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フィンランドとスウェーデンのNATO加盟申請が新たな紛争の火種に

2022/04/18

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核配備の可能性も示唆するロシア

ロシアのウクライナ侵攻によって、第2次世界大戦後の欧州の秩序が、変更を強いられている。北欧のフィンランドとスウェーデンでは、長年続いてきた軍事的中立の方針に対する世論が一変している。フィンランドのマリン首相は4月13日に、北大西洋条約機構(NATO)加盟申請の是非について、「数週間以内に」決定すると表明した。スウェーデンも加盟を議論している。

ロシアは両国のNATO加盟への動きに強く反発し、前大統領のメドベージェフ安全保障会議副議長は、「両国が加盟すれば国境防衛の強化が必要になる」と牽制した。英メディアは12日に、ロシアがミサイルシステムなどの軍事装備をフィンランドの国境に向けて移動させていると伝えた。さらに、バルト海周辺の「非核化はあり得ない」と核配備の可能性も明確に示唆している。具体的には、カリーニングラードと周辺に核戦力を配備し、軍事的プレゼンスを強化する可能性がある、と警告している。カリーニングラードは、バルト海に接する港湾都市で、ポーランドとリトアニアに挟まれたロシアの飛び地領である。

両国のNATO加盟への動きによって、紛争がウクライナ以外の欧州地域に広がるリスクが生じている。

集団安全保障を定めたNATO条約5条

両国は、ロシア側と西側との間で軍事的に属する陣営を選択しないことが平和を維持する最善の方法であるという、数十年にもわたって掲げてきた方針を、共に見直す方向だ。フィンランドは1917年にロシアから独立した。第二次世界大戦中にはソ連と2度交戦し、領土の一部を奪われた。第2次世界大戦後の1948年にロシアと友好協力相互援助条約を締結している。

スウェーデンは200年間戦争をしていない。第2次世界大戦後は軍事的中立の方針を維持し、冷戦後には軍事規模を縮小した。両国は、1995年にEUに加盟したが、軍事的な中立の姿勢は維持してきた。

ただし、ロシアの威圧的な態度が強まる中で、両国は近年、情報機関の交流や演習への参加という形でNATOへの接近を強めてきていた。それをNATO正式加盟への歩みを進める議論が両国で高まったきっかけは、NATOに加盟していないウクライナに対して、NATO加盟国が武器供与は行っても、直接軍事的に介入していないことだ。

NATOの加盟を検討する際に、最も重要なのは集団安全保障を定めた条約5条である。それは、一つの加盟国に対する軍事的攻撃をNATO全体への攻撃とみなし、加盟国は攻撃された国の防衛義務を負うというものだ。そのものでは、他国の紛争に自国が巻き込まれ、自国民が命を落とすリスクがある。そのため両国は今までNATO加盟に慎重であったが、ロシアのウクライナ侵攻で状況は変わったのである。

フィンランドの民間放送局MTVの最新世論調査によれば、フィンランドではNATO加盟への国民の賛成が全体の68%、反対はわずか12%だった。スウェーデンでもNATO加盟への賛成が国民の過半数をわずかに超えており、議会でも加盟申請を支持する政党が優位に立っている。

加盟申請から加盟承認までの間に大きなリスク

フィンランドのマリン首相は「数か月ではなく数週間以内に」NATO加盟を申請するかどうかの決定を下す、と述べている。6月にスペインで開かれるNATO首脳会議(サミット)に合わせて加盟を申請する考えと見られている。新規加盟には現在NATOに加盟する30か国すべての承認が必要であり、通常は申請から4か月から1年かかる。

NATO加盟の方針を明らかにしたウクライナがロシアによる侵攻を受けた一方、NATO加盟をしていないがゆえに、NATO加盟国からの支援は武器供与にとどまっていることを踏まえれば、フィンランド、スウェーデンともに、NATO加盟に申請をしてから、NATO加盟を認められ集団安全保障の対象になるまでの間が、ロシアからの軍事的脅威が最も高まる危険な期間であると考える。

そのため、フィンランドあるいはスウェーデンがNATO加盟を申請した後に、迅速な承認を加盟国に求めるだろう。ただし、両国のNATO加盟申請がロシアを刺激し、軍事的活動の対象をウクライナから拡大させることを加盟国は警戒する可能性があるのではないか。その結果、承認には時間がかかることも考えられる。その場合、ウクライナに加えて、今年後半から来年にかけて新たな紛争のリスクが北欧地域で生じる可能性も否定はできない。

(参考資料)
"Russia Warns It Could Station Nuclear Forces in Europe if Finland, Sweden Join NATO", Wall Street Journal, April 15, 2022
「フィンランド、NATO加盟申請の「可能性高い」 ロシアは警告」、2022年4月16日、AFPBB NEWS/AFP通信
「<ウクライナ侵攻>ロシア、バルト海への核兵器配備示唆 北欧2国がNATO加盟なら」、2022年4月15日、毎日新聞速報ニュース
「情報BOX:フィンランドとスウェーデン、NATO加盟の展望」、2022年4月15日、ロイター通信ニュース
「北欧、安保中立を転換 フィンランド、NATO加盟検討 ロシアと緊張高まる恐れ」、2022年4月15日、日本経済新聞

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