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緊急経済対策は補正予算編成を伴う形に。経済効果は+0.1%

2022/04/22

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補正予算編成の方針へ

岸田首相は、ウクライナ問題を受けた物価高への対応を中心とする緊急経済対策を、4月26日にも取りまとめる方針だ。 政府・与党は当初、本年度予算に計上されている5兆5,000億円の予備費で対応する方針だった。補正予算編成を伴う巨額の経済対策は、国民から夏の参院選に向けた選挙対策との批判を受けること等に配慮したためだ。

しかし、補正予算編成を通じた新たな財源確保を主張する公明党の意見に押し切られる形で、補正予算の編成を行う方向となっている。21日に自民党と公明党は、補正予算編成で合意した。経済対策を巡って自民党が公明党に押し切られた形となったのは、昨年、一昨年に続き3回目である(コラム「緊急経済対策ではトリガー条項と補正予算が大きな争点に」、2022年4月15日)。

補正予算の規模は2.7兆円前後になる見通しだ。岸田首相はこうした自公案を受け入れて、それに沿って緊急経済対策と補正予算編成を進める方針だ。

ガソリン補助金追加で1.3兆円強

緊急経済対策のうちガソリン価格上昇を抑える補助金制度には、追加予算ベースで1.3兆円強の支出が見込まれている。その内容は、ガソリン補助金制度の延長・拡充と低所得層への給付金などである。自公両党は、低所得の子育て世帯を対象に、子ども一人当たり5万円を給付することで合意した。

4月末が期限となる石油元売り補助金制度については、金額を拡充したうえで9月末まで延長することを政府は検討している。さらに全国平均のレギュラーガソリンの小売価格の目標を、現在の172円程度から168円程度まで下げる拡充策が検討されている。

補助金制度の延長、拡充に必要な予算のうち、今年度予算の予備費から5月分に約3,000億円程度を支出し、6月~9月分の1兆円強は補正予算で賄う方向である。

ガソリン補助金による家計の節約額は6,600円~1万5,000円

新たに延長、拡充されるガソリン補助金制度が、家計の負担をどの程度軽減するか試算しよう。5月以降、為替レートが1ドル130円、WTI原油先物価格が1バレル100ドルという現状の水準が維持されるケース1と、さらに円安と原油高が進み、1ドル145円、WTI原油先物価格が1バレル130ドルとなるケース2でそれぞれ、ガソリン価格(補助金がない場合)を算出した。それぞれのケースで、政府の補助金制度によってガソリン価格上昇が抑えられ、家計の負担が減少する金額は6,573円、1万4,928円となる(図表)。

2つのケースでは、補助金制度によって2022年の消費者物価はそれぞれ0.06%、0.13%押し下げられる。その結果、景気浮揚効果は1年間のGDPの累積効果で、それぞれ0.02%、0.04%となる。

景気浮揚効果が限られるのは、補助金制度の対象となるガソリン(及び灯油)が家計の消費に占める比率は、家計のエネルギー関係支出全体の中では決して大きくないためだ。ガソリンと灯油の支出が家計全体の消費に占める比率は2.2%であるが、電気代とガス代の比率は5.4%と、その2.5倍にも達する。ガソリンと灯油の支出は、エネルギー関連支出全体の29%と3分の1にも満たないのである。これでは、有効な燃料費高騰、物価高騰への対策とは言えないだろう(コラム「ガソリン補助金で本当に家計は助かるのか」、2022年4月12日)。

図表 ガソリン補助金制度による家計の節約効果試算

緊急経済対策の経済効果は+0.1%

さて、緊急経済対策でガソリン補助金の延長・拡充策には、今年度予算の予備費から3,000億円程度、補正予算から1兆円強があてられる。補正予算は、緊急経済対策にあてられ取り崩された予備費を復元する形となることが見込まれる。その規模が2.7兆円程度と見込まれている。このうち、1兆円程度が6月以降のガソリン補助金にあてられるため、残り1.7兆円程度は緊急経済対策に利用される今年度予算予備費の復元に利用されると考えられる。そのうち3,000億円は5月分のガソリン補助金に使われるため、それ以外の低所得向け子ども給付金などの施策に1.4兆円があてられると推定される。

その場合、緊急経済対策の規模は、ガソリン補助金追加で1.3兆円程度とこの1.4兆円を合計した2.7兆円程度と予想される。

2009年の「定額給付金」の経験から、低所得向け子ども給付金などの一時的な所得増はその25%程度が消費に回ると考えられる。その場合、給付金などの1.4兆円のうち25%分、つまり3,500億円程度が個人消費を押し上げることになる。それは1年間の名目GDPを0.06%押し上げる効果を持つ。

他方、緊急経済対策に含まれる可能性が高い、ガソリン補助金制度のGDP押し上げ効果は、ガソリン価格の変化によって変わってくるが、既にみたように+0.02%~+0.04%と試算される。合計のGDP押し上げ効果は、+0.08%~+0.10%、約+0.1%である。

緊急経済対策は本当に必要か

緊急経済対策は今年度予備費で賄うとする政府・自民党の意見と、緊急経済対策は相当規模とし、そのために補正予算編成を行うとする公明党の意見の対立は、結局、緊急経済対策の規模は予備費の範囲内に抑えるが、予備費を減らさないように補正予算を編成して補填する、という両者の妥協の産物で決着しそうだ。

しかし、合計で5兆5,000億円にも上る巨額の予備費の水準を、補正予算を編成してまで維持する必要があるのか疑問だ。予備費は国民、国会のチェック機能が十分に働かないため、本来は例外的なものであるべきだ。

またそもそもこのタイミングで、緊急経済対策が必要であるかは改めて問われるべきではないか。オミクロン株の拡大によって今年1-3月期の実質GDPは前期比でマイナスに陥ったと見られるが、まん延防止等重点措置の解除を受けて、4-6月期にはプラス成長に戻る可能性が見込まれる。

ウクライナ問題という予期しなかった事態が生じたことは確かであるが、物価高の問題は、それ以前から続いてきたものである。しかも、原油価格を見ると、コロナ問題を受けて昨年から上昇してきた幅と比較すると、ウクライナ情勢を受けて足元で上昇した幅は決して大きくない。これでは、ウクライナ情勢を機会として捉え、参院選挙を意識した経済対策を実施しようとしていると批判されても仕方ないのではないか。

さらに緊急経済対策の柱の一つである、ガソリン補助金については、既にみたように、家計が直面するエネルギー関連価格上昇による負担増のうちで、わずかな部分への対応に過ぎず、効果も大きくないという問題もある。

低所得者への支援については、必要に応じて実施すべきではあるが、経済対策毎に弱者支援を掲げて給付金を配るのは妥当なのか。本来、低所得者への支援は、常設の社会保障制度の中で行われるべきであり、一時的な給付金はあくまでも例外的な措置であるはずだ。それが恒常化してしまっているのではないか。

常設の社会保障制度が彼らのセーフティーネットとして十分に機能していないのであれば、その制度を見直すことをまずは優先すべきだろう。また、前回の景気対策に続いて子育て世帯を対象とすることは、ウクライナ問題、物価高問題とは直接関係ないのではないか。少子化対策の一環であれば、別の施策で対応すべきだ(コラム「緊急経済対策ではトリガー条項と補正予算が大きな争点に」、2022年4月15日)。などと、多くの疑問と問題点が浮かび上がってくるのである。

(参考資料)
「今国会で補正予算」、「ガソリン補助出口見えず」、2022年4月22日、日本経済新聞

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