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FRBの利上げとともに量的引き締め(QT)が注目を集める

2022/01/27

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3月利上げの可能性が高まる

1月26・27日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文では、「利上げが間もなく適切になる(it will soon be appropriate to raise the target range for the federal funds rate)」として、3月15・16日の次回FOMCで利上げ(政策金利引き上げ)を決める可能性が示唆された。一方、資産買い入れの段階的縮小(テーパリング)を3月上旬に終了させることが決定された。

3月15・16日のFOMCで利上げ(政策金利引き上げ)が実施される可能性が高まっているが、その後の利上げのペースは、物価動向を中心に経済情勢、金融市場の情勢次第で決まる。パウエル議長は記者会見で、利上げのペースについては「現時点では何も決まっていない」と説明した。FOMCメンバーは、0.25%幅での利上げであれば、2022年中に計3回、市場は4回程度の利上げを現在見込んでいる。

資産残高の削減、量的引き締め(QT)はより早期かつ急速に

他方、正常化のプロセスの中でまだ開始時期や概要についてのコンセンサスができていないのが資産圧縮、つまり量的引き締め(QT)である。パウエル議長は1月11日の上院公聴会で、「おそらく年後半に保有資産の縮小を始めるだろう」と述べていた。さらに、「早期かつ速やかな縮小になる」と説明していた。さらに今回のFOMCでは、保有資産の規模を大幅に削減することで、FOMCのメンバーが合意した。今回の記者会見でパウエル議長は、資産残高の削減、QTは利上げの後に実施する考えを示したが、具体的な進め方については「今後議論する」との説明にとどめている。

前回の正常化局面では、FRBは2013年12月にテーパリングを開始、2014年10月にテーパリングを完了した後、2017年10月に資産残高の削減を始めるまで、3年間にわたって資産の残高を一定に維持した。さらに2019年まで資産残高の削減、QTを進めたのである。この間、保有資産の規模は、4兆5,000億ドル程度から3兆7,000億ドル程度へと縮小した。

前回のQT時と比べて今回のQTはより早期に実施され、また資産残高削減のペースもより急速になる可能性が高い。テーパリングを完了から資産残高の削減、QT開始まで、前回は3年かかったが、今回は早ければ数か月となるだろう。その背景にあるのは、予想外の物価高騰を受けてFRBが正常化を急いでいるためである。

また、前回の保有資産残高はピークで4兆5,000億ドル程度であったが、現在は9兆ドル程度と2倍の水準にある。その分、緩和の程度は大きいことになり、早期の緩和縮小が求められる。

量的引き締め(QT)の枠組みに3つの選択肢

買入れた資産を削減するQTの方法は、大きく3つある。第1は、資産(債券)が満期を迎え償還される際に、その償還分だけ保有資産の削減を進めることだ。第2は、償還分の一部を再投資することで、緩やかに保有資産の削減を進めることだ。第3は、満期前の資産を売却することで、より迅速に保有資産の削減を進めることだ。

前回は、第2の手段が選択された。今回は、物価高騰のもとで金融政策正常化のプロセスは前回と比べて格段に迅速となる可能性が高い。そこで、選択される手段は、第1あるいは第3となる可能性が高いと見られる。FOMCの中で、物価高騰を強く警戒するタカ派のメンバーは、資産売却を通じて迅速に資産残高の削減、QTを進めることを主張するだろう。

ツイスト・オペも選択肢か

しかし、資産の売却は需給を急速に悪化させ市場に予期せぬ混乱を生じさせるリスクがあるため、簡単には採用できないのではないか。そのため、第1の償還見合いでの資産削減が最も可能性が高い選択肢と考えられる。

ただし、償還見合いで資産削減を進めつつも、一部の資産を入れ替えることで、より急速に緩和の度合いを削減する手段を講じる可能性はあるのではないか。一般に、短期よりも長期の債券の買入れ、保有の緩和効果は大きいと考えられることから、長めの残存期間の財務省証券を売却し、それよりも短い残存期間の財務省証券を同額買入れる、いわゆるツイスト・オペが選択肢となるかもしれない。あるいは、住宅市場が過熱している点にも配慮して、住宅ローン担保証券(RMBS)を売却して、財務省証券に置き換えることも選択肢となるかもしれない。

柔軟な政策を担うのは利上げ策

FRBは、今後の物価動向などに応じて正常化のスピードを柔軟に調整していく考えである。しかし、その柔軟な政策を担うのは、資産残高の削減、QTではなく、利上げ策である。資産残高の削減、QTについては、その枠組みを固めたうえでひとたび開始すれば、あとは粛々と実行していくのが基本である。資産残高の削減、QTが金利水準の変化を通じて経済・物価に与える影響は、政策金利の変更を比べるとかなり不確実だ。そのため、枠組みを柔軟に見直すことは、そうした柔軟な政策手段には不向きであり、金融市場で不確実性を高めてしまいかねない。

この点を踏まえると、FRBが利上げを決めることが見込まれる3月のFOMCでは、QTの開始時期とその枠組みについて、FOMC内で議論をまとめ公表する可能性を見込んでおきたい。例えばツイスト・オペの実施が公表されれば、米国財務省証券市場でイールドカーブのスティープ化が促され、ドル高傾向が強まるかもしれない。内容次第では、世界の金融市場にも大きな影響を与えるだろう。

(参考資料)
"Fed Steps Up Deliberations on Shrinking Its $9 Trillion Asset Portfolio", Wall Street Journal, January 25, 2022

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