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緊急経済対策ではトリガー条項と補正予算が大きな争点に

2022/04/15

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自民党はガソリン補助金の延長・拡充と生活困窮者への支援を提言

政府は4月末までに緊急経済対策を策定する。1)原油高への対応、2)食料やエネルギーなどの安定供給に向けた調達先の多様化、3)中小企業への資金繰り支援、4)コロナ禍で困窮する人への支援強化、の4つがその柱となる見通しだ。

自民党は、14日に緊急経済対策への提言案を決定し、政府に提出する方針である。そこでは、ガソリン価格のさらなる上昇に備えて4月末までの現在の補助制度を5月以降も継続したうえで、現在のレギュラーガソリン価格170円/リットル程度を上回らないように支給している補助金の額を、必要に応じて増額するなどの追加支援策が盛り込まれている。

また、「コロナ禍において生活物価高騰等に直面し、真に生活に困っている方々への支援金給付を含め支援措置を強化すべき」だとし、生活困窮者への支援が明記された。生活困窮者支援については、参院自民党が困窮世帯を対象に1人10万円の給付を党提言に盛り込むよう求めている。さらに、電力の安定供給の確保に向け「原子力を含め、あらゆる電源の最大限の活用を進めていかなければならない」と強調している。

他方で立憲民主党は、21兆円規模の緊急経済対策を発表した。「生活安全保障」と銘打ち、ワーキングプア世帯や低所得家庭の児童ら計860万世帯・人への5万円給付、時限的な消費税の減税、ガソリン税を一時的に引き下げる「トリガー条項」の発動、アルバイトの収入が減った学生への支援や小中学校の給食費の無償化、児童手当の拡充、中小企業の債務減免などである。

国民民主党も、総額18兆円規模の「緊急総合対策」を正式に発表した。1年間の消費税5%減税やトリガー条項発動などが柱となる。また日本維新の会は3月に、原油や穀物の高騰による物価高対策として、消費税の軽減税率の段階的な引き下げなどを盛り込んだ緊急経済対策を政府に提言している。

トリガー条項凍結解除は盛り込まれない方向

原油高対策としては、現在実施されている補助金によるガソリン価格などの上昇抑制策と、揮発油税の減税を通じたガソリン価格の低下を可能にするトリガー条項の凍結解除の2つが今まで主に議論されてきた。政府がトリガー条項の凍結解除を見送る考えであるのは、法改正が必要であり、また国と地方に税収減をもたらすという問題点があるためだ。ただし、3党の実務者協議を続け、年内をめどに結論を出すことを目指す方針としている。

補正予算で自民党と公明党が対立

与党の自民党と公明党の間で意見が大きく分かれているのは、緊急経済対策の財源確保のために、補正予算を編成するか否かである。公明の山口代表は、「今ある予算は物価高を想定したものではなく、(予備費を)活用するにしても限度がある。物価高については補正予算でしっかり総合的に対応していく基本姿勢が大事だ」と述べ、補正予算の編成を強く求めている。

他方で政府・自民党は、財源は2022年度予算の一般予備費5,000億円、コロナ対策の予備費5兆円の合計5兆5,000億円を活用する考えである。当然のことながら、補正予算の編成で新たに財源を確保するのと、予備費の利用にとどめるのとでは、緊急経済対策の規模に大きな違いが出てくる。公明党や与野党は、巨額の緊急経済対策を打ち出して、7月の参院選挙で有権者に強くアピールしたい、と考えているのである。

他方で政府・自民党が補正予算の編成を避けたいと考えるのは、補正予算案を編成すれば衆参両院で予算委員会を開く必要があり、そこで岸田首相が野党による激しい攻勢に晒され、参院選挙を前に失点をしてしまう可能性を恐れるためとみられる。

また、国政選挙前に補正予算を成立させると、選挙対策との批判が高まり、選挙戦がむしろ厳しくなるという過去の「ジンクス」も気にかけているとされる。選挙前に補正予算を編成した宮沢政権は1993年の衆院選で過半数割れに追い込まれ、橋本政権は1998年の参院選で惨敗した。また麻生政権も2009年8月の衆院選で大敗して政権交代を許した。

