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ロシアが新たな枠組みで天然ガスの代金ルーブル払いを再度要求

2022/04/01

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ルーブルの価値を支えるため天然ガスの輸入代金をルーブルで支払うよう要求

ロシア政府は、いわゆる「非友好国」に対して、天然ガスの輸入代金をルーブルで支払うように要求している。海外での輸入企業が代金としてルーブルを調達すれば、それが為替介入と同様な効果を持ちルーブルの価値を支えることになり、ロシアの経済の安定につながる、との狙いがある。

しかし、既存のロシア産ガスの国際取引は、ほぼドル建てやユーロ建てである。これをルーブル建てとすることは、契約内容の一方的な変更となる。G7のエネルギー相は3月28日の緊急会合で、ロシアが要求したルーブル建てでのガス代金支払いを拒否することで一致した。

それを受けて、ロシアが多少譲歩の姿勢を見せながら、新たな枠組みのもとで、ルーブル払いを再度要求してきた。プーチン大統領は31日に、外国企業がロシア産天然ガスを購入する際に自国通貨ルーブルで支払うことを義務付ける大統領令に署名し、ルーブルで支払いがされない場合、あるいはドルやユーロで支払った場合には契約を停止する、つまり天然ガスの供給を止めるとした。

ところがプーチン大統領は、ドイツのシュルツ首相などEUの首脳らに対しは、引き続きユーロで支払うことができる、と説明している。一体どういうことだろうか。

海外企業は自らルーブルを調達しなくてよい仕組み

プーチン大統領は、外国企業がロシアから天然ガスを購入するには、ロシアの銀行にルーブル建ての口座を開かなくてはならないとし、4月1日から、天然ガスの代金はこの口座を通して支払われる、と語っている。そのロシアの銀行とは、SWIFT(国際銀行間通信協会)制裁を免れているロシア国営ガスプロムの傘下のガスプロムバンクである。

ロシアから天然ガスを購入する海外企業は、ガスプロムバンクにユーロなどの外貨建てとルーブル建ての両方の決済口座を開設する。海外企業が代金となるユーロを、自身の口座からガスプロムバンクに送金すると、ガスプロムバンクはそれを市場で売却し、ルーブルを買い入れる。そのルーブルを海外企業のルーブル建て口座に一度振り込む。そこから海外企業がガス会社にルーブルを送金するというプロセスだ。詳細は不明だが、以上のような仕組みになっているものと推察される。天然ガスの貿易決済を担うガスプロムバンクを利用することで、同行が先進国からのSWIFT制裁の対象に新たに加えられることを回避する狙いがロシア側にあるのかもしれない。

海外企業が銀行を通じてルーブルを調達することは、現在大変である。銀行は、制裁対象になっている取引に当たらないかどうかを慎重に見極めることが求められる。さらに、ルーブルの流動性は大きく低下していることから、ルーブルの調達のコストがかなり上がっているのである。

ところが上記のようなスキームであれば、外国企業が自らルーブルを調達する手間を免れる。形式的にはルーブル建て契約であっても、実質的にはドル、ユーロなど外貨で支払う外貨建て契約に近い。契約通貨はルーブルで、決済通貨は外貨と言えるかもしれない。「名を捨てて実を取る」の判断で、この新たな枠組みを、先進国側は受け入れることはないだろうか。

天然ガス供給削減の懸念は残る

ただし、こうした枠組みの説明を受けてもなお、ドイツのショルツ首相は、ロシア産ガスの代金は「ユーロやドルで支払われ続ける」と改めて主張し、新しい枠組みを受け入れなかったようだ。それには、一方的に契約内容を修正したうえで、それを受け入れなければ天然ガスの供給を打ち切る、というロシア側の姿勢に対する強い反発があるだろう。

ただしそれだけではなく、このスキームの下では、ルーブル建て契約とすることで、輸出企業がルーブルの為替リスクを負うことになってしまう可能性があり、それが、先進国側としては受け入れられない理由の一つではないか。

ルーブル決済の義務化は4月1日から始める方針だが、ただちに実施される訳ではないようだ。ロシアのペスコフ大統領報道官は3月30日に「(ルーブルで)すぐに払われなければならないということではない」と述べている。

この枠組みは、欧州諸国を対象にしたものと言える。大統領令によると、対象となるのは「気体の天然ガス」であり、日本が輸入している液化天然ガス(LNG)は対象にならない。主にガスパイプラインを使った欧州向け輸出を想定しているのである。

欧州向けの天然ガスの輸出は、ロシア経済にとって重要なものであり、また、連邦政府の歳入の4割は、原油と天然ガスの輸出代金からなるとされる。戦費調達のためにも、ロシアは欧州向けの天然ガスの輸出を続ける必要がある。そのため、欧州諸国がルーブル建て支払いの新たな枠組みを受け入れない場合でも、直ぐに欧州向けの天然ガスの供給が止まる可能性は高くないものと考えられる。

それでも、欧州向けの天然ガスの供給が止まるとの観測が今後浮上することで、世界の天然ガスの市況が一段と上昇し、それが、日本経済にも打撃となる可能性は排除できないところだ。

(参考資料)
「ロシア産天然ガス代金、ルーブル払いを再び要求…プーチン氏「応じなければ契約停止」、2022年4月1日、読売新聞速報ニュース
「ロシア産ガス、「ルーブル払い」で大統領令」、2022年4月1日、日本経済新聞電子版

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