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漂流するディエム(旧リブラ)計画が残したもの

2022/01/27

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大きな軌道修正を余儀なくされたリブラ

フェイスブック(現メタ)が発表した新しいデジタル通貨「リブラ(現ディエム)計画」は、世界の金融当局からの強い批判を浴びて軌道修正を余儀なくされ、漂流したうえに、ついに事実上頓挫する方向にあるようだ。

フェイスブックは、フェイスブック関連アプリなどを用いてスマートフォンで利用できる、主要通貨のバスケットと価値を連動させたデジタル通貨・リブラの計画を、2019年6月に発表した。このリブラを用いると、銀行口座を持たない、いわゆるアンバンクトも低コストで迅速な送金などの金融サービスを利用することができる。そうした社会的意義を、フェイスブックは強くアピールした。

法定通貨の価値と連動させることで価格を安定させ、さらに国境を越えて広く決済に利用されるように設計されたリブラのようなデジタル通貨は、後に「グローバル・ステーブルコイン」と呼ばれるようになった。

しかし、マネーロンダリングに利用されやすいこと、金融政策やその他の中央銀行の業務に悪影響を与えるリスクがあること、個人情報の漏洩につながるリスクがあることなどから、先進国の金融当局はこのリブラ計画に強い警戒を抱き、簡単には認めないとの強い姿勢を続けたのである。

最終的には、複数ではなく単一の法定通貨と連動させ、また利用地域も限定される「ステーブルコイン」として当初は発行することで、フェイスブックと金融当局との間で折り合いが付いたのである。さらに、イメージ刷新を図り、フェイスブックは2020年年末にその名称をリブラからディエムへと変えた。

しかしディエムは発行されることなく1年以上が経過した。1月26日にブルームバーグ社が報じたところによると、メタ(旧フェイスブック)が主導するディエム(旧リブラ)協会は、資産の売却を検討しているという。同協会は、リブラを発行、管理を担うために、28社の企業・団体が設立メンバーによって、当初創設されたものだ。各社は出資額に応じて議決権を持つというガバナンスの構造となっていた。

計画はひとまず頓挫も影響は世界に残る

ディエム協会は今回、こうした会員に資本を返還することを決めたのである。具体的には、ディエムに関わる技術という知的財産を売却し、それを開発したエンジニアを移転させることが検討されているという。メタでディエムを主導していたデービッド・マーカス氏も昨年メタを退社しており、ディエム計画はここでひとまず頓挫したと言えるだろう。

ただし、ディエム計画が残したものは決して小さくない。それが多くの人に安価で利便性の高い金融サービスを提供するという、金融包摂の面での重要な社会的意義を持つことは明らかである。またそれは、現在の金融サービスの持つ大きな欠点を浮き彫りにしたともいえる。

それを改善、克服するために、海外送金手数料の引き下げに向けた取り組みも、世界でなされるようになったのである。2027年末までに国際送金の平均コストを1%以下に下げるほか、全体の75%を1時間以内、残りも1営業日以内に着金させるなどの目標が、2021年10月のG20 (主要20か国・地域)サミットで合意された。

また、ディエムなどの「グローバル・ステーブルコイン」に対抗するという観点から、各国で中銀デジタル通貨(CBDC)の発行計画が進められてきたという側面もある。その代表が、デジタル人民元である。さらに、安全で安価なクロスボーダー決済(国際送金)を実現するために、将来的には各国が発行する中銀デジタル通貨を交換する仕組みを作ることも検討されている。

ディエム計画は今回いったん頓挫した形ではあるが、非金融のプラットフォーマーが新たなデジタル通貨を発行し、金融業に参入することへの当局や金融機関の警戒は決してなくならない。それこそが、金融当局にデジタル通貨に関わるルール整備を促し、また金融機関には金融サービスの利便性を高める努力を促して、結局は金融サービスの向上、発展を後押しすることにつながるのではないか。

(参考資料)
"Zuckerberg's Stablecoin Ambitions Unravel With Diem Sale Talks, Bloomberg", January 26, 2022

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