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SWIFT制裁で始まる中露・印露の国際決済協力

2022/03/22

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SWIFT制裁の影響はロシアの貿易の広範囲に及ぶ

ロシアの主要7銀行がSWIFT(国際銀行間通信協会)から除外されたことで、ロシアの貿易には既に深刻な打撃が及んでいる。SWIFTがカバーするドル、ユーロなど世界の主要通貨が関わる貿易決済の多くに支障が生じているとみられる。さらに、これら主要通貨ではない通貨による貿易決済にも影響は生じているだろう。

例えば、ロシア企業がインド企業向けにルピー建て契約で武器や原油を輸出する場合、ロシア企業は輸出代金をルピーで受け取るが、それを、SWIFTを使ってドルなどに換えることが難しくなった。そのため、ルピー建ての輸出にも支障が生じる。また、ルーブル建て契約である場合には、インド企業が、価格変動が激しいルーブルを市場で調達することが難しく、それが輸入を見合わせることにもつながる。ルーブルは、流動性が低く、価格変動が激しいのである。

また、ルーブルとルピーとを交換する形で、ロシア企業とインド企業の間で貿易がなされる場合、そうしたマイナーな通貨を直接交換するのではなく、間にドルなどの主要通貨を仲介通貨として挟むことが多い。その場合でも、SWIFT制裁の影響でドルを仲介とする貿易決済が難しくなる。

ルーブルとルピーの通貨交換による貿易決済を構築へ

このように、SWIFT制裁は、ロシアと先進国の間だけでなく、ロシアの貿易に広く打撃を与えていると考えられる。そうした事態を回避して、新たな貿易決済の仕組みの下でロシアの貿易を立て直す動きが出てきた。

英紙フィナンシャル・タイムズ紙は、インドの中央銀行がインド・ルピーとロシア・ルーブルを使った貿易決済制度について検討を始めたと18日に報じた。それが実現すれば、欧米諸国が制裁でロシアによる国際決済メカニズムの利用を制限した後も、対ロ貿易を継続することが可能になる、としている。具体的な仕組みは明らかではないが、ロシアの中央銀行とインドの中央銀行とが、お互いに持ち合っている他国通貨の口座を使って、ルーブルとルピーの交換を担い、民間の貿易決済を助ける仕組みなどが考えられる。冷戦時代に、インドと旧ソ連は広範な協力関係にあり、インド中央銀行は1970年代から92年まで、ルピーとルーブルの交換制度を運営していた。

インドは、歴史的にロシアとの関係が深く、武器や原油などを輸入している。そのため、ウクライナ紛争においても、インドは中立姿勢を保っているのである。米政府関係者の意に反して、インドはロシアによるウクライナ侵攻を非難する国連決議の採決を棄権している。

19日に行われた日本とインドの首脳会談でも、岸田首相はモディ首相に対して、ロシアに対する制裁に協力するように求めたと見られるが、モディ首相がそれに応じることはないだろう。モディ首相は共同記者発表でウクライナ侵攻に関する言及はせず、共同声明でもロシアを名指しした表現はなかった。

ロシアと中国が国際銀行決済ネットワークの連携を検討

ロシアの貿易決済を巡る動きでもう1点注目したいのが、ロシアと中国の銀行決済網の連携である。タス通信が16日に露下院金融市場委員会のアクサコフ委員長の発言として伝えたところによると、ロシアと中国が各自の銀行決済網の相互運用を検討しているという。SWIFT制裁によって、ロシアの貿易決済に大きな支障が出ていることへの対抗措置だ。アクサコフ委員長は、「中露の経済取引に対するリスクを取り除くため、ロシアと中国のシステムの相互運用を確立する必要がある」とし、「ロシア中央銀行と中国人民銀行が協力している」ことを明らかにした。

ロシアは、2014年のクリミア侵攻で欧米からの制裁を受けたのを機に、「SPFS」という独自の国際銀行決済ネットワークを構築した。また、2015年には中国も、「CIPS」という国際銀行決済ネットワークを構築した。しかしともに決済額は小さく、反米国の銀行が中心に加盟している。

両者を連携させることの実質的な意味は大きくないのではないか。しかし、ロシアとしては、SWIFT制裁が長期化する可能性を踏まえれば、既にみたルーブル・ルピー交換制度のように、独自の国際決済システムを作っていかないと、貿易が成り立たない。

他方中国にとっても、将来的に中国がロシアのようにSWIFT制裁の対象となることを恐れているだろう。そのため、デジタル人民元による国際決済の拡大を目指すとともに、ロシアと協力して独自の国際銀行決済ネットワークを用いた国際決済を拡大させることを急ぐ必要がある。SWIFT離れが必要という点で、米国と敵対する中国とロシアとは利害が一致しているのである。

長い目で見ればロシアと中国の経済関係は強化される流れ

この報道は、ロシア側から出たものであり、中国にとっては好ましくないものだったに違いない。ロシアはこの情報を、先進国への対抗の意図で敢えて流しているのだろう。先日は、ロシアと中国が、単一通貨を創設することを検討しているとの情報も、ロシア側から流れた。

米国からはロシアに軍事面、経済面で協力しないように強く釘をさされるなか、ロシアに明確に協力し、ロシアの制裁逃れをあからさまに助けると、米国との関係悪化が決定的となり、中国も制裁対象となる可能性が出てくる。またロシアが現在世界中から強い批判を浴びる中で、ロシア支援を明確にすれば、中国自身も国際社会から批判を浴びることになる。

中国は、当面のところはロシアと距離を置き、中立的な姿勢を維持するだろう。しかし多少長い目で見れば、制裁下にあるロシアと中国との貿易関係はより強化され、ロシアは中国経済圏に取り込まれていく形になるのではないか。中国にとってロシア市場は魅力的であり、またロシアの原油を確保することは重要だ。

その際、両国間の貿易決済や決済通貨には、人民元、あるいはデジタル人民元が用いられるようになっていく可能性もあるだろう。

(参考資料)
「中露、決済網を相互運用 露報道 SWIFT排除で検討」、2022年3月18日、東京読売新聞
「ロシア、インドと通貨交換を検討 決済制裁を回避」、2022年3月18日、フィナンシャル・タイムズ
「中ロ、銀行決済網の統合検討=欧米から排除で代替策」、2022年3月17日、時事通信ニュース

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