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1ドル130円は通過点。市場機能を損ねる日銀金融政策の弊害が急激な円安を招く

2022/04/20

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円安進行の直接の原因は米国長期金利の急上昇

4月19日の海外市場では、1ドル129円台まで円安が進んだ。もはや1ドル130円は節目ではなく、通過点となっている。130円を超えて円安が進むと、次の目途は2002年の135円69銭となる。それに続くのが、1998年の147円66銭、1990年の160円20銭となる。90年代以来の歴史的円安水準が、いよいよ近づいてきた。

長らく1ドル110円~115円程度の水準で安定していた円の対ドルレートは、今年3月に入ってにわかに円安方向に動き、わずか1か月強の間に15円程度、10%程度も円安が進んだのである。

この円の動きは、米国の長期金利の動きとほぼ連動している。米国10年国債利回りが2%台に乗せた時点から円安傾向が強まり、現在、利回りが3%目前まで上昇する中、1ドル130円が目前となっている。

ロシアのウクライナ侵攻、それに対する先進国側の対ロ制裁措置によってエネルギー価格が一段と上昇した。インフレ圧力がさらに強まったと判断した米連邦準備制度理事会(FRB)は、利上げ(政策金利引き上げ)ペースと量的引き締め(資産縮小)ペースを加速させる考えを打ち出していった。その結果、米国の長期金利が急上昇しているのである。

このように、足元での急速な円安進行の直接的なきっかけとなっているのは、米国の長期金利の急上昇であり、その背景にはFRBの金融引き締めスタンスの強化がある。直接的な原因が米国側にあることから、日本側での政策対応を通じて、急速な円安の流れを変えることは難しい。

市場の価格形成を歪めた異例の金融緩和策

しかし、円安進行の直接的な原因は米国長期金利の上昇であるとしても、異例なスピードで円安が進む要因を別途作り出しているのは、日本銀行の異例の金融緩和姿勢と言えるだろう。

2013年に始められた現在の異例の金融緩和策は、日本銀行がかつてなく金融市場に強く介入することを通じて、政策効果を発揮させることを狙ったものだ。本来は難しい2%の物価目標の達成を目指す姿勢を示したことで、異例の金融緩和が長期化するとの期待を金融市場に強く植え付けた。また、国債やETFなどを大量に買入れることで、需給面から市場の価格形成に強く働きかけた。さらに、2016年には短期の政策金利をマイナスにするマイナス金利政策、長期金利に目標を設定するイールドカーブ・コントロール(YCC)を導入していったのである。

これらの政策は、経済、物価に目立った好影響を発揮しなかった一方で、市場の価格形成を歪め、流動性低下など市場が混乱する潜在的リスクを高めていったと考えられる。そうした副作用に配慮して、日本銀行は国債、ETFの買入れ額を大幅に減らす、事実上の正常化措置を進めてきた。

急速な円安の背景には日銀の政策による市場機能低下

ただし、経済環境の変化を映して長期金利が自由に変動し、それが経済の安定に貢献するという市場機能は、イールドカーブ・コントロールによって大きく損なわれたままである。そして、その弊害が一気に噴き出したのが、足元での急速な円安進行と言える。

特に、10年国債の変動レンジの上限である+0.25%を実際の金利が超えないように、日本銀行が指値オペなどで力づくで金利上昇を抑えたことで、先行きのさらなる日米金利差拡大観測が強まり、急速な円安進行をもたらしている。仮に、このイールドカーブ・コントロールが導入されていなければ、米国の長期金利の上昇の影響で日本の長期金利ももっと上昇しており、その結果、円安進行のペースは緩やかなものにとどまっていたはずだ。

異例の金融政策が市場機能を大きく損ねてきたことのつけが、2013年の量的・質的金融緩和が10年目に入るこのタイミングで、急激な円安という形で顕在化したのである。

米国の金融政策姿勢が変わるまでは、円安の流れは続く可能性が考えられる。しかし、日本銀行がイールドカーブ・コントロールの運用をさらに柔軟化し、長期金利の上昇を一定程度容認する、あるいはマイナス金利の解除を含めて、2%の物価目標達成にこだわらずに先行きの金融政策を正常化させる方向性を打ち出せば、円安の流れをより緩やかなものにできるだろう。

日本銀行は再び指値オペを実施

4月20日の日本市場で10年国債利回りが+0.25%に接近する中、日本銀行は再び+0.25%で長期国債を無制限に買入れる指値オペの実施を決めた。長期金利の上昇を容認しない姿勢を改めて示したのである。しかし、日本銀行の政策姿勢が物価高を助長する「悪い円安」をもたらしているとの批判が産業界からも高まる中、日本銀行が指値オペを通じていつまでも長期金利の上昇を無理やり止めることを続けられないのではないか、との見方も市場には浮上し始めている。その結果、指値オペを発表しても、10年国債利回りが+0.25%近くから大きく低下しなくなってきた。

日本銀行がマイナス金利の解除に動くのはまだ先となろうが、長期金利の上昇を一定程度容認するイールドカーブ・コントロールの運用の一段の柔軟化を実施する時期は、近付いているのではないか。それが実施されれば、日本銀行は、金融緩和効果よりも市場機能の回復を通じて市場や経済の安定を図ることを重視する方向に、事実上、政策姿勢を修正したことを意味するのである。

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