このように、現状では、補正予算を編成しない方向で政府内での調整が進められている。しかし、昨年、一昨年の経済対策では、最終的に公明党の給付金案が通ったことも踏まえれば、補正予算編成の可能性も消えたわけではない。

また、当面は予備費で賄う経済対策としたうえで、参院選挙後に補正予算編成を行い、より規模の大きい経済対策を実施するという2段階方式で、自民党と公明党とが妥協する可能性もあるのではないか。

限られる経済効果

緊急経済対策のうち、最も多くの支出があてられ経済効果も大きくなるのは、4)コロナ禍で困窮する人への支援強化、だろう。そこで、5兆5,000億円の予備費から、仮に3兆円程度がこの生活困窮者への給付金にあてられると考えよう。

内閣府の試算によれば、2009年の「定額給付金」では、給付金のうち25%程度が消費に回った。一時的な所得は、給与所得などと比べて消費に回る割合は小さくなるのである。

「定額給付金」の経済効果を踏まえれば、生活困窮者への給付金3兆円のうち25%分、つまり7,500億円程度が個人消費を押し上げることになる。それは1年間の名目GDPを0.13%押し上げる効果を持つ。

他方、緊急経済対策に含まれる可能性が高いガソリン補助金制度のGDP押し上げ効果は、ガソリン価格の変化によって変わってくるが、+0.01%~+0.03%と試算される(コラム「ガソリン補助金で本当に家計は助かるのか」、2022年4月12日)。両者を足し合わせても、その景気浮揚効果は限られよう。

緊急経済対策は必要か

そもそもこのタイミングで緊急経済対策が必要であるかは疑問である。オミクロン株の拡大によって今年1-3月期の実質GDPは前期比でマイナスに陥ったと見られるが、まん延防止等重点措置の解除を受けて、4-6月期にはプラス成長に戻る可能性が見込まれる。

ウクライナ問題という予期しなかった事態が生じたことは確かであるが、物価高の問題は、それ以前から続いてきたものである。しかも、原油価格を見ると、コロナ問題を受けて昨年から上昇してきた幅と比較すると、ウクライナ情勢を受けて足元で上昇した幅は決して大きくない。これでは、ウクライナ情勢を機会として捉え、参院選挙を意識した経済対策を実施しようとしていると批判されても仕方ないのではないか。

対策の柱の一つであるガソリン補助金については、家計が直面するエネルギー関連価格上昇による負担増のうちで、わずかな部分への対応に過ぎず、効果も大きくないという問題もある(コラム「ガソリン補助金で本当に家計は助かるのか」、2022年4月12日)。

生活困窮者への支援については、必要に応じて実施すべきではあるが、経済対策毎に弱者支援を掲げて給付金を配るのは妥当なのか。本来、生活困窮者への支援は、常設の社会保障制度の中で行われるべきであり、一時的な給付金はあくまでも例外的な措置であるはずだ。それが恒常化してしまっているのではないか。常設の社会保障制度がセーフティーネットとして十分に機能していないのであれば、その制度を見直すことをまずは優先すべきだろう。

いたずらに財政支出を拡大させ、財政環境を一段と悪化させないためには、せめて予備費の範囲内での経済対策にとどめて欲しいところだ。

(参考資料)
「ガソリン価格抑制の補助金、5月以降も継続へ…「トリガー条項」はなお検討」、2022年4月12日、読売新聞速報ニュース
「補正予算巡り、自公に隔たり 感染拡大と物価高警戒の公明、編成強く主張細る自民とのパイプ、露呈」、2022年4月12日、朝日新聞
「緊急経済対策 「物価高騰で支援金給付」 自民提言案が判明」、2022年4月12日、産経新聞
「立憲、21兆円規模の対策発表 国民は「実行力」アピール 参院選へ」、2022年4月9日、朝日新聞

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