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利上げ観測を受け、『いいとこどり』のコロナ相場が終焉した米国株式市場

2022/02/04

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ハイテク株専門ヘッジファンドの運用成績は1月に2桁のマイナス

昨年は世界の株式市場をリードした感があった米国株式は、今年は一転して年初からスランプに陥っている。1月にはS&P500指数が約5%、ナスダック指数が約9%下落し、2020年3月以来最悪のパフォーマンスの月となった。その大きなきっかけとなったのは、米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げ(政策金利引き上げ)観測の高まりである。

ナスダック指数の下落幅がより大きかったのは、そこに多く含まれるハイテク株の価格の大幅下落によるものだ。ハイテク株に代表されるグロース株(成長株)は、一般に金利上昇の打撃を大きく受けやすい。将来の成長への期待が強く織り込まれたグロース株は、株価を一株当たり利益で割ったPER(株価収益率)が高く、その逆数である益利回りが低い傾向がある。低金利環境のもとではこの益利回りの低さは容認されるが、金利水準が上昇する中では、益利回りの低さがハイテク株への投資妙味を低下させる傾向があるのだ。

1月の米国株式相場の急落で、ハイテク株やその他のグロース株への投資を専門とするヘッジファンドの運用成績は、2桁のマイナスに陥った。ウォールストリート・ジャーナル紙によると、著名ヘッジファンドのタイガー・グローバル・マネジメントも、1月の運用成績はマイナス14.8%になったという。

「コロナ相場」を支えた3つの追い風

ハイテク株、グロース株が主導する形での米国株式の調整が、この先どの程度の期間、規模で進むかについては、FRBの利上げの幅やそのペースに大きく依存することから、現時点ではまだ不確実性は大きい。足もとでは、グロース株からバリュー株に投資先をシフトする動きも投資家の間で見られており、株式市場全体が大幅な調整局面に入った、と判断するのはまだ早いかもしれない。

一方、コロナ問題によって経済活動が低迷する中で米国株価が大きく上昇するという、異例の「コロナ相場」が終わった可能性は高いのではないか。

コロナ問題下で株価が予想外に上昇したのは、個人の巣籠り傾向が強まったことと深く関係している。巣籠りで家の中での消費行動が強まると、それは各種ネットサービスを提供するGAFAなど大手ハイテク企業の業績に追い風となる。さらに、巣籠り傾向を強めた若者が、新たにロビンフッド等のアプリを使って株式投資を始めた。その際に投資対象の中心となったのが、ハイテク株であった。

さらに、コロナ問題が続く中では異例の金融緩和が続く、との期待も、米国株、特にハイテク株に追い風となったのである。コロナ問題下での米株式市場は、こうした3つの追い風に支えられてきた。

2021年春頃になって、コロナ問題が山場を越えたとの見方が高まる中でも、こうした3つの追い風が一気に逆風へと変わり、株式市場の上昇傾向を止めることはなかった。コロナ問題が緩和することで経済が正常化することへの期待が株式市場の好材料として新たに浮上する一方、異例の金融緩和が直ぐに修正されることはないとの見方が強かったためである。

ただし、このような市場の解釈は、いわば「いいとこどり」であり、もともと長く続く性格のものではなかった、と言えるのではないか。コロナ問題が緩和し、経済が正常化すれば、FRBは金融政策を正常化していくことは避けられない。そして、予想外の物価高騰によって、金融政策の正常化が思いのほか前倒しされる情勢となってしまったのである。

「いいとこどり」から「悪いとこどり」に

昨年末に再び急増した米国での新規感染者数は、足元ではやや一服感が見られる。ただし、先行きの感染問題については、依然不透明である。感染問題が経済の正常化を妨げるとの見方が強まれば、それは株式市場の逆風である。さらに、物価の高騰が続く中では、仮に感染問題が経済情勢を悪化させても、それがFRBに利上げを思いとどまらせることにはなりにくい。感染問題の高まりは、感染を恐れて再雇用をためらう人が増えることや、感染して職場からの離脱を余儀なくされる人が増えることで、供給制約の面から物価上昇リスクをさらに高める可能性があるからだ。

一方で、感染問題が緩和され、経済が正常化を続けても、それはFRBの利上げを後押しすることになり、株式市場にはやはり逆風だ。予想外の物価高騰が生じたことにより情勢は大きく変化し、もはや株式市場の「いいとこどり」は、「悪いとこどり」へと変質してしまった感がある。

実際のFRBの金融政策にはなお不確実性が残るとは言え、「いいとこどり」で成り立っていた「コロナ相場」はもはや戻ってこないと考えた方が良いのではないか。そうであれば、今後の米国株式市場のパフォーマンスは、過去2年程度と比べて見劣りするものとなることは避け難いだろう。

(参考資料)
"Growth Hedge Funds Suffer Worst Rout in Years", Wall Street Journal, February 3, 2022

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