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深刻な外貨不足で外貨両替禁止。ロシア国民は旧ソ連時代に戻っていく感覚か

2022/03/10

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外貨両替禁止、外貨預金引き出し規制が裏付ける深刻な外貨不足

ロシアの一部の銀行のSWIFT(国際銀行間通信協会)からの排除、主要国でのロシア中銀の外貨準備の凍結、外貨建て代金の受け取りへの不安からロシアからの輸入を見合わせる海外企業の動き、などによって、ロシアは深刻な外貨不足に見舞われている。外貨確保に向けたなりふり構わずの一連の規制強化の動きは、外貨不足の深刻さを裏付けるものだ。

ロシア中央銀行は9日、民間銀行が国民に対してルーブルを外貨に両替することを停止すると発表した。9月9日までの半年間の時限措置としている。逆に外貨をルーブルに両替することは引き続き可能である。

また、国民の銀行預金の約2割とされる外貨建て預金から引き出せる金額を、1万ドル(約115万円)までに制限する措置も打ち出した。保有通貨にかかわらずドルで支払われる。また、1万ドルを超える分は為替レートに基づいて、ロシア通貨ルーブルでの引き出しとなる。さらにプーチン大統領は、国民が投資目的で貴金属を購入する場合には、付加価値税を免除する法案に署名した。

一連の措置は、ルーブルが急落を続ける中で、国民が外貨預金を引き出す、あるいは新たに外貨を保有することを制限すること、また外貨ではなく貴金属で資産を持つことを促すことの狙いがある。

すでにロシアは国外への外貨の持ち出しの上限を1万ドルに制限していた。また銀行口座に入金した外貨の80%をルーブルに強制的に両替する、等の規制も導入していた。2月28日には輸出企業に対して、貿易での売上高の80%に相当する外貨を手放すことを義務付けていた。

外貨不足によるロシア・デフォルト観測が一段と強まる

ロシアの深刻な外貨不足は、政府が外貨建てでの対外債務を返済できず、デフォルト(債務不履行)に陥るリスクを高める(コラム、「データで読み解くロシア・デフォルトの衝撃」、2022年3月7日、「ルーブルでの外貨建て債券返済という奇策でもロシアのデフォルトは免れない」、2022年3月7日)。それがロシア国債と同時にロシアの通貨、ルーブルの信頼を損ね、ルーブルの急落にも繋がっているのである。

4営業日ぶりに再開された10日のルーブル為替取引で、ルーブルは対ドル120ルーブル近傍へと一段と下落し、史上最安値を更新した。ロシアのウクライナ侵攻前から、ルーブルは対ドルで60%もの大幅下落となっている。

ルーブルの価値が下がるほど、ロシア国民は自身の資産の価値を守るために、ルーブルを外貨に換えて持とうとするが、その中で、逆に外貨の取得や外貨預金の引き出しを強く制限されることで、ロシア国民はかなり不満を高めているだろう。

さらに、ルーブル安は物価を高騰させ、生活を圧迫するのである。2月のロシアの消費者物価は前年比9.2%と7年ぶりの水準に達したが、3月以降はさらに加速する可能性が高まっている。ロシア連邦統計局が9日に発表したところでは、2月26日から3月4日までの一週間で、国産自動車は17.1%、輸入自動車は15.2%、TVは15.0%、スマートフォンは9.6%、トマトは7.7%、バナナは7.2%、それぞれ上昇した。

身の回りから海外の製品、サービスが消えていく

さらなる物価上昇への懸念や先進国からの制裁及びルーブル安による貿易の混乱による品不足への警戒から、ロシア国民は生活品の買い急ぎに走っている模様であり、それがまた物価高を煽っている。ロシアの独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」によると、モスクワの大型スーパーチェーンのアシャンでは砂糖、塩、小麦粉などの基本物資について、1人当たりの購入量の制限に踏み切ったという。

8日には、マクドナルド、コカ・コーラ、スターバックスコーヒーといった米国を代表する企業が、ロシアでのビジネスの一時停止を決めた。ロシア国民にとっては、身の回りから海外企業の製品やサービスがどんどん消えていくのである。これは、ウクライナ侵攻によって、ロシアが世界経済から切り離され、孤立を強めていることをロシア国民に実感させるものだ。

さらに、自国通貨への信頼低下、外貨規制、深刻な品不足、厳しい情報統制などは、あたかも旧ソ連時代に戻ったかのような印象をロシア国民に抱かせ始めているのではないか。それから生じる国民の強い不満が、政府に対する批判や反戦機運を高め、最終的にロシア政府の軍事的な行動、戦略を抑制する方向へと働くかどうかに注目しておきたい。

(参考資料)
“Russia Headed for One of Biggest Inflation Shocks in Decades”, Bloomberg, March 9, 2022
「ロシア、市民生活の混乱拡大 制裁で物価上昇や買い急ぎ」、2022年3月6日、日本経済新聞電子版

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