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長期金利の上昇抑制強化でさらなる円安進行を招いた日銀金融政策決定会合

2022/04/28

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「連続指値オペの運用の明確化」で長期金利の上昇抑制を強化

4月27・28日に開かれた金融政策決定会合で日本銀行は、大方の予想通りに金融政策及び政策方針の変更を見送った。ただしやや驚きとなったのは、「連続指値オペの運用の明確化」を決めたことだ。「10年国債金利について0.25%の利回りでの指値オペを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施することとした」と説明している。

今までのように指値オペ、連続指値オペを機動的に実施するのではなく、常設の制度の枠組みへと修正したのである。これまでのように、どの水準で日本銀行が指値オペを実施するかといった憶測が市場に生じることがなくなり、債券市場の不確実性が低下することになる。

ただしこの措置は、金利上昇抑制についての日本銀行の姿勢を巡る不確実性を低下させ、債券市場の安定を狙ったという側面よりも、「0.25%を超える10年国債金利の上昇を今後も決して容認しない。その姿勢を疑うな」といった日本銀行の強い意思を示した点により重要性がある。

130円近傍まで円安が進む

今回の決定会合では、企業や国民の間から懸念が強まる円安進行に対応して、日本銀行が何らかの政策修正を行うとの観測も一部にあった。しかし、「連続指値オペの運用の明確化」はこうした期待を裏切り、それとは全く逆に、長期金利の上昇を抑制し、緩和を維持する姿勢を強化するものとなったのである。

この措置を受け、日米長期金利差の一段の拡大を織り込んで、円安が進行している。4月20日につけた20年ぶりの安値である1ドル129円40銭を超えて、現時点では129円87銭とほぼ130円まで円安が進んだ。ちなみに130円を超えて円安が進むと、次の目途は2002年の135円69銭となる。それに続くのが、1998年の147円66銭、1990年の160円20銭となる(ブルームバーグによる)。90年代以来の歴史的円安水準が、いよいよ近づいてきたのである。

日銀批判を一段と煽り政府との関係悪化

今回の措置は、日本銀行が物価を一段と高める「悪い円安」を容認しているとして、企業や家計の日本銀行に対する批判をさらに強める結果となろう。さらに、物価高を受けて緊急経済対策をまとめた政府も強く刺激するものともなろう。政府と日本銀行の関係悪化も、いよいよ本格化してくるのではないか。

長期金利の上昇を容認せず、金融緩和姿勢は一歩も後退させないとの日本銀行の姿勢は、黒田総裁が主導しているものと推察される。ただし、今回の措置をきっかけに円安がさらに進み、政府との関係がより悪化してくれば、日本銀行としては早晩、政策の微修正を余儀なくされるのではないか、と引き続き考えられる。

円安リスクの軽減に有効なのは、長期金利の上昇を一定程度容認することだ。それは、10年国債利回りが変動レンジの上限の+0.25%を超えても直ぐに指値オペを実施しない、といった現場のオペレーションで行うことが可能な政策方針の修正である。しかし今回の決定で、0.25%での指値オペを常設化してしまったことから、その手法を日本銀行は自ら封じてしまったのである。

円安抑制のために長期金利の上昇を容認するには、イールドカーブコントロールの枠組みを変更し、0%±0.25%の変動レンジを拡大するか、変動レンジを撤廃するなどが考えられる。いずれも金融政策決定会合で決める必要がある重たい決定だ。今回の連続指値オペの運用修正によって、日本銀行は長期金利の上昇のハードルを自ら上げてしまったのである。

日本銀行はイールドカーブコントロールの枠組み変更に追い込まれる可能性

この先円安が一段と進み、日本銀行が企業、家計、そして政府からも水面下で強い批判を浴びる局面では、推測ではあるが、組織防衛を意識する日本銀行の事務方が黒田総裁を説得する形で、このようなイールドカーブコントロールの枠組み変更を行うのではないか。彼らは、次期総裁人事への悪影響も懸念するだろう。枠組み変更の時期は、今後の為替動向や世論などに左右されるが、7月、9月、10月の決定会合と現時点では予想しておきたい。

円安対応での政策修正の手段としては、「政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」としている政策金利のフォワードガイダンスを修正して、緩和方向へのバイアスを削除するなどの可能性を指摘する向きもある。それについては、将来の金融政策正常化の地均しとして実施される可能性はあるだろう。しかし、円安対策としてはあまり有効ではないのではないか。

足もとでの急速な円安は、日本銀行が長期金利の上昇を力づくで抑え込み、市場機能を大きく損ねる無理な政策をしていることから生じているのである。従って、足もとでの急速な円安進行のリスクを軽減する手段としては、将来の追加緩和の期待を低下させることはあまり有効でなく、やはり長期金利の上昇を一定程度容認する方針修正が有効となるはずだ。

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