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10年国債利回りの上昇とポスト黒田体制の下での日銀利上げ観測

2022/02/01

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総裁が利上げを強く否定しても市場では観測が燻る

1月31日の国内債券市場では、新発10年国債利回りは一時0.185%まで上昇した。これはマイナス金利政策の導入が決定された2016年1月以来、6年ぶりの水準である。米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ(政策金利引き上げ)観測が強まり、日本でも4月以降、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比上昇率が、日本銀行の物価目標である2%を一時的に上回るとの見通しが強まるなか、日本銀行もいずれマイナス金利の解除に踏み切る、との観測が背景にある。

米国では、3月の連邦公開市場委員会(FOMC)での早期利上げ観測や、0.5%ポイントの大幅利上げ観測が日々強まっている。それでも、今月上旬以降は、10年国債利回りは1.8%程度の水準で頭打ちとなっている。そうしたもとでも、先週以降の日本の10年国債利回りは、上昇傾向を強めているのである。これは、足もとでの長期金利の上昇が、単に米国の長期金利上昇に引き摺られたものではなく、国内要因によるものであることを示しているのではないか。

1月18日の金融政策決定会合後の記者会見で黒田総裁は、足元での物価上昇率の高まりは持続的なものではなく、そのため、金融政策の変更は全く考えていないと、市場に燻っていた利上げ観測をことさらに強く否定した。一時的な物価上昇を捉えて金融政策を修正するようなごまかしはせず、自身の任期中は2%の物価目標が安定的に達成できる状態を目指して、緩和を続けるとの姿勢を貫く、との総裁の強い意思が、その発言の背景にあるのではないか。また、日本銀行の利上げ観測が円高をもたらすことも警戒したのかもしれない。

黒田総裁の発言の影響力は一段と低下へ

そうした黒田総裁の発言の直後に、逆に、日本の10年国債利回りは上昇傾向を強めたのである。現在、短期国債(6か月)は-0.98%と政策金利の-0.1%とほぼ同水準であり、利上げ観測が織り込まれているようには見えない。しかし、2年国債利回りは-0.05%まで高まっており、それ以降は緩やかにスティープなイールドカーブが形成されている。金融市場は、タイミングについては不確実ながらも、2023年4月に黒田総裁が任期を迎えた後に、次の体制の下でマイナス金利が解除される、との見方を強めているのだろう。

黒田総裁がいかに強く金融政策の変更を否定しても、その発言は、2023年4月以降の金融政策には影響力を持たないのである。退任時期が1年2か月程度に近付く中、黒田総裁の発言の影響力が低下する、いわゆる「レームダック化」が進んでいる。退任時期がさらに近付く中では、黒田総裁の発言の影響力は一段と低下していくことになるだろう。

現政権との間の良好な関係を維持するため市場の混乱は避ける

そうした中、日本銀行の市場との対話には、9人の政策委員のコンセンサスが従来よりも重要な役割を担うことになるはずだ。しかし実際には、各委員のスタンスはバラバラであり、それを市場との対話の手段にすることは難しい。この点から、黒田総裁の残りの任期中は、日本銀行の市場との対話はより困難さを増すのである。そのことは、金融政策に関する予見可能性を低下させ、金融市場のボラティリティを高めることになるだろう。

日本銀行出身者でない総裁の任期が10年間続くことから、次期総裁は日本銀行出身者となる可能性が比較的高いように思われる。そのもとでは、日本銀行は比較的円滑に、異例の長期金融緩和がもたらす副作用を軽減する正常化策を進めていくことが可能となるのではないか。現在の政権との間で比較的良好な関係を維持すれば、その可能性はより高まるだろう。

現政権が最も警戒するのは、日本銀行が政策を変更して正常化に踏み出すことではなく、その過程で急速な円高や株価急落など金融市場が混乱することだろう。この点に配慮すれば、日本銀行の事務方は、少なくとも次期総裁が決まるまでは、利上げ観測などが金融市場を動揺させることをできる限り回避するように努めるのではないか。この点では、現在、政策変更を強く否定する黒田総裁と日本銀行の事務方との利害は一致しているのだろう。

ただし、事務方は、利上げ観測の浮上でイールドカーブがスティープ化することが、金融機関の収益環境を助けることや、利上げ観測が、国民の間で現在は不人気な円安が進むことに歯止めをかけることなどのメリットもそれなりに感じているはずだ。この点から、市場の利上げ観測を一定程度は容認する姿勢を滲ませるコミュニケーション手段を、事務方はとるのではないか。

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