フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 投資家らの反発を受けるEUグリーン・タクソノミー

投資家らの反発を受けるEUグリーン・タクソノミー

2022/02/21

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

EUタクソノミーで天然ガスと原子力がグリーン認定

サステナブル・ファイナンスの大きな指針となることが期待されてきた欧州連合(EU)の「グリーン・タクソノミー(環境に優しい投資の分類体系)」が、大きな議論を巻き起こしている。

このEUグリーン・タクソノミーは、環境に重大な悪影響を与えない「グリーン」とみなしうる経済活動を列挙するもので、どのような事業や製品が持続可能であるかの判断を示すことになる。

それは、EUが「お墨付き」を与えることで、民間資金を持続可能と考えられる事業へと誘導する流れを作り出すもので、企業の事業計画と投資家の投資計画に大きな影響を与える。

EUは2030年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で55%以上削減する目標を掲げている。その達成には、毎年3,500億ユーロ(約45兆円)の投資を呼び込む必要があるとされる。

欧州委員会が2月2日に公表した最終案には、天然ガスと原子力が条件付きで含まれたことが注目を集めた。欧州委員会は、昨年4月に、石炭火力発電を対象外にするなどのタクソノミーを既に発表していたが、天然ガスと原子力については加盟国間で意見が大きく割れたため、最終判断を先送りしていたのである。

原発に関しては、新設炉は2045年までに建設認可を得たもの、既設炉は2040年までの運転延長許可を取得したものであることが条件だ。また2050年までに高レベル放射性廃棄物処分施設の詳細な運用計画を策定することが、加盟国に求められる。天然ガスについては、2030年までの建設許可のほか、二酸化炭素排出量を1キロワット時当たり270グラム以下とすること、2035年末までに燃料を低炭素ガスなどに切り替えることが必要となる。

ドイツは原発に反対もEUタクソノミーは法制化へ

このように条件付きとはいえ、原発と天然ガスを持続可能に分類するこのタクソノミーには反対意見も少なくない。最終案の公表を受けて、オーストリアとルクセンブルクは、同案が施行された場合には法的措置も辞さない構えを示している。他にも、反対姿勢を鮮明としているのは、脱原子力を進めるドイツなど計5か国である。ドイツは、福島原発事故を受けて脱原発に転換し、原発の停止を続けてきた。残る3基は今年中に停止する予定だ。他方で、天然ガスについては、再生可能エネルギー普及までの橋渡しの技術として許容する姿勢である。

一方で、原発を加えることを強く働きかけてきたのはフランスである。フランスは電源の7割を原発に依存している。福島原発事故の後、オランド前大統領は原発への依存度を2025年までに50%へ引き下げる目標を掲げた。しかしマクロン大統領はその達成時期を2035年に先延ばしし、昨年11月には「数十年ぶりに原発の建設を再開する」と表明した。さらにマクロン大統領は2月10日には、4月の大統領選挙を意識して、国内に次世代型の原子力発電所6基を新たに建造すると表明した。新規着工は約20年ぶりのことである。2028年に着工し、2035年の稼働開始を目指す。また2050年に向け、追加で8基の建設を検討する方針も明らかにした。

EUタクソノミーを欧州議会で否決するには加盟国の過半数が必要となる。また理事会では27か国中20か国の反対が必要となる。そのため、否決される可能性はかなり低く、向こう4~6か月でEUタクソノミーは正式に法制化されることになろう。

投資家の信頼を大きく損ねた可能性

このようにEUタクソノミーは、純粋にカーボンニュートラルの達成という観点からの科学的根拠のみならず、加盟国の利害調整という政治的要素を反映して決まる方向にある。環境保護主義者や一部の投資家は、原子力と天然ガスを含める案に対して、タクソノミーの一貫性と有用性が損なわれる恐れがあると異議を唱える。また、原子力と天然ガスのプロジェクトが潜在的に環境にやさしい、持続的とみなされた場合、そうしたプロジェクトが、再生可能エネルギー関連の投資に向かう資金を奪ってしまい、脱炭素の流れに悪影響を与える可能性があると指摘する。金融市場では、EUの脱炭素政策に向けた投資家の信頼が薄れ、脱炭素を後押しする資金の流れに揺らぎが生じる可能性もある。

EU機関の1つである欧州投資銀行(EIB)は原子力と天然ガスを「グリーン」に区分けする分類を使用しない可能性を示唆した。また、投資家の一部では、タクソノミーで示される分類法の利用を控える動きも見られ始めており、EUタクソノミーの権威は、既に大きく揺らいでいる。

他方で、英国や米国でも独自のタクソノミーを策定する動きがある。EUタクソノミーに対する投資家の批判を受けて、こうした国では原子力や天然ガスを持続的としないタクソノミーを策定していく流れとなることも考えられる。その場合、それらがEUタクソノミーから国際標準の地位を奪っていく可能性もあるだろう。

(参考資料)
"Nuclear Power, Natural Gas Secure EU Backing as ‘Green’ Investments", Wall Street Journal, February 3, 2022
「DJ-【焦点】ESG関連規制の動き、今年5つの注目点(1)」、2022年1月7日、ダウ・ジョーンズ米国企業ニュース
「「タクソノミー」法案を拒否する欧州議会の超党派」、2022年2月8日、フィナンシャルタイムズ
「脱炭素へ原発、欧州委決定 EU内、温度差も 「グリーンエネルギー」」、2022年2月3日、朝日新聞
「EU2カ国、欧州委提訴へ 原発・ガス「持続可能」に反発」、2022年2月3日、日本経済新聞電子版
「[ワールドエナジー]EUタクソノミー最終案/原子力と天然ガス、条件付きで追加」、2022年2月4日、電気新聞
「EU、温暖化抑制認定へ 原発、投資環境好転も 新増設・建て替えに追い風」、2022年2月4日、産経新聞
「EU 原発・ガス 現実的着地 タクソノミー規則 石炭火力減、活用避けられず」、2022年2月4日、東京読売新聞
「原発評価、割れるEU 仏、推進方針明確 独「持続不可能」」、2022年2月3日、朝日新聞

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn