

このように、「まん延防止等重点措置」は、年明け後の日本経済に大きな逆風となる可能性が高まっている。昨年秋に感染リスクが一時低下したことを受けて、個人消費はその後持ち直し傾向を辿ってきた。しかし、年明け後の新規感染の再拡大、「まん延防止等重点措置」によって、こうした持ち直し傾向にはいったん歯止めがかかり、日本経済は足踏み局面に陥ったと見られる。

政府の規制は、現時点で「まん延防止等重点措置」であり、昨年3回出された「緊急事態宣言」よりも緩い段階にとどまっている。現状では、重症化リスクが低く、医療ひっ迫のリスクが大きくないためだ。

しかし、新規感染者数は過去最高水準を更新しているのである。新規感染者数が感染リスクを表すと考えられることから、個人は経済・社会生活に大きな打撃を与える感染をできるだけ回避するような消費行動を強める(コラム「感染急拡大は働き手不足を通じて経済活動を大きく制約」、2022年1月21日)。そのため、現在の「まん延防止等重点措置」のもとでも、昨年までの「緊急事態宣言」に大きく劣後しない規模で、個人消費の抑制が進んでいると考えられる。

1-3月期は一転低成長に

日本経済研究センターのESPフォーキャスト調査(1月)によれば、2022年1-3月期の実質GDP成長率の予測平均値は、前期比年率+5.1%である。他方、「まん延防止等重点措置」が29都道府県にまで拡大し、1-3月期のGDPが上記の計算のように1兆7,180億円減少する場合、1-3月期の実質GDP成長率は、その影響で前期比年率5.0%程度押し下げられる計算となる。

この点を踏まえると、1-3月期の成長率はほぼゼロと、かなり低めとなる可能性が出てきたと言えるだろう。新規感染が比較的早期に抑制され、「まん延防止等重点措置」が解除されれば、その反動で同期後半に個人消費が大きめに持ち直すことも期待できる。そのため、現時点で1-3月期の実質GDP成長率がマイナスに陥ると考えるのは、やや悲観的過ぎるかもしれない。

しかし、今後適用期間が大きく延長されていけば、1-3月期の成長率が2四半期ぶりにマイナスに陥る可能性も否定できなくなるだろう。

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