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中国ロックダウンの衝撃

2022/03/16

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中国各地に広がるロックダウン

日本を含めて多くの主要国では、オミクロン株による感染リスクが低下し、経済・社会活動を再び正常化させる流れとなってきている。そうした中、ひとり中国では、感染の再拡大を受けてロックダウン(都市封鎖)が広がっている。

15日に中国国家衛生健康委員会が発表したところでは、本土でのコロナ新規感染者数は5,154人と5千人を超えた。うちロシア、北朝鮮と国境を接する北東部の吉林省が4,067人と最大だ。吉林省では、住民2,400万人を対象に14日からロックダウンが始まっている。2年前に武漢市でコロナ感染が最初に確認されて以降、省全体でのロックダウンが実施されるのは初めてのことである。

上海市の企業も先週末に事業の閉鎖が始まった。世界を怯えさせたのは、ハイテク産業集積地である深圳市が広範囲なロックダウンを14日から1週間の予定で実施したことだ。生活に欠かせない業種を除き、企業の事業活動は3月20日まで停止される。また住民全員を対象に、3回の検査が実施される。

中国が「ゼロコロナ政策」、ロックダウンを採用せざるを得ない事情

中国本土での感染拡大は、香港でコロナが猛威を振るう中で起きた。香港のコロナ感染による死者のうち9割以上がワクチン未接種で、大半が高齢者だった。公式統計によると、中国全体では人口の約9割がワクチンの接種を済ませているが、80歳以上の3,580万人でみると、接種完了者は約半分にとどまっているのである。

中国が「ゼロコロナ政策」とも呼ばれる厳しい姿勢のもとで、ロックダウンなど強い規制を導入する背景には、重症化しやすい高齢者のワクチン未接種者が多い、という事情がある。

さらにウォールストリート・ジャーナル紙は、中国では、オミクロン株に対する防御力が低いワクチンが接種されていることが、欧米諸国のようにコロナとの共存を模索するのではなく、強い規制を導入せざるを得ない理由になっていると指摘する。

同紙によると、中国の人口の約86%はワクチン接種を完了したが、国内で最も普及している国内企業のシノファームとシノバック・バイオテックが開発したワクチンには、不活化ウイルスが使用されている。このワクチンは、 モデルナ、ファイザーなどが開発したメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンに比べて、オミクロン株感染に対する効果が劣る、と広く考えられているという。そうした中で中国がゼロコロナ戦略を放棄してしまえば、死者の急増に直面する可能性が高い、としている。

中国のロックダウンが世界経済と金融市場を揺るがす3つ目の要因に

さて、深圳市のロックダウンは、中国全体のGDPの約11%を占め、輸出の約23%を占める広東省の経済に打撃を与える。さらにその影響は中国国内にとどまらず、海外にも及ぶ。それは、深圳が中国有数の電子産業の集積地であるためだ。深圳の電子情報産業の2020年の生産総額は2.2兆元と中国全体の約2割を占める。

鴻海科技集団は、米グーグルや米アップルのスマートフォンなどを手がける深圳にある2か所の工場を操業停止とし、同時に生産を他の拠点に移すことでロックダウンの影響を緩和しようとしているという。セイコーエプソンは14~20日にプリンターなどを生産する2工場を止める。深圳のロックダウンは、サプライチェーンに支障を生じさせ、グローバルに生産活動を阻害してしまう。

また吉林省長春市ではトヨタが14日、中国国有自動車大手、中国第一汽車集団との合弁工場を一時停止した。生産能力は年間約22万台とトヨタの中国生産の1割強を占めている。

中国でのロックダウンは、ウクライナ紛争で高まっている世界経済の下振れリスクを一段と高めるとの観測を生じさせている。14日、15日の中国本土株、香港株は連続して大幅安となった。他の主要国で感染リスクが低下するこのタイミングで、中国政府が広範囲にロックダウンを実施したことに金融市場は大いに驚き、中国経済に先行きに不安を高めているのである。

世界経済と金融市場を揺るがすウクライナ紛争と米連邦準備制度理事会(FRB)という2つの大きなイベントに、中国のロックダウンという3つ目のイベント、大きな不確実性が加わったのである。

中国のゼロコロナ政策、ロックダウンが長引けば、2022年上期の中国の成長率は前期比でほぼゼロ%成長となり、2022年年間の中国の成長率が4%台を割り込む可能性も出てきたのではないか。

(参考資料)
"Lockdowns Spread Across China as Race to Contain Covid-19 Outbreak Intensifies", Wall Street Journal, March 15, 2022
"Omicron’s Threat to Global Economy Increasingly Runs Through China", Wall Street Journal, February 15, 2022
「中国深圳などでコロナ都市封鎖 トヨタや鴻海、工場停止」、2022年3月15日、日本経済新聞電子版

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