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近づくロシアのデフォルト。1998年ロシア危機との違い

2022/03/04

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大手格付機関はロシアを投機的格付けに

主要国での外貨準備の凍結やロシアの銀行に対するSWIFT(国際銀行間通信協会)制裁、あるいはドル調達を大きく制限する米国でのコルレス制裁などを受けて、ロシアが対外債務の返済不履行、デフォルトに陥る可能性が高まってきた。

格付会社のS&Pグローバル・レーティングは先週、ロシアの格付けを「BBB-」からジャンク級(投機的格付け)の「BB+」へと引き下げた。さらに3日には「BB+」から「CCC-」に8段階引き下げた。

2日には、格付会社フィッチ・レーティングスも、ロシアの長期外貨建て発行体デフォルト格付け (IDR)を「BBB」から「B」に引き下げている。一気に6段階の大幅格下げである。さらに3日には、格付会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスも、ロシアの長期外貨建て債格付けを「Baa3」からジャンク級(投機的格付け)の「B3」に引き下げた。大手格付会社3社がいずれも、ロシアの外貨建て債を投機的格付けへと引き下げたのである。

ムーディーズは「ソブリン債の返済が中断される可能性は極めて高い」と指摘している。ロシアが債務の返済意欲に欠け、国外への外貨送金規制を強化した場合などはデフォルト(債務不履行)の定義に当たることになる、との認識を示している。既にロシア政府は、ルーブル建てのロシア国債を保有する外国人投資家に対する利払いを停止し、また、国外への外貨送金を禁止している。ムーディーズが示したデフォルト認定の要件は、既に満たしつつあるように思える。

3月16日以降の利払い、元本返済に注目

各格付会社が注視するのは、ロシアのソブリン債の海外保有者への利払いである。日本経済新聞が伝えるJPモルガンの分析によると、3月中旬から始まる断続的な利払い期限の到来の中で、ロシアが正式にデフォルトに陥る可能性が高まる。最初の支払期限は3月16日である。猶予期間は30日に設定されている。ここで利払いが滞れば、早ければ4月中旬にもデフォルト認定がされる可能性がある。

3月だけで利払いと元本返済が合計7.3億ドルに達する。そして、4月4日には、21.3億ドルもの元本返済期限が待ち受けている。遅くても5月までにはデフォルトが確定する可能性は、比較的高いように思われる。

市場ルールを無視するやり方で外国人投資家の信頼感を著しく損ねる

一方、米メディアによると、ロシア中央銀行は2日までに、ルーブル建てのロシア国債を保有する外国人投資家に対する利払いを停止した。自国通貨のルーブル建てであれば、利払いに困ることはないはずだが、これは市場安定策の一環と考えられる。

ルーブルで利払いすることは、ルーブルの国外への流出を意味し、それはルーブル安を加速させてしまうからだ。さらに、ロシア中銀の要請を受け、ロシア連邦証券保管振替機関(NSD)は、外国人顧客によるロシア証券の売却を制限すると発表した。2月28日には、外国顧客によるロシア証券の売却を拒否するように当局が国内市場関係者に指示している。

こうした一連の措置によって、外国人投資家はルーブル建ての国債や株式などの証券を売却することが一段と難しくなっている。ルーブル安や株・債券価格の下落を防ぐために、ロシアの当局はなり振り構わずに規制措置を打ち出している。これは市場ルールを無視するやり方であり、外国人投資家の信頼感を著しく損ねるものである。

1998年ロシア危機と今回の金融危機との違い

ロシアのデフォルトは近付いている、あるいは既にデフォルトに近い状態にあると言えるだろう。1998年にも、ロシアはデフォルトを起こしており、それは「ロシア危機」とも呼ばれる。ただし当時と現在とは状況は大きく異なっている。当時は経済の低迷や原油価格下落の影響で、ロシアの財政は悪化していた。今回は、ウクライナ侵攻を受けた先進国からの強力な経済・金融制裁措置によって、経済・財政環境が良好だったロシアが、にわかに金融危機、そしてデフォルトに陥りつつあるのである。

当時のロシアは、通貨の安定のためにルーブルをドルにペグ(連動)する為替制度を採用していた。しかし、米国が政策金利を引き上げる中、ドルとルーブルの連動を維持するため、ロシアは政策金利の引き上げを強いられたのである。さらに米国の政策金利の引き上げが進む中、ドルに連動していたルーブルはドル以外の通貨に対してかなり割高となり、国際競争力に対する悪影響が生じていた。つまり、物価安定の観点から、ドルに対するルーブルの安定を重視するあまり、国内経済や国際競争力を犠牲にしてしまったのである。

こうした中、ルーブルのドルペグ政策の持続性に対する市場に不信感が高まることで、ルーブル売り圧力が急激に高まり、ロシアは通貨防衛のために政策金利は150%にまで引き上げた。結局、通貨安圧力に耐えきれず、ロシアは通貨を切り下げたが、それによって外貨建て対外債務のルーブル換算金額は急激に膨らんだ。財政環境も悪化する環境下で、ロシアは対外債務を 90日間支払い停止すると発表し、自らデフォルトの道を選んだのである。

こうした一連の動きは、前年1997年に起きたアジア通貨危機と似ている。その余波がロシアで起きたと言えるだろう。

当時と比べると、ロシアの経済はより強くなり、財政環境は大きく改善した。また、ドルへのペグ制ももはや採用していない。無理にルーブルをドルにペグしなくても国内物価は安定していたのである。ウクライナへの侵攻前は、ロシアの経済ファンダメンタルズは良好だったのである。

デフォルト後も先進国、IMFからの支援は得られない

ただし、ロシア危機の際には、海外から手厚い支援の手が差し伸べられ、国際通貨基金(IMF)による融資の支援も受けていた。ところが、現状ではウクライナ侵攻によって、ロシアは多くの国を敵に回すことになっている。欧米が強い影響力を持つIMFは、ロシアに救済の手を差し伸べることはないだろうし、ロシアも支援を要請することはないだろう。ロシアはIMFの特別引き出し権(SDR)240億ドル相当を持っている。これをドル、ユーロ、ポンド、人民元、円と交換できる権利を持っているが、実際には、現在の金融制裁の下では交換できるのは人民元だけだろう。

デフォルトに陥った後のロシアは、先進国やIMFなどからの支援を受けることはなく、また、海外債権者との債務リストラ交渉も当面実施されることはないだろう。ロシアの資産を持つ海外投資家は、その資産を部分的にでも取り戻すすべを奪われてしまうのではないか。

こうなれば、もはやロシアの信用力は大きく下がり、国際資本市場に復帰することは難しくなり、また国際金融市場から切り離された状況に長く置かれることになるだろう。金融面で助けとなるのは中国などごく一部の友好国だけだ。ウクライナ侵攻によって、ロシアは経済・金融面では大変大きなものを失ってしまったと言える。

(参考資料)
「ロシア中銀、外国人へのルーブル建て国債利払い停止」、2022年3月3日、日本経済新聞電子版
「ロシア債務、3月中旬期限「不履行の恐れ」 米銀分析」、2022年3月3日、日本経済新聞電子版

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