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データで読み解くロシア・デフォルトの衝撃

2022/03/07

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デフォルトとは何か?

ロシアが先進国からSWIFT(国際銀行間通信協会)制裁や外貨準備の凍結措置を受けたことで、ロシア国債はデフォルト(債務不履行)に近付いているとみられる。

デフォルトとは、債券発行者(債務者)から債券保有者(債権者)に、定められた期限通りに利子の支払いや元本の返済がなされない状態のことを言う。ただしこれは広義のデフォルトの定義である。支払い猶予が認められて、以前と同様に流通市場での債券の取引が行われ、債券発行者の信頼が大きく損なわれないこともある。通常、デフォルトの認定は格付会社によって行われるのが一般的だ。格付会社が、デフォルトに対応する格付けを付けた時点で、デフォルトが認定されることになる。

デフォルト認定の基準は格付会社によって異なり、現在大手格付会社のムーディーズ社は、「ロシアが債務の返済意欲に欠け、国外への外貨送金規制を強化した場合などはデフォルト(債務不履行)の定義に当たることになる」との認識を示している。ロシア政府は、海外投資家に対してルーブル建て国債の利払いを停止しており、既に広義のデフォルトに陥っていると言える。

JPモルガンの分析によると、ロシア国債の海外投資家への次の利払いの期限が来るのは3月16日である。支払い猶予期間は30日に設定されている。ここで利払いが滞れば、4月中旬にもデフォルト認定が格付会社によってなされる可能性がある(コラム「近づくロシアのデフォルト。1998年ロシア危機との違い」、2022年3月4日)。

ウクライナ侵攻前までは良好だったロシアの経済、財政環境

通常デフォルトは、債券発行者の資金面での支払い能力が低下することによって起きる。しかし、それとは異なる「テクニカル・デフォルト」、技術的なデフォルトというものもある。例えば米国政府は、しばしば財務省証券のテクニカル・デフォルトのリスクに直面してきた。与野党の政治的な駆け引きの結果、議会で政府の債務上限を定める法律が改定されずに、債務上限の引き上げが遅れることでテクニカル・デフォルトのリスクが生じたのである。

ロシア政府についても、ウクライナ侵攻前までは資金面での支払い能力については問題なかった。新型コロナウイルス問題で、2020年の実質GDP成長率は-2.7%と落ち込んだが、国際通貨基金(IMF)の今年1月時点の実績見通しによると、2021年には+4.5%と順調に回復し、2022年も+2.8%と堅調な成長が見込まれていた。そのもとで、ロシア政府の財政環境も良好であり、同じくIMFによると、財政収支のGDP比率は新型コロナウイルス問題で2020年は-4.0%と赤字になったが、2021年には-0.6%、2022年には+0.02%へと黒字化する見通しだった。経済の回復と原油価格上昇が財政改善を後押ししたのである。

ところが、ウクライナ侵攻を受けた先進国の制裁措置によって、外貨の調達、確保がにわかに難しくなり、ロシア政府は財務面では債務返済の能力が相応にあるとも言える状況の下で、デフォルトに向かっているのである。

経済環境が良くない中でロシア政府が財政状況を悪化させ、また無理なドルペグ(連動)の為替政策によって国際競争力を失い、さらに通貨の大幅下落圧力に直面したことで、デフォルトを選択せざるを得なかった1998年のロシア(通貨)危機とは全く異なる形でのデフォルトなのである(コラム「近づくロシアのデフォルト。1998年ロシア危機との違い」、2022年3月4日)。

ロシアの対外債務の状況を確認

ロシア中央銀行の統計から、ロシアの対外債務の状況を確認してみよう。2021年9月末時点で、官民を合わせたロシア全体の対外債務残高は4,906億ドルである。そのうち72%の3,531億ドルが外貨建て債務であり、今後デフォルトのリスクが高い部分となる。

