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FRBは0.5%利上げへ。米国経済はグロース・リセッションかハードランディングか

2022/03/30

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高まる5月の0.5%利上げ

米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げ(政策金利引き上げ)の姿勢を一段と積極化する、との見通しが金融市場で高まっている。これが米国の長期利回りの水準をさらに押し上げる一方、先行きの米国経済、そして世界経済の下振れ懸念も同時に高めている。その結果として生じている面があるのが、米国債のイールドカーブのフラット化、あるいは逆イールドである。足もとでは米国2年債と30年債の利回りが逆転した。3月27日に2年債の利回りは2.64%、30年債は2.59%となった。この逆イールドは2006年以来のことである。

3月21日の講演でFRBのパウエル議長は、先行き0.5%幅での利上げの可能性を示唆し、さらに、5月の次回FOMCにおいて0.5%幅で利上げを行うことを妨げるものは何もない、とした。これを受けて、市場は5月のFOMCで0.5%の利上げが実施される可能性を一気に織り込んだ(コラム「日米金融政策デカップリングで円は120円台に突入」、2022年3月22日)。

3月15・16日に開かれたFOMCでは、セントルイス連銀のブラード総裁一人が0.5%幅での利上げを主張し、0.25%幅での利上げに反対した。ところが、不思議なことに、3月のFOMC後のごく短期間のうちに、多くのFOMCメンバーが0.5%幅の利上げに賛成に回っているのである。ニューヨーク連銀のウイリアムズ総裁、シカゴ連銀のエバンス総裁、サンフランシスコのダリー総裁、アタランタ連銀のボスティック総裁、クリーブランド連銀のメスター総裁が、いずれも5月の次回FOMCで0.5%幅の利上げを支持する主旨の発言をしている。

この点を踏まえると、5月3、4日に開かれる次回FOMCでは、0.5%幅での利上げが実施される可能性はもはや高いと言えるのではないか。ただし、過去を振り返ってみても、0.5%幅での利上げは普通のことではなく、2000年に0.50ポイントの利上げが実施されて以降、1回の利上げ幅はすべて0.25ポイント幅となっている。

0.5%の利上げは既定路線なのか

投票権を持つFOMC参加者の大多数が0.25%の利上げを支持した前回FOMCからわずか2週間足らずのうちに、多くのFOMCメンバーが0.5%幅での利上げの支持に回ったのはなぜなのか、不思議である。この間、経済・金融環境には大きな変化はなかった。

一つの可能性として考えられるのは、3月は初回となる利上げであり、それを0.5%幅で行えば、金融市場を混乱させるなど、不測の事態を招くリスクがあることに配慮したということである。その場合、既に5月以降は0.5%幅の利上げとなることは3月のFOMC時点でほぼ既定路線となっていたことになる。現在、5月のFOMCを前に、それを事前に金融市場に織り込ませることをFRBが狙っているのではないか。もちろん、ウクライナ問題を巡る不確実性が、3月のFOMC以降多少なりとも和らいだ、という点もあるのかもしれない。

さらに金融市場では、5月の0.5%幅の利上げに続いて、6月のFOMCでも0.5%幅の利上げが実施されるとの観測も、まだ少数派ながらも出はじめている。この場合、年前半のうちに政策金利であるFF(フェデラルファンズ)金利の誘導目標は1.25%~1.5%まで引き上げられることになる。

急速な利上げが今秋に転換点を迎える可能性も

FRBは、金融引き締め策が景気の悪化を引き起こすかどうかを占う指標として、3か月物TB(短期国債)と18か月物国債利回りの差に注目している。両者の利回りが逆転する逆イールドが生じれば、FRBの金融引き締めが米国経済を悪化させるリスクが高まったとして、利下げなど金融政策の転換を検討する指標になるとしている。

現在、3か月物TBの利回りは0.5%程度、18か月物国債の利回りは2.0%程度で金利差は1.5%ある。しかし、現在の金融市場の見通し通りに政策金利が引き上げられる一方、18か月物国債の利回りが現状水準を維持する場合、10月のFOMC後には、逆イールドが生じる計算だ。さらに、5月、6月と2回連続で0.5%幅の利上げが実施される場合には、9月のFOMCで逆イールドが生じる。この点から、FRBの急速な利上げは今秋にも転換点を迎える可能性があるのではないか。

「グロース・リセッション」よりも「ハードランディング」か

FRBが経済よりも物価高騰への対応を優先させ、急速な利上げを実施する方針である中、それが経済を悪化させてしまう「オーバーキル」のリスクが懸念され始めている。ただし、長期国債の利回りがなお上昇する一方、株式市場が比較的安定を維持している状況を踏まえれば、米国経済が深刻な景気後退(リセッション)に陥る「ハードランディング」シナリオが、金融市場で有力視される状況にはなお至っていないと言える。

現状、金融市場で比較的多数派の見方は、米国経済は減速するものの、失速には至らない、「グロース・リセッション」あるいは「セミ・ハードランディング」ではないか。これは米国の潜在成長率である2%程度の成長ペースを下回るものの、マイナス成長には陥らず、失業率は緩やかに上昇するといった状況である。

ニューヨーク市立大学教授のクルーグマン氏は、米国の成長率は年率1%前後に鈍化し、失業率は0.5%程度上昇するとの見通しを示している。他方、サマーズ元財務長官らが過去のデータをもとにまとめた分析によれば、現在の物価高騰と低い失業率を踏まえると、向こう2年間に米国経済がリセッション入りする可能性はかなり大きいことが示されたという。

現在、歴史的な物価高騰が生じているとはいえ、それはコロナ問題やウクライナ問題など一時的な要因、特に金融政策の直接的な影響が及びにくい供給側の要因によって引き起こされている側面が強い。これに対して、過去のインフレ期と同様のペースでFRBが利上げを断行しようとしていることを踏まえれば、そして金融市場に蓄積された歪みの存在を踏まえれば、そうした金融政策運営の帰結としては、「グロース・リセッション」、「セミ・ハードランディング」よりも「ハードランディング」のリスクにより重きを置いて見ておくべきではないか。

(参考資料)
"Fed's Best Hope Increasingly Looks Like a Semi-Hard Landing", Bloomberg, March 28, 2022

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