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中国ゼロコロナ政策が世界経済のリスクに。ウクライナ問題と結びつき世界の食料問題にも

2022/04/08

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複雑化する世界経済と金融市場

ウクライナ情勢は、先進国による対ロ制裁措置などによるロシア貿易の混乱、物価高によるロシア経済の悪化、エネルギー価格高騰などを通じて、世界経済の下振れリスクを高めている。それに、米連邦準備制度理事会(FRB)による金融引き締めの加速見通し、さらに中国上海でのロックダウン(都市封鎖)が、新たな世界経済のリスクとして加わってきている。それらが互いに絡み合う形で、全体として世界経済の下振れリスクが増幅されているのが現状だ。

一方、それらによって商品市況、金融市場には複雑な影響が及んでいる。例えば対ロ制裁措置は、原油価格の上昇を招いているが、ロックダウンによる中国経済の減速が中国の原油需要を鈍化させるとの観測から、原油価格を安定させている面もある。また、FRBの利上げ見通しが一段と引き上げられる中でも、中国の景気減速懸念が米国長期金利の一段の上昇を抑える、といったことが足元では生じているのである。

人口2,600万人の上海でロックダウン(都市封鎖)

上海では、3月28日から事実上のロックダウン(都市封鎖)が続いている。これまでにないほど厳しい措置だ。上海は人口2,600万人の大都市であるが、市民の大半が外出を原則禁じられている。

オミクロン株は従来型よりも毒性が低く、重症化リスクは低いが、そのもとで中国政府が、経済を犠牲にしてでもロックダウンを通じて感染封じ込めに努める「ゼロコロナ政策」を続けていることについて、内外から懐疑的な見方も出ている。

この過剰とも見える「ゼロコロナ政策」がとられていることについて、重症化しやすい高齢者のうちワクチン未接種者が多いことや、国内企業のシノファームとシノバック・バイオテックが開発したワクチンには、不活化ウイルスが使用されているが、それは モデルナ、ファイザーなどが開発したメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンに比べて、オミクロン株感染に対する効果が劣ることがその理由、との指摘もある(コラム「中国ロックダウンの衝撃」、2022年3月16日)。

さらに、中国が他国に比べて感染者を少なく抑え込んできたことが、中国政府にとってはまさに大きな成功体験であり、また習近平体制が優れていることの証である、と政府がアピールしてきたことから、今さら軌道修正できなくなっているという面もあるだろう。

サプライチェーンを通じて海外の経済にも打撃

上海は国際金融センターであるとともに、多国籍企業の多くが中国本社と工場を置いている場所だ。米電気自動車(EV)大手テスラは3月28日に、上海工場の生産を停止したと伝えられた。さらに上海には、国内最大でコンテナの取扱量では世界トップの上海港がある。ロックダウンの影響で港湾業務は滞っており、中国の主要港の沖で待機するコンテナ船の数は、2月から2倍近くに増えたという。配送担当の運転手への厳格な感染対策で貨物の積み下ろしに遅れが出て、入港を待つ船が増えているのである。

こうした事態は、中国経済だけでなく、サプライチェーンを通じて海外の経済にも打撃をもたらしている。世界のサプライチェーンは電子機器だけでなく、肥料から医薬品に至るまで、上海からの輸入に大きく依存しているのである。

ちなみに上海市のGDPは、中国全体の4%を占めている。他方、ロシアのGDPは中国のGDPのちょうど10分の1であることから、上海市のGDPはロシアのGDPの4割程度の規模に達する計算だ。ロシア経済の縮小と上海市経済の縮小とが、世界経済の成長率を顕著に押し下げているのである。

春の穀物の作付けに大きな障害

ところで、中国の「ゼロコロナ政策」とウクライナ紛争の大きな接点となっているのが食料供給である。ウクライナ紛争は、ロシアとウクライナの小麦の輸出に大きな打撃を与え、既に価格高騰をもたらしている。そして、中国の「ゼロコロナ政策」は、中国での穀物の作付けの大きな障害となっており、世界の穀物需給を逼迫させる可能性が出てきている。

ウクライナは2013年以降、中国にトウモロコシを輸出しており、中国では、ウクライナ産トウモロコシの輸入比率が最も高くなっていた。そうした中で起きたのがウクライナ紛争である。中国にとって重要な家畜飼料であるトウモロコシのウクライナからの輸入が止まってしまった。そこに重なる形で生じたのが、「ゼロコロナ政策」の影響である。中国の主要農業地域の多くが重要な春の作付けに備える中、肥料、労働力、種子の深刻な不足に見舞われている。

また、都市部のロックダウンで多くの出稼ぎ労働者が行動を制限され、農村部の作付けに戻れなくなっている。仮に戻れたとしても、14日間の隔離期間を経なければ作業に取りかかれないのである。

このようにして、コメやトウモロコシなど春に作付けする穀物の生産量が減少すれば、中国は穀物調達のため海外からの輸入拡大を強いられる。それは、新型コロナウイルス問題や、ウクライナ問題によって既に高められている食料インフレの傾向を、さらに加速させてしまうだろう。

それは多くの国で一段の物価高を生じさせ、家計への打撃となる。さらに低所得国では深刻な食料不足問題を生じさせる可能性もあるだろう。中国の「ゼロコロナ政策」は、このような経路でウクライナ問題と結びつき、世界経済の問題をより複雑にしているのである。

(参考資料)
「中国「ゼロコロナ」が食料不足招く恐れ 作付け減少」、2022年4月7日、フィナンシャルタイムズ
「突然の上海都市封鎖、供給網の混乱に拍車」、2022年3月30日、フィナンシャルタイムズ
「新型コロナ 都市封鎖 感染抑えきれず 上海1万人超 解除期限を延長」、2022年4月6日、東京読売新聞

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