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予想通りにFOMCは0.5%の大幅利上げと量的引き締めを決定。FRBは景気失速を回避できるか

2022/05/06

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米国金融市場はFOMC決定を好感

5月3・4日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)で、米連邦準備制度理事会(FRB)は、0.5%の大幅な利上げ(政策金利引き上げ)と保有資産の圧縮、いわゆる量的引き締め(QT)の2つの金融引き締めを決定した。

ただし、決定は事前の予想通りであり、また金融市場が警戒していた先行き0.75%幅での利上げの可能性についてパウエル議長が否定的な見方を示したことを、金融市場は好感した。4日のダウ平均株価の終値は前日比932ドル高、S&P総合500種は約3%高と、2020年5月18日以来の大幅な上昇となった。

米国長期金利もやや低下し、為替市場でもドル安が進んだ。ドル円レートは一時128円台まで下落し、大型連休中に円が対ドルで歴史的安値を更新するリスクはひとまず和らいだ。

FOMCはインフレへの警戒を強める

一方、FOMCでは、FRBの物価高に対する警戒がさらに強化された感がある。声明文には「FOMCはインフレのリスクに極めて注意を払っている(the committee is highly attentive to inflation risks)」という一文が追加された。またパウエル議長も記者会見で、「インフレを押し下げるべく迅速に行動している」と説明している。

FRBは今回、政策金利を0.5%引き上げ、0.75%~1.0%とした。0.5%幅の利上げは2000年5月以来、実に22年ぶりのこととなる。

また米国債、MBSの削減を6月1日に始めることを決定した。縮小額は米国債を月300億ドル、MBSを175億ドル、合計で475億ドルとし、その後3か月かけてそれぞれ600億ドル、350億ドル、合計950億ドルに引き上げるとした。利上げ、量的引き締め(QT)ともに、概ね事前予想通りであった。

0.75%幅の利上げはFOMC内で支持が広まっていない

そうしたなか、金融市場の最大の注目は、先行きのFRBの利上げ姿勢についてパウエル議長がどのような発言をするか、であった。議長は「委員会では次の2つの会合で0.5%幅の利上げを議題にすべきとの認識が広く見られる」と発言し、0.5%幅の利上げが7月まで続く可能性を強く示唆した。ただし、5月に続いて6月、7月のFOMCでも0.5%幅の利上げとなることは、金融市場は事前に織り込んでいた。

金融市場に大きな影響を与えたのは、議長が、0.75%幅の利上げについて、次のFOMCで議論はするが、支持は広まっていない、との説明をしたことだ。金融市場で懸念が燻っていた0.75%幅の利上げの可能性が低下したとして、金融市場はそれを好感したのである。

0.75%幅の利上げの可能性については、先日タカ派で知られるセントルイス連銀のブラード総裁が、1994年11月以来となる0.75%の利上げに言及したことで、金融市場は警戒を強めていた。

金融政策は「中立金利」を意識

FOMC内では、経済に中立な政策金利の水準である「中立金利」について、2.25%~2.5%が概ねコンセンサスになっていると見られる。そして、FRBは今年年末までにその水準まで政策金利を引き上げることを、とりあえず目指しているように見える。その水準までは目をつぶって利上げを進める覚悟のようにも感じられるのである。

しかし政策金利を一気にその水準まで引き上げる場合、名目金利から予想物価上昇率(期待インフレ率)を引いた実質金利が、短期、長期と共に景気や金融市場に大きな打撃を与える水準まで一気に上昇する可能性があるだろう(コラム「中立金利水準が鍵を握るFRBの利上げと金融市場」、2022年5月2日)。

今後、インフレ圧力が継続する場合には、FRBが0.5%幅での利上げをより長く継続する可能性や0.75%幅の利上げを実施する可能性も考えられるところだ。その際には米国長期金利が3%を超えてさらに上昇し、景気や金融市場に大きな打撃を与えるとともに、日米金利差拡大から、円が対ドルで歴史的安値を更新する可能性も出てくるだろう。

急速な米利上げが世界経済の最大のリスクに

米国の急速な利上げは、ウクライナ情勢、それを受けたエネルギー価格上昇以上に、世界経済にとっての大きなリスクである。40年ぶりの物価高に対して、近年見られなかったペースでFRBが利上げを続ければ、景気が大幅に悪化し金融も動揺する、いわゆる「ハードランディング」を引き起こす可能性は相応に出てくる。それを回避し、米国経済、金融市場の安定を維持する「ソフトランディング」を実現することは決して容易なことではない。

FRBが、年末までに政策金利を「中立金利」まで引き上げることにまい進し、景気や物価の変調、あるいは金融市場の混乱の芽に十分に注意を払わない場合には、来年の米国経済、そして世界経済が失速する「ハードランディング」シナリオの可能性が高まることになるだろう。

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