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日銀は10年国債利回りの変動レンジ上限を死守しない

2022/02/09

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日本銀行は利回り上昇よりも円安進行を警戒

米国長期国債の利回り上昇の影響と、来年4月の黒田総裁退任後の日本銀行の利上げ(政策金利引き上げ)観測とを受けて、日本の長期国債の利回り上昇が続いている。10年国債利回りは6年ぶりの水準を連日更新し、2月9日には一時0.22%にまで上昇した。

日本銀行は10年国債利回りを目標とするイールドカーブ・コントロール(YCC)を導入しているが、その変動レンジの上限である+0.25%に実際の利回りが接近する中、日本銀行の対応に市場の注目が集まっている。

結論から言えば、日本銀行は、利回りの変動レンジの上限突破を何が何でも阻止するような強い姿勢は見せないのではないか。仮に利回りの上昇を抑えることに成功すれば、米国の長期利回りがさらに上昇する中で、相当幅で円安が進行するリスクが高まるためである。円安進行は物価高を促すことから、「悪い円安」として国民から不満が高まっている。

「金融緩和の点検」で10年国債利回りの変動幅を拡大

2021年3月の「金融緩和の点検」で、日本銀行は10年国債利回りの変動幅を、それ以前の0%を中心とする概ね±0.1%から、±0.25%程度へと修正した。その狙いは、市場のボラティリティを高めて流動性を維持することと、イールドカーブのスティープ化を促すことで、金融機関の収益改善を助けること、の2点であったと考えられる。

他方、変動レンジの上限と下限では、異なる扱いで臨む考えであることを、日本銀行は以下のように説明していた。「なお、特に下限については、日々の動きの中で金利が一時的に下回るような場合に、そうした動きに厳格には対応しない」。裏返せば、上限については、それを超える利回りの上昇は断固として止める意思がある、とも解釈できた。

さらに、利回り上昇を止める手段として、「連続指値オペ制度」を新たに導入したのである。日本銀行の説明は以下の通りである。「金利の大幅な上昇を抑制する方法としては、特定の年限の国債を固定金利で無制限に買い入れる指値オペがある。これをさらに強化するために、一定期間、指値オペを連続して行う「連続指値オペ制度」を新たに導入する」。

しかしこうした説明は、2021年3月に利回りの変動レンジを拡大した目的が、利回りの上昇を容認することにあると市場が理解して、市場がそれに過剰に反応することを抑えることを日本銀行が当時狙っていたと考えられる。従って、利回りの変動レンジが上限を上回ることを、現時点では日本銀行は強く警戒していないのではないか。

日本銀行は長期国債の買入れ額を増やしていない

YCCのもとで、日本銀行が長期国債利回りをコントロールする基本的な手段は、長期国債の買いオペの調整である。利回り上昇を抑えることを狙うのであれば、まずは長期国債の買入れ額を増やすことがその第一歩となる。長期国債の買入れ額は、2016年から減少傾向にあり、コロナショックで一時的に増加したものの、過去1年間は再び減少傾向で推移してきている。その流れは、足元でも変わりはない。

買入れ額を増加させれば、利回りには下落圧力はかかるが、年明け後に利回りが上昇傾向を鮮明にする中でも、日本銀行は買入れ額を増やしていない。このオペレーションから、日本銀行が利回りの上昇を容認している姿勢が見られるのである。

ちなみに、日本銀行が長期国債の買入れ額を増やせば、それは金融緩和の強化となる。物価上昇率が高まるなかで、利回り水準を維持するために長期国債の買入れ額を増やし、金融緩和を逆に強化することを余儀なくされる、というのが、YCCという政策の枠組みが抱える本源的な矛盾でもある。

日本銀行は長期国債の利回り上昇を容認し、YCCという政策の枠組みの運用を緩めることで、そうした矛盾を回避しようとしている面もあるのではないか。

指値オペも「スムージングオペ」の性格が強いか

10年利回りの上昇がさらに続けば、日本銀行は臨時オペや指値オペを行って、上昇を牽制することが見込まれる。それでも、+0.25%の上限を死守するようなオペレーションとはならないのではないか。既に見たように、完全に長期利回りの上昇を止めてしまえば、その後に円安が急伸するリスクが高まる。また、イールドカーブの上昇自体は、市場の流動性確保や金融機関の収益環境改善の観点から、望ましいことでもあるからだ。

10年利回りが0.25%の上限を超えてから、初めて臨時オペ、指値オペを順次実施していく可能性を見ておきたい。その後、市場の利回り水準が切り上がっていくなかで、指値オペの固定金利の水準を合わせて切り上げていくことも考えられる。その場合、オペは利回りの上昇を特定水準で食い止める手段ではなく、利回りの上昇を緩やかなペースに抑える、いわば「スムージングオペ」の性格が強いものとなるのではないか。

最終的な対応は総裁の事務方の調整で決まるか

以上がメインシナリオであるが、仮に、日本銀行が指値オペを使って、10年利回りの上限を死守する強い姿勢を見せることがあるとすれば、それは、総裁の意向が強く反映される場合なのではないか。

日本銀行の事務方は、円安を食い止め、また金融機関の収益に追い風となる長期利回りの上昇を、一定程度容認するスタンスだろう。さらに、利回りの変動拡大を容認することで、長期利回りの水準をコントロールするという政策の枠組みを次第に弱めていき、いずれは、市場の流動性を低下させ、銀行の収益を損ねるなど副作用が大きいYCCを撤廃することを狙っているのではないか。黒田総裁は、円安を容認する姿勢が強く、他方で変動レンジを超える利回り上昇は、政策の枠組みを堅持する観点から、少なくとも自らの任期中は容認しない姿勢が強いのではないか。

このように、利回り上昇に対する最終的な日本銀行の対応は、総裁の事務方の調整、日本銀行内部での力関係によって決まることになるだろう。

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