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ロシアがドルで国債の償還・利子を支払い当面のデフォルトを回避か

2022/05/02

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ロシアドル建て国債のデフォルトは当面回避か

4月29日にロシア財務省は、5月4日に支払い猶予の期限を迎えるドル建て国債の償還・利子の支払い(6億4,920万ドル)をドルで実施した、と発表した。当初の支払い期限であった4月4日には、ロシア政府が米銀に保有するドルを用いた支払いを米財務省が認めなかったことから、ロシアはルーブル建てで支払いを行っていた。30日間の猶予期間が切れる5月4日を前に、ロシアはデフォルト(債務不履行)を回避することを狙ったと見られる。

支払いはロシア国内にあるドル準備で賄われ、米政府がその決済を容認した、と報じられている。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、ドル資金は米国の経済制裁を受けていないロシアの住宅金融機関から、米BNYメロンを経て米シティバンクのロンドン支店に送られた。現時点で債券の保有者に届いたかどうかは不明だが、届けばデフォルトは回避される。

主要格付機関がロシア証券の格付け業務を停止したため、ロシア政府のドル建て国債のデフォルト(債務不履行)を正式に認定することができなくなった。そうした中、債券の保険商品であるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を扱うデリバティブの業界団体である、国際スワップ・デリバティブ協会(ISDA)のクレジット・デリバティブ決定委員会のデフォルト判断が注目を集めてきた。同委員会は4月20日に、ロシアが4月4日に期限を迎えたドル建て国債の償還・利子の支払いを自国通貨ルーブルで実施したことが「潜在的な債務不履行」に当たるとの判断を示していた(コラム、「ロシア国債のデフォルト認定で何が起こるか」、2022年4月21日)。支払い猶予期間となる5月4日以降に正式なデフォルト認定を行なうと見られていたが、ロシアがドルでの支払いを行ったのであれば、それは回避される。

ロシアは既に事実上のデフォルト状態に

ただし、ロシアが年内合計で20億ドル程度とみられるドル建て国債の利払いの履行を続けることは簡単ではないだろう。エネルギー関連の輸出で企業が得るドルをロシア政府がドル建て国債の利払いに充てることは可能ではあるが、ロシア政府はロシア企業に輸出で得られる外貨の8割をルーブルに転換することを求めている。ルーブル買い需要を作り出し、ルーブル相場を支えるためだ。また、エネルギー関連の輸出はドル建てではなくユーロ建てが多いことに加え、今後先進国のロシア産原油、天然ガスの輸入削減・停止の制裁措置が進んでいく可能性が考えられる。国際エネルギー協会(IEA)によると、制裁措置の影響でロシアの原油輸出が本格的に減少するのは5月以降となる。

こうした点を踏まえると、ロシア政府が今後もドルで国債の償還・利子の支払いを続けることは難しく、いずれデフォルトに追い込まれると見ておきたい。

ただし、ロシア政府は既に海外の投資家からの信頼を大きく失っており、また、海外で外貨建て国債を発行して追加の資金調達を行うことは当分展望できない状況にある。この点から、ロシア政府が今後ドルで国債の償還・利子の支払いを行うか否かに関わらず、ロシアは既にデフォルト状態にあると言え、それが将来のロシア経済の成長を制約することには変わりはない。

(参考資料)
「ロシア、ドル建て債の支払いをドルで実施 デフォルト回避か」、2022年4月29日、ロイター通信ニュース
「ロシア、外債「ドルで支払い」 国内資金利用で米容認か」、2022年4月30日、日本経済新聞電子版

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