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SWIFT制裁の対象はロシア7行か。エネルギー供給への影響に配慮したがロシアへの打撃は既に大きい

2022/03/02

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「SWIFT制裁」の対象銀行は、エネルギー供給への打撃に配慮して選択

ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁措置として、欧米諸国などは2月26日に、ロシアの銀行をSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除する「SWIFT制裁」を決定した。どの銀行を対象にするかなど、具体策は数日のうちに発表するとしていた。正式に決まれば、10日後に発効となる。

現時点で、正式な発表はまだなされていないが、米ブルームバーグ通信は3月1日に、ロシアの銀行7行を対象とすることで欧州連合(EU)が合意した、と報じている。それによると、対象となる銀行はVTBバンク、VEBバンク、バンクロシア、オトクリティ銀行、ノビコムバンク、プロムスビャジバンク、ソブコムバンクの7行になるという。VTBバンクは資産規模でロシア第2位、ロシアの金融機関の全資産の約20%を保有しているという。

重要なのは、資産額でロシア第1位のズベルバンク、そして、国営ガス会社ガスプロム傘下のガスプロムバンクを対象から外したことだ。ガスなどのエネルギーの貿易決済に支障が生じれば、ロシアから欧州への天然ガスの供給が滞ってしまうことを警戒し、欧州にとって打撃が深刻にならないような制裁措置にとどめたのである。EUは天然ガスの4割をロシアに依存してきた。

ロシアはこの報道に、ほっと胸を撫でおろしていることだろう。エネルギーの貿易決済に大きな支障が生じれば、ロシア経済には甚大な打撃となる。エネルギー関連輸出は輸出全体の7割以上を占めている。また、その輸出収入は、ロシア政府の歳入の4割程度を占めていると見られる。エネルギー関連輸出が大幅に減少すれば、戦争遂行能力にも影響が及ぶだろう。

さらにロシアは、先進国からの度重なる経済・金融制裁に対して、当初から広く予想されていた「欧州諸国に対する天然ガスの供給削減あるいは停止」という報復措置を打ち出すことができないでいる。それは、自国の経済や財政にも大きな打撃となるからである。

「SWIFT制裁」の決定だけでロシア経済・金融には危機的な打撃

対象となる銀行を制限したことで、ロシアの銀行をSWIFTから排除する「SWIFT制裁」の効果はあまり出ない、と考えるのは誤りである。「SWIFT制裁」とロシア中銀の外貨準備を凍結する先進各国の措置を合わせて打ち出した時点で、ルーブルに対する信頼性は大きく低下し、ルーブル暴落が生じているのである。「SWIFT制裁」によって直接貿易決済が阻害されなくても、ルーブルの信頼性が低下し、その価値が大幅に落ちることで、SWIFTを経由しないルーブル建ての貿易決済でも大きな支障が生じ、貿易が滞る可能性が高い。ロシアの貿易相手国は、ルーブル建ての輸出代金が大きく目減りすることを恐れて、輸出を見合わせることが予想されるからだ。

また、「SWIFT制裁」によって、直接制裁対象とはならなくても、ロシアの銀行との取引を控える海外の銀行は増えてくる。そのため、外貨準備の凍結と合わせて、ロシアは深刻な外貨不足に陥りつつあるのである。これは、ロシアの対外債務の不履行(デフォルト)をまもなく引き起こす可能性が高いことに加えて、国内の銀行不安にもつながっている。国際金融協会(IIF)の試算では、ロシア人の預金の21%は外貨建てだという。ルーブルの対外的な価値が急落するなか、国民は銀行から外貨預金を急いで引き出そうとしている。外貨不足でロシアの銀行がそれに応じられなくなれば、それは一種の債務不履行(デフォルト)であり、銀行は休業に追い込まれる可能性が出てくる。これは取り付け騒ぎ、銀行危機と呼べる状態であろう(コラム「ロシアの外貨準備半減と深まる金融面での危機」、2022年3月1日)。

このように、ロシアのエネルギー供給に甚大な打撃が生じないように、「SWIFT制裁」の対象銀行を慎重に選択するとしても、「SWIFT制裁」決定という事実だけでも、上記のように波及効果は大きく、ロシア経済・金融は既に危機的状況に向かって動き始めた、と言えるだろう。

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