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デフォルト状態にあるロシア国債の海外保有者はどのような行動を起こすか

2022/04/26

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ドル建て国債は「潜在的な債務不履行」に相当

債券のデフォルト(債務不履行)時の保険商品であるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を扱うデリバティブの業界団体、国際スワップ・デリバティブ協会(ISDA)のクレジット・デリバティブ決定委員会は4月20日に、ロシアが4日に期限を迎えたドル建て国債の償還・利子の支払いを自国通貨ルーブルで実施したことが「潜在的な債務不履行」にあたるとの判断を示した。

通常、主要格付機関のデフォルト格付けによって正式なデフォルトの認定と見なされるが、既に彼らはロシアの証券の格付け業務を停止していることからそれができない。そうした中、クレジット・デリバティブ決定委員会の判断が正式なデフォルト認定として国際社会に受けいれられる状況となってきた。30日間の支払い猶予期間が切れる5月4日以降に、クレジット・デリバティブ決定委員会によってドル建てロシア国債が正式にデフォルト認定される可能性が高まっている(コラム「ロシア国債のデフォルト認定で何が起こるか」、2022年4月21日)。

いわゆる地政学的な要因によって対外的なデフォルトのリスクが生じた例としては、近年では、1979年にテヘランの米国大使館で起きた人質事件を受けて、当時のカーター米大統領がイランの石油販売を停止し、海外資産を凍結した時、1982年のフォークランド紛争を受けて、英国が銀行にアルゼンチンのデフォルトを宣言するよう働きかけた時がある。いずれにしても例外的な事態だ。

投資家には裁判を起こすという選択肢

通常、債務者(債券発行者)が支払い猶予・停止(モラトリアム)を宣言する、あるいはデフォルトが認定されることをきっかけに、債権者(投資家)と債務者は債務リストラの交渉を開始し、返済元本の削減、返済繰り延べなど条件変更を話し合う。ここで条件が固まり、債務者が債権者からの信頼を回復していけば、再び債券を発行する道が開けてくる。

しかし今回のドル建てロシア国債では、そのような通常の経路を辿ることはないだろう。ロシア政府は、ドル建て国債の償還・利子の支払いを自国通貨ルーブルで支払い続けており、ドルでの支払いができないのは支払い能力や意思がないからではなく、先進国が外貨準備を凍結するという制裁措置を発動したことによる不可抗力、と主張している。そこで、債権者との債務リストラ交渉に応じることはないだろう。

その際、債権者には裁判を起こすという選択肢がある。しかし補償や資産の差し押さえ等を目的とするこの裁判には、多額の費用がかかる。加えて、ロシア側はデフォルトを認めない可能性が高いことから、裁判は長引く可能性が高い。

国債の発行条件は一般に英国法に縛られているが、そこには「目的の達成不能」という「不可抗力」に似た法原理がある。ロシアはこれに基づいて、ドルでの債務返済ができないのは制裁によるもので不可抗力、との主張を展開するだろう。

また、ロシア国債の起債条件は紛争が起きた場合の管轄地を定めていないため、債権者はどこで訴訟を起こすのかを決めるのが一段と困難になる、という問題もある。債権者が裁判を起こす際のハードルは高い。

債務交渉が決着するまでには膨大な時間も

債権者にとってもう1つの選択肢となるのは、ロシア政府に直接仲裁を求めることである。投資家と国家間の紛争の仲裁では、二国間投資条約を結んでいる国の債権者が、国に対して直接請求を行い、金銭的な損害賠償やその他の救済を求めることが認められている。ロシアは欧州連合(EU)加盟国の大半、英国、カナダなど数十か国とこのような条約を結んでいるのである。

しかしこれについても、ウクライナ侵攻、対ロ制裁を巡ってロシアが先進国と激しく対立している現状では、ロシア政府が債権者に対して、金銭的な損害賠償やその他の救済を行う可能性は低い。

結果的に、債権者はウクライナ侵攻と制裁の行方をしばらく見守る選択をする可能性が高いだろう。ロシアにとっては対外債務のデフォルトは、1917年のボリシェビキ革命以来、100年ぶりのことである。その際にレーニン率いるボリシェビキ政権は、ロシア帝国の対外債務を肩代わりすることを拒んだのである。債権者との間での債務交渉が決着するまでには、数十年の時間を要した。

今回も同様の流れとなる可能性があるだろう。その場合、ロシア政府が海外で国債を発行し資金を調達することも、長らく封じ込められることになる。それは、ロシア経済の成長を中長期的に阻む要因になるだろう。

(参考資料)
「焦点:ロシア国債「潜在的デフォルト」、投資家は法的手段を模索」、2022年4月23日、ロイター通信

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