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日本銀行が中銀デジタル通貨(CBDC)第1段階実証実験の報告書を公表

2022/04/14

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中銀デジタル通貨(CBDC)発行の是非を決めるのは政府、国会、国民

4月13日に日本銀行は、中銀デジタル通貨(CBDC)の実証実験の第1段階である「概念実証フェーズ1」の報告書を公表した。「概念実証フェーズ1」は2021年4月から2022年3月まで実施されたものであり、今月からは「概念実証フェーズ2」が開始されている。

この報告書は、実証実験によって明らかになった課題など、技術的な側面のみを淡々と記述したものであり、CBDCが発行に近付いているのか否かや、日本銀行がCBDCを発行すべきと考えているのか否かなどの判断は一切記されていない。

実証実験を進めている理由について報告書では、以下のように説明している。

「日本銀行では、現時点で中央銀行デジタル通貨(CBDC)を発行する計画はないものの、決済システム全体の安定性と効率性を確保する観点から、今後の様々な環境変化に的確に対応できるよう、技術的な実証実験を含め、しっかり準備しておくことが重要と考えている。」

「今後の様々な環境変化」には、海外でのCBDC発行の動きに加えて、政府、国会で早期のCBDC発行の機運が高まること、などが考えられる。CBDC発行の是非を決めるのは、日本銀行ではなく、政府、国会そして国民との認識を日本銀行は持っているのだろう。

ちなみに、「現時点で中央銀行デジタル通貨(CBDC)を発行する計画はない」との表現は、日本銀行自身にその決定権はないとの意味合いを含んでいると共に、発行されるとの観測が一気に高まると、社会的混乱を引き起こす危険性があることへの配慮でもあるだろう。日本銀行は、CBDCを発行することになっても、責任を持って現金の供給を続けていくことを強調しているのも、同様の狙いがあるだろう。

CBDC台帳に関する3つの設計パターンで検証

さて、「概念実証フェーズ1」の目的は、CBDCシステムの基盤となるCBDC台帳を中心に、実験環境を構築したうえで、CBDCに関する基本的な取引(発行、払出、移転、受入、還収)を的確に行うことができるかを検証すること、と日本銀行は説明している。

日本銀行はCBDC台帳に関する3つの設計パターンで、簡単なモデルをパブリッククラウド上に構築して実験を行った。パターン1は、中央銀行がすべてのユーザー、仲介機関の口座残高、取引を記録する台帳を管理するもの、パターン2は、各仲介機関がユーザーの口座残高、取引を記録する台帳を管理し、中央銀行が仲介機関の口座残高、取引を記録する台帳を管理するもの、パターン3は、CBDCの発行時に付与したトークンIDを用いて、口座を記録する台帳ではなく、発行されたすべてのCBDCの動きを記録する台帳を管理するもの、である。

パターン1、パターン2は口座型、パターン3はトークン型である。3つとも、中央銀行あるいは仲介機関が台帳を単独で管理する「中央管理型」であり、同一の台帳を参加者が共同で管理する、ブロックチェーンのような「分散型台帳技術」は用いられていない。

今月から始まった「概念実証フェーズ2」は、フェーズ1で確認したCBDCの基本機能に、より複雑な周辺機能を付加したうえで、その技術的な実現可能性やシステムの処理能力などについて、実機検証または机上検証を行う、と日本銀行は説明している。

フェーズ2については、当面、2023年3月までの1年間が予定されている。ただし、民間事業者や消費者が実地に参加するパイロット実験を行うフェーズ3については、実施の時期や有無についても、現時点では全く決まっていない。

CBDCシステムの2層方式やCBDCを用いたクロスボーダー決済を検討

実証実験と並行して、日本銀行は制度設計の検討を進めている。それは主に以下の4点である。

第1に、中央銀行と民間事業者の協調・役割分担のあり方
第2に、金融システムの安定などとの関係
第3に、プライバシーの確保と利用者情報の取り扱い
第4に、デジタル通貨に関連する情報技術の標準化のあり方

第1の点については、CBDCのシステムを、仲介機関を通じてすべてのユーザーに基礎的な決済手段を等しく提供するインフラ部分と、民間事業者がそうした基礎的な決済手段を利用して、個別のユーザーニーズに応じた追加サービスを提供する領域とに分ける、いわば2層方式を日本銀行は検討している。

追加サービス領域では、民間事業者や仲介機関は、イノベーションを発揮して、CBDCを材料に様々な追加サービスを提供することが期待されている。これは、CBDCの発行が民間ビジネスを萎縮させる(民業圧迫)ことなく、官民が協業しつつ、さらに民間のイノベーションを促す制度を日本銀行は展望しているのである。

また、第3のプライバシーの問題についても、インフラ部分と追加サービス領域とに分けて、それぞれ課題が検討されている。

第4に関連して、複数の国のCBDCを相互に交換することによって、より便利、安価、安全なクロスボーダー決済(海外送金)を将来実現することも検討されている。その際には、各国のCBDCの情報技術の標準化が必要になってくる。

日本銀行は本気で準備を進め始めたか

日本銀行は「現時点で中央銀行デジタル通貨(CBDC)を発行する計画はない」と、従来通りの説明を繰り返しているものの、実際には、実証実験や制度設計の検討はかなり進んできたとの印象がある。最終的には政府、国会、国民が決めるとしても、既に発行を前提にして、日本銀行は本気で準備を進め始めたようにも見受けられる。

(参考資料)
「中央銀行デジタル通貨に関する実証実験「概念実証フェーズ1」結果報告書」、2022年4月13日、日本銀行
「事務局説明資料(第3回中央銀行デジタル通貨に関する連絡協議会)」、2022年4月13日、日本銀行

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