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中立金利水準が鍵を握るFRBの利上げと金融市場

2022/05/02

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「中立金利」の水準を2.25%~2.5%程度と想定

5月3・4日に開かれる米連邦公開市場委員会(FOMC)で米連邦準備制度理事会(FRB)は、2000年以来となる0.5%の大幅な政策金利引き上げ(利上げ)を実施する可能性が高い。保有資産の削減、いわゆる量的引き締め(QT)も5月あるいは6月のFOMCで開始されると見込まれる。

FOMC参加者は、5月以降も利上げを続けることで一致している。現状は、経済、物価動向を睨んで慎重に次の政策を決めるのではなく、やや機械的に利上げを進めていく局面である。そうした姿勢は、政策金利が経済に対して中立的な水準、いわゆる「中立金利」の水準まで続けられることになるだろう。

「中立金利」については、FOMC内で多少の意見の相違はあるが、平均的には2.25%~2.5%程度と想定されていると考えられる。米サンフランシスコ地区連銀のデイリー総裁は、中立金利を2.5%程度と考えているようだ。また米アトランタ連銀のボスティック総裁は、中立金利を2.0%~2.5%としている。さらに米シカゴ地区連銀のエバンズ総裁は、2.25%~2.5%としている。これらは、3月のFOMCで示された参加者が予想する政策金利(FF金利)の中長期見通しである2.0%~3.0%ともおおむね一致しているのである。

「中立金利」到達後は慎重に利上げを進める姿勢に

この「中立金利」は、正確には「名目中立金利」であり、経済(需給ギャップ)に対して中立な実質金利「自然利子率」と予想物価上昇率(期待インフレ率)の合計と考えられる。2008年のリーマンショック(グローバル金融危機)前の「名目中立金利」は、「自然利子率」2%と予想物価上昇率2%の合計の4%程度と考えられていた。そしてこの「自然利子率」は、潜在成長率とおおむね一致すると考えられる。

しかし、リーマンショック後は「自然利子率」は潜在成長率を大きく下回るようになったと考えられている。「自然利子率」は0%程度まで低下し、その後かなり緩やかに上昇しているとの見方が、FOMC内では有力だろう。予想物価上昇率が2%と従来の平均と変わらないとすれば、2.25%~2.5%程度を「名目中立金利」と考えることは、「自然利子率」を0.25%~0.5%と想定していることになる。

「名目中立金利」は2.25%~2.5%程度であるとしても、金融引き締め局面では政策金利は中立水準を抜けて引き上げられるのが通例である。政策金利は3%台に乗せるとの予想を反映して、10年国債利回りは現在3%程度まで上昇しているのである。

それでも、FOMC参加者の多くが「名目中立金利」と考える2.25%~2.5%程度まで政策金利が上昇してくれば、目をつぶって政策金利を引き上げるような姿勢は改められ、経済・物価あるいは金融市場を睨みながら慎重に利上げを進める姿勢に転じるだろう。そのため、それ以降は利上げペースも緩やかなものとなるだろう。

予想物価上昇率が中長期の平均値2%程度まで低下するかが重要

ここで問題になるのが、予想物価上昇率である。現在、10年物価連動債に織り込まれている予想物価上昇率(ブレークイーブン)は、2.9%とほぼ3%である。中長期の平均値2%程度を大きく上回っているのである。仮にこの水準が3%程度で高止まりする場合には、「名目中立金利」は2.25%~2.5%程度よりも1%程度高い水準、つまり3.25%~3.5%となる計算だ。FOMCが目指す「名目中立金利」が切り上がることで、10年国債利回りも4%に近付く可能性も出てくるだろう。そうなれば、日米金利差を反映して、円安ドル高もかなり進行することになる。

FRBが「名目中立金利」と考える2.25%~2.5%程度まで政策金利が上昇する、9月あるいは11月のFOMC頃が節目となり、FRBの利上げペースが鈍化するとともに、長期金利の上昇は止まり、円安ドル高も一巡することを基本シナリオと考えてきたい。

しかし、実際の物価上昇率の低下が遅れ、予想物価上昇率が高止まりする場合には、利上げペースの鈍化の時期も後ずれし、長期金利の水準が切り上がるとともに円安ドル高がさらに進むことになるだろう。

FRBの利上げ姿勢が慎重化するタイミングを考える上では、景気・物価動向、金融市場の動向に加えて、物価連動債や各種調査に表れる市場、家計、企業の予想物価上昇率の変化が非常に重要となる。

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