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先進国が狙うルーブル急落とその波及効果

2022/02/28

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「最終兵器」のSWIFT制裁発動でも先進国の金融市場は安定維持

「最終兵器」とも言われたSWIFT(国際銀行間通信協会)制裁、つまりロシアの銀行をSWIFTから排除するという衝撃的な措置が、週末に先進国から発表された。しかし、週明け後の2月28日の日本の金融市場では、株式市場、為替市場(ドル円レート)などは比較的安定を維持している。ロシアとウクライナの間で停戦が合意されるとの期待が、先進国の金融市場の混乱を辛うじて食い止めているのである。

しかし一方で、ロシアの通貨ルーブルは急落している。ルーブルは一時対ドルで119ルーブルと史上最安値を付けた。ロシアがウクライナ侵攻を決めた24日につけた1ルーブル90ドル程度を、一時的には3割近くも下回ったのである。もはや通貨危機の状況である。

SWIFT制裁が、ロシア経済にどの程度打撃を与えるかは、その具体的な措置が明らかにならないと評価できない。一部の銀行のみが今回のSWIFT制裁の対象となるが、エネルギー関連の貿易決済を担う銀行が対象から外れれば、経済的な打撃はそれほど甚大ではない可能性がある。28日の原油価格が大幅上昇を免れているのは、そのためでもある。

「SWIFT制裁」と「中銀制裁」でルーブルは暴落

しかし、SWIFT制裁の対象範囲いかんに関わらず、制裁の対象となったというだけで、ルーブルの信頼性は大きく落ちる。主要通貨との交換が難しくなれば、流動性は大きく下がり、その分、価格が下がるのは道理である。

さらに先進国は、SWIFT制裁と同時に、ロシア中央銀行が海外の中央銀行に預けている外貨を凍結する措置を決めた。この結果、ロシア中央銀行は主要通貨を用いた為替介入でルーブルを買い支えることが難しくなったのである。SWIFT制裁と外貨準備の凍結という2つの措置が重なったことで、28日の市場でルーブルが大きく下落することは事前に予想できた。

さらに、ルーブルが大幅に下落すると、ルーブル建ての貿易には大きな影響が及ぶ。ロシアに製品を輸出して、その代金を、価値が急激に下がるルーブルで受け取ることを、他国は敬遠するようになるからだ。ただし、先進国とロシアとの貿易は、ルーブル建て契約はほとんどないと見られることから、貿易が大きく影響を受けるのは、ロシアとロシアの友好国との間の貿易が中心となる。

ルーブル暴落がロシア国内の世論に与える影響を狙う

ロシアに対する金融面での制裁措置によって、エネルギー関連を中心にロシアから先進国への輸出が滞れば、それはロシアにとっての打撃であるとともに、先進国側にも打撃となる。いわば返り血を浴びる、あるいは「ブーメラン効果」が生じるのである。ルーブル安には「ブーメラン効果」は比較的小さいことから、ためらいなく、先進国はルーブル安を促す金融制裁措置をとることができる。

一方で、ルーブル安は、輸入品価格の上昇をもたらし、既に高騰しているロシア国内での物価上昇率をさらに押し上げる。これはロシア国民の生活に大きな打撃を与えることになるだろう。しかしそれは、先進国が狙っている点でもある。

一段の物価高騰がロシア国民の間での反戦機運を煽り、プーチン大統領への批判が高まることにつながれば、それはロシアのウクライナでの軍事行動を抑える方向に働く可能性がある。ルーブル安を狙った先進国の金融制裁措置には、そのような目的があるのではないか。

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