さらに、4,906億ドルのうち671億ドルが、ロシア政府(連邦+地方)の発行する政府債(国債+地方債)となる。その99.9%が長期の債務となっており、比較的安定した債務構成となっていることが分かる。

海外が保有するこの671億ドルのロシア政府債のうち、ルーブル建てが69.4%の466億ドル、外貨建てが30.6%の205億ドルである。現在ロシア政府は、通貨防衛のため、ルーブルの流出を意味するルーブル建ての国債の海外投資家への利払いを停止している。しかしその措置はルーブルが安定すれば解除され、ルーブル建ての政府債については、結局、デフォルト(の認定)は起きにくいと考えられる。

デフォルトのリスクが高いのは、海外で保有されている外貨建て政府債の205億ドルの部分である。これは日本円換算で2.4兆円程度であることから、それほど大きい規模とは言えない。

1998年ロシア(通貨)危機とは異なる点が多い

国際決済銀行(BIS)の統計によると、2020年に、世界の外貨建て政府債(国債プラス地方債)の発行残高に占めるロシアの外貨建て政府債の発行残高の比率は3.1%に過ぎない。自国通貨建ても含めた世界の政府債に占めるロシア政府債の比率はわずか0.4%である。ロシアの政府債の存在感は、GDPで世界全体の1.7%であるロシアの経済規模と比べて、かなり小さいのである。

1998年のロシア(通貨)危機の際に、ロシアのデフォルトが先進国の金融市場にも顕著な悪影響を及ぼしたのは、その前年のアジア通貨危機の影響で金融市場に強い脆弱性が残っていたことと、ファンドが特別なポジションを作ったことによると思われる。

ロシア(通貨)危機で、米国では大手ヘッジファンドのLTCM(ロングタームキャピタルマネジメント)が破綻したが、これは、ロシア国債ロング(買い)と米国財務省証券(米国債)ショート(売り)を組み合わせた、リスクの大きいポジションをとったためである。当時財政環境の悪化や通貨安圧力を背景に、ロシア国債の価格は下落(利回りは上昇)していた。「ロシア国債は売られ過ぎ、米国財務省証券は買われ過ぎ」と判断して、LTCMはこのようなポジションをとったのである。ところがそれが裏目に出て、ロシアの国債の価格はさらに下落し、米国財務省証券の価格は上昇したため、LTCMは大きな損失を追い、破綻したのである。

当時は同様のポジションを持ったファンドが少なくないと見られていた。そうしたファンドが、ポジションの解消や、顧客の換金売りへの対応から資産の売却を迫られたことが、金融市場を動揺させたと見られる。

ロシアのデフォルトは世界の金融危機の引き金にはならない

ところが、ロシアのウクライナ侵攻以降に、ロシア国債の買いポジションを新たに持つファンドが出てきたとは思えない。1998年のロシア(通貨)危機とは異なり、事態が悪化し始めた途端に、ロシア国債のデフォルトリスクが一気に高まったからである。

さらに、ロシア政府は、市場安定化のために海外投資家が国債を含むロシアの証券を売却するのを禁じるという暴挙に出た。ロシアの国債、その他の証券に対する海外投資家の信頼は一気に地に落ちたのである。そのため、新たにロシア国債の買いポジションを持つ投資家はいないだろう。

こうした点を踏まえると、ロシア国債のデフォルトが生じても、1998年のように海外投資家がロシア国債に対してリスクの高いポジションを新たに作った結果、大きな損失を被ることは考えられない。ロシアのウクライナ侵攻以前からロシア国債や株式などを保有する海外投資家には一定程度の損失が生じ、それが経営問題へと発展する可能性は考えられるところだ。しかし、それだけで、世界の金融市場が危機的状況に陥るとは考え難い。

ウクライナ問題で世界の金融市場が大きく動揺することがあるとすれば、それは同問題がエネルギー価格の一段の高騰をもたらし、さらにそれが米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締め策を強く後押しする結果、世界経済の見通しににわかに下方リスクが高まる場合だろう。

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