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20年ぶりの歴史的安値水準が目前の円の対ドルレート

2022/04/13

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ドル円レートは2015年6月の125円86銭に近付く

ドル円レートは4月11日に1ドル125円77銭と、6年10か月ぶりの円安水準となった。2015年6月の125円86銭を超えて円安が進めば、2002年以来、実に20年ぶりの安値水準となる。それが目前に迫っているのである。ちなみにこの水準を超えて円安が進むと、続く節目は2002年の135円69銭、1998年の147円66銭、さらに1990年の160円20銭となる。

2002年は、日本銀行が量的緩和策を導入した翌年にあたる。その後、2008年のリーマンショック(グローバル金融危機)を機に、経済の低迷と物価上昇率の下振れが起きた。さらにドル円は70円台まで円高が進んだ。これらを受け、円高阻止の効果も視野に入れて日本銀行に金融緩和を求める声が国内で強まっていった。それが、現在も続く、2013年に導入された量的・質的金融緩和へとつながったのである。

ところが現状では、物価の上昇率をさらに高める円安のマイナス面が世間の注目を集めており、日本銀行に円安阻止の効果も狙って、金融政策の正常化を望む声も高まってきた。量的・質的金融緩和が導入された時の環境と比べれば、まさに隔世の感がある。

日本の企業や家計、そして政府はドル円レートの動きに非常に敏感だ。時々の為替動向を受けて日本銀行に求める政策も変化し、それが実際の金融政策に大きな影響を与えてきたのである。

足もとは円安というよりもドル高

ドル円レートは3月に入ってから円安傾向を強め、3月28日には125円台を付けた。この時は、ドルの価値が比較的安定する中で円安が進んでいた。ドル高というよりも円安傾向が強かったのである。背景にあるのは、日米の金融政策の差に基づく金利差拡大観測だ。日本銀行が長期金利上昇を強くけん制したことをきっかけに、円安ドル高が急速に進んだ。

ところが、3月末以降はドルが主要通貨に対して独歩高の様相を強めている。背景にあるのは、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締め策が、金利、量の両面から加速する、との観測が強まったことだ。現状は、円安というよりもドル高の傾向が強いのである。日本側の要因によるところが少ない分、日本側の政策対応によって食い止めることがより難しい円安ドル高になっている。

ところで、ウクライナ情勢など地政学リスクが高まる中でも円高傾向が現れないことから、為替市場の構造が変化した、との指摘もしばしば聞かれる。しかし実際には、リスク回避の円高という傾向は残っているものの、それ以上に日米の金融政策の差に基づく金利差拡大観測の方が、より強くドル円レートの動きを支配しているということなのではないか。

米国は日本に円買いの為替介入を認めない

鈴木財務大臣は13日に国会で、「為替の安定は重要、急速な変動は望ましくない」、「為替市場の動向をしっかりと緊張感を持って注視する」などと発言し、連日、円安を牽制する発言をおこなっている。しかし、ドル円レートには目立った影響を与えていない。それは、円安に対して警戒的な発言を当局者が行っても、実際に円買いドル売りの為替介入は実施できない、と市場に見透かされているためだろう。

日本が為替介入を行ったのは、2011年が最後である。日本が為替介入を行う際には、G7諸国、特に米国の承認が必要となるのが通例だ。しかし現状では、米国が日本の為替レートに問題意識を抱いているとは思えない。どの国も物価高に苦しめられているのが現状であり、自国通貨高を通じて物価上昇圧力を抑えたいとそれぞれが考えている。

仮に米国が円買いドル売りの為替介入を日本に認めれば、他国でも自国通貨買いの為替介入が広がるきっかけとなってしまい、自国通貨切り上げ競争に繋がっていくリスクも生じるのである。そのため、米国は日本の為替介入を認めないだろう。

日本銀行はいずれ一定程度の長期金利の上昇を容認か

日本の通貨当局である財務省の円安けん制発言、いわゆる「口先介入」自体には、円安傾向に歯止めを掛ける大きな効果は期待できない。しかし、政府が円安に対する警戒を一段と強めているとの観測を広げる役割は果たすだろう。その結果、日本銀行が政策姿勢の修正を通じて円安リスクを軽減するように、政府が水面下で日本銀行に働きかける、との見方が徐々に高まっていくかもしれない。

「円安は基本的には日本経済にプラス」と円安容認の姿勢を明確にしていた日本銀行も、足元では「円安が経済、物価に与える影響を注視する」など、やや発言のトーンを変えてきている。これは、円安がもたらすマイナス面を強く警戒する、家計、企業、政府に日本銀行が配慮をし始めた兆候ではないか。来年4月までの黒田体制のもとでは、マイナス金利解除といった本格的な正常化策は実施されないだろう。しかし、足もとでの円安進行の引き金ともなった、長期金利のコントロールについては、10年国債が変動レンジの上限である+0.25%を超えることを容認しない、厳格なオペレーションを修正し、長期金利の上昇を一定程度許容する姿勢に日本銀行がいずれ転じる可能性を見込んでおきたい。家計、企業、政府の円安警戒に配慮し、日本銀行の政策姿勢に対する批判をかわすためだ。

円安の流れを大きく変えるのは米国経済・物価情勢の変化とFRBの政策姿勢の修正

それでも、円安の流れは変わらないのではないか。おそらく円安ドル高の流れを大きく変えるのは、FRBの金融政策姿勢の転換だ。金融引き締めの加速の方針を修正すれば、米国の長期金利は低下に転じ、為替市場では円高方向への巻き戻しが起こるだろう。

そのきっかけは、物価上昇圧力が緩和する明確な兆候が見られる、あるいは急激な金融引き締めが米国経済を悪化させるとの警戒をFRBが強め始めることだろう。今秋頃まで見据えれば、そうした事態が生じる可能性は考えられるところだが、そうなるまでにまだ時間を要する。それまでは、為替市場でさらなる歴史的な水準までの円安ドル高進行の余地が残されるだろう。

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