フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 ロシアの外貨準備半減と深まる金融面での危機

ロシアの外貨準備半減と深まる金融面での危機

2022/03/01

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

ロシアが国外への外貨送金を禁止

先進国は2月22日に対ロシアの経済・金融制裁措置を打ち出し、その後も段階的に制裁を拡大してきた。その際に先進国は、ロシアから報復の制裁措置が打ち出されることを覚悟していたが、なかなか出てこないことが意外であった。

3月1日にようやく、ロシアの報復・対抗措置が打ち出されたが、それは、全ての国内居住者を対象に、国外への外貨送金を禁止するというものだった。欧州への天然ガスの供給停止を警戒してきた先進国にとっては、肩透かしとなった感がある。国外への外貨送金を禁止するのは、果たして報復の経済・金融制裁措置だろうか。それよりも、外貨の海外への流出を抑える自衛措置なのではないか。

ロシアの一部の銀行のSWIFT(国際銀行間通信協会)からの排除、米国でのロシア一部の銀行のコルレス業務の停止、先進国でのロシア中央銀行の外貨準備の凍結によって、ロシアは一気に外貨不足に陥るリスクが高まった。特に、先進国でのロシア中央銀行の外貨準備の凍結という異例の措置の決定は、ロシアに大きな打撃を与えたのではないか。

制裁措置でロシアの外貨準備は一気に半減

ロシア中銀はGDPの4割にも相当する約6,300億ドル(2021年末)の外貨準備を持っている。これは、世界で5番目の規模である。ロシアはその経済規模では世界の11番目であるが、経済規模に比べて外貨準備が大きい。

クリミアを併合した2014年から、資源輸出などで稼いだ外貨を積み上げ、ロシアは外貨準備を1.6倍にも増やしたのである。SWIFT制裁など先進国から金融制裁を受けることなどを当時から予見していたのではないか。

ところが、主要国の中銀によって外貨準備を凍結されることは、予想していなかったのかもしれない。2021年6月時点で、ロシアの外貨準備の内訳をみると、ユーロが32.3%、ドルが16.4%、英ポンドが6.5%である。円は2%程度と推測される。それ以外は、金の21.7%、中国人民元の13.1%などである。先進国で外貨準備を凍結されたことで、全体の57%程度の外貨準備を、ロシアは一気に失ったことになる。

外貨不足への懸念で国内銀行では取り付け騒ぎも

これは、ルーブルの信頼性を大きく落とすものだ。ロシア中央銀行が主要通貨を売ってルーブルを買い支えることができなくなる。実際、2月28日のルーブルは、対ドルで一時3割近くも下落した。さらに今後期限を迎える対外債務(合計600億ドル程度)の返済が外貨不足でできなくなり、ロシアがデフォルト(債務不履行)に陥る可能性が高まる。

外貨不足の問題は、ロシアの国民生活にも打撃を与える。多くのロシア人は、貯蓄の相当部分を外貨で国内銀行に預けているのである。国際金融協会(IIF)の試算では、ロシア人の預金の21%は外貨建てだという。これは自国の通貨ルーブルに対する信頼性の低さの反映だ。

SWIFT制裁、ロシア中銀の外貨準備凍結を受けて、ロシア国民は、銀行から預金を引き落とす行動を強めている。いわゆる駆けつけ騒ぎ(バンクラン)に近い状況である。その多くが外貨預金の引き出しだろう。

ロシアの銀行の手持ちの外貨が底を付けば、一種のデフォルトとなり、民間銀行が休業をせざるを得なくなる。ルーブル安による物価高リスクと合わせて、制裁措置は国民生活に既に大きな打撃を与えているのである。

ロシアは通貨危機から銀行危機、対外債務危機へ

先進国側が打ち出している対ロ経済・金融制裁は、まだ強化の余地を大きく残しているが、現状までに打ち出された措置だけでも、ロシアには金融面で大きな打撃を与えている。既に通貨危機の状況は生じているが、これが国内銀行危機、そして対外債務危機へとさらに発展していくことが視野に入ってきた。そうした中で、ロシアは外貨収入のさらなる減少を自ら招く、欧州への天然ガスの供給停止を報復措置として打ち出せない状況に陥っている可能性があるだろう。

先進国の制裁措置は、現時点で既に、ロシアの国民生活に大きな影響を与えており、それが反戦、厭戦機運の高まりや、政府に対する批判の高まりに繋がることで、ロシア政府のウクライナでの軍事行動に一定程度抑制効果をもたらす可能性も考えられる。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn