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インドが中銀デジタル通貨(CBDC)『デジタル・ルピー』の発行計画を明らかに

2022/02/02

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「デジタル・ルピー」を2023年度に導入する計画

インド政府は2月1日に、インド準備銀行(中央銀行)が中銀デジタル通貨(CBDC)「デジタル・ルピー」を2023年度(2023年4月~2024年3月)中に導入する計画であることを突然明らかにした。

インドは以前より、中銀デジタル通貨の発行に意欲を見せていた。昨年7月にインド準備銀行のシャンカル副総裁は、「中銀デジタル通貨の段階的な導入を検討しており、根本的な技術や発行方法などさまざまな問題を調査中だ」と説明していた。ただし、「発行には慎重な調整と実施への微妙なアプローチが必要だ」とも述べていた。

さらに、昨年11月にインド準備銀行の決済部門の高官は、2022年4-6月期にも中銀デジタル通貨を試験的に導入する可能性がある、と述べていた。しかし他方で、中銀デジタル通貨を主にリテールで利用されるものとするか、ホールセールで利用されるものとするかは決まっていない、と説明していた。さらに、中銀デジタル通貨を中央銀行が直接個人や企業に発行するのか、銀行など中間業者を介して発行するのか、あるいは、分散型にすべきか、半ば中央集中型にすべきか、などはまだ検討中としていたのである。

つまり昨年11月の時点では、中銀デジタル通貨の具体的な設計については、何も決まっていなかったのである。そこからわずか数か月で、今回発行計画を明らかにしたのは驚きである。実際には、まだ生煮えのプランであり、かなり限定的な利用、つまり試験的導入に近い形での発行から始める可能性も十分にあるだろう。1日に財務大臣は、「ブロックチェーンのような最新技術を組み合わせて検討する」とのみ説明している。

民間の暗号資産への対抗が最大の狙いか

インド準備銀行は、暗号資産(仮想通貨)がマクロ経済や金融安定に及ぼすリスクについて、繰り返し懸念を表明してきた。シャンカル副総裁は、「中銀デジタル通貨は決済システムに利益をもたらすだけでなく、変動しやすい民間の暗号資産から一般市民を守るためにも必要かもしれない」、「中銀デジタル通貨は、民間の暗号資産の変動性から人々を守ることができる」などと発言していた。

この点から、インドが中銀デジタル通貨を発行する最大の狙いは、民間の暗号資産に対抗して、より利便性の高いデジタル通貨を中央銀行自らが発行すること、と類推できる。それ以外にも、シャンカル副総裁の発言からは、現金への依存度を下げること、より低コストでの国際決済を可能にすること、インド・ルピーの国際的地位を維持すること、などの狙いもうかがえる。

主要国では中国に次いでインドが2番目の中銀デジタル通貨の発行国に

そして、欧州中央銀行(ECB)が昨年7月に、中銀デジタル通貨「デジタルユーロ」の創設につながる24か月の「段階的調査」を開始し、導入に前向きな姿勢を見せたこと、今年、中国が中銀デジタル通貨「デジタル人民元」を発行する見通しであることなど、他国での動きが、インドに中銀デジタル通貨の発行を急がせたことが考えられる。

「デジタル・ルピー」の具体的な設計については、現時点では全く不明であるが、仮に2023年度(2023年4月~2024年3月)中に本格的に発行されれば、それは経済規模の大きい主要国の中では、ユーロ圏を追い越して中国に次ぐ2番目となるだろう。従来、小規模な新興国で多く導入されてきた中銀デジタル通貨が、いよいよ主要国にも本格的に広がり始めることになる。「デジタル・ルピー」の発行は、欧州、米国、日本など、先進国の中銀デジタル通貨の議論にも、大きな影響を与えることになるだろう。

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