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日銀総裁記者会見:金融緩和姿勢は修正せず

2022/04/28

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連続指値オペの見直しは市場の憶測を封じるため

4月28日の金融政策決定会合後の記者会見で黒田総裁は、コロナ問題の影響が日本経済に残る中、引き続き粘り強く金融緩和を続ける姿勢を改めて強調した。決定会合では、円安進行のリスクを抑えるために、金融緩和の姿勢を微修正するとの観測も事前にあったが、そうした観測を一蹴する内容の発言となった。それを受けて、対ドルでの円安は一段と進んだ。

決定会合では、0.25%での連続指値オペを全営業日で行う方針が決まったが、総裁はその狙いを、「指値オペの有無から政策の姿勢を読み取る動き(憶測)も市場にあるが、そうした不確実性を取り除いて金融市場の安定を確保するため」と説明した(コラム「長期金利の上昇抑制強化でさらなる円安進行を招いた日銀金融政策決定会合」、2022年4月28日)。

決定会合で日本銀行は連続指値オペの方針を見直し、長期金利の上昇を抑える姿勢を強化したことで円安が進んだ。これを受けて記者会見でも円安の評価に対する質問が相次いだ。

黒田総裁は、「円安がプラスという従来の評価を変えた訳ではない」としながらも「短期間での過度の変動は、先行きに不確実性を高めて、企業の事業計画の策定を難しくする面もある。日銀は為替の動きを注視する」と説明した。

「円安は基本的にはプラス」とのみ強調していた当初と比べると、発言は幾分修正された。しかし先般の国会答弁では「過度な円安はマイナス」としていたのと比べるとややトーンダウンした感もある。円安進行を強く警戒はしておらず、円安を容認しているとの印象を与える余地のある発言であったようにも思える。実際、こうした発言を受けて、記者会見中に円安が一段と進んだ。

イールドカーブコントロールは、2016年の導入以降、変動レンジが段階的に拡大され、運用は趨勢的に柔軟化されてきた。それにも関わらず、物価上昇率が顕著に高まる現状に至って、なぜ運用を逆に厳格化する方向に動かすのかは不思議でもある。従来以上に柔軟化に頑なになっているのは、理解できない面もある。

総裁は、長期金利を厳格に変動レンジ内に抑えることで債券市場の市場機能が落ちることはないと説明したが、そうした無理な政策をすることの歪み、弊害こそが円安の急進となって表れているのではないか。

円安にも配慮して政策修正を行うべき

日本銀行の金融政策は為替を目的にしている訳ではないが、為替市場の市場機能を回復する観点から、さらに円安のマイナス面を多くの企業、個人、そして政府が強く懸念している現状のもとでは、円安は心理的にも経済活動に悪影響を及ぼす可能性がある。こうした点から、日本銀行は長期金利の上昇を一定程度容認する政策修正を実施すべきではないか。

今回の連続指値オペの方針の見直しと円安進行を受けて、日本銀行の政策姿勢に対する世間の批判は一段と高まることになろう。いずれは、企業、家計からの批判を緩和するため、政府との関係悪化を回避するために、日本銀行はイールドカーブコントロールの運用方針を見直すことで、長期金利の上昇を一定程度容認する姿勢に転じざるを得なくなるのではないか(コラム「長期金利の上昇抑制強化でさらなる円安進行を招いた日銀金融政策決定会合」、2022年4月28日)。

足もとの物価上昇は資源価格上昇が主因であり、賃金、需要の拡大という前向きの循環に支えられていないため一時的、と日本銀行は説明している。その説明は正しいが、現在の物価上昇は一時的なエネルギー関連を除いてもかなり高く、日本経済にとってはマイナスと考えられる。

この点から、日本銀行は円安リスクを減らすための長期金利上昇を容認することにとどまらず、実現性が低い2%の物価目標にこだわらずに、金融政策全体を正常化するのが自然な環境ではないか。

さらに、現状であれば正常化をしても急激な円高を招くリスクが限られるうえ、政府や国民からの支持も得ながら、円滑に金融政策の正常化を実施できる。そうすべきだと筆者は考えるが、日本銀行が実際にそうした行動を現在とる可能性は極めて小さい。後に振り返ってみると、日本銀行は正常化の絶好のチャンスを逃すことになるのではないか(コラム「日本銀行は政策正常化の絶好のチャンスを逃す」、2022年4月25日)。